3話(2) 『世界を殺す牙』
敢七は作戦を脳内で反芻しながら、羽衣や萌から貰った装備品を確認する。
まずは現在着ている制服と刀。
どちらも萌が急ピッチで改良を加えてくれた物であり、制服はある程度の防刃、防火、耐衝撃などの機能が加えられている。
刀はこの支部にある刀を改造して、闘気との親和性が高められており、敢七の闘気でもサリューが率いる魔物を倒すことができるほどの威力を出せるようになっている。
次に「フェンリルには特殊な道具は通用しないから」と羽衣から譲り受けた『洞袋』と『肩代の腕輪』。
洞袋は中の空間が拡張されており、敢七が今確認している装備品を全て中に入れてもなお余りあるほど広い。これ一つで最低でも一億で取引されると聞いた敢七は、絶対に無くさないようにしようと人知れず心に誓った。
肩代の腕輪は赤い色の『腕輪:赤』と青い色の『腕輪:青』の二つで一セットとして構成されており、四肢のどこかに通すと自動的にフィットする特殊な腕輪である。その名の通り、ダメージを肩代わりする効果を持っており、『腕輪:青』を付けた対象のダメージを、『腕輪:赤』を付けた対象が代わりに引き受けることができるのである。作戦会議の際に羽衣からは、「不可能だと思うけどサリューに『腕輪:赤』を付けて、『腕輪:青』を付けた君のダメージを押し付けることができたら理想的だね。まあ実際は弱った魔物に付けて命綱代わりにするのが関の山だろうけど」と言われていた。
他には拳銃や閃光手榴弾等、時間稼ぎに有用そうな物の使い方を確認する。すると、突如後ろから声を掛けられた。
「敢七、準備は出来たか?」
「――双一」
そこには、長くて重厚な槍を持った双一が立っていた。
双一は、羽衣達が作戦会議を終えると会議室前で待ち構えており、「敢七と一緒に時間稼ぎ程度ならできる」と無理を押し通したのだ。敢七はそんな双一に内心感謝しつつ、装備品の確認の続きを行う。
青い腕輪を左手首につけながら、ポツリと、敢七が双一に話しかける。
「なあ双一」
「どうした?」
「ちょっと聞きにくいこと聞くんだけどさ、良いか?」
「それは内容によるな。なんだ?」
敢七は、意を決して続く言葉を言う。
「羽衣先輩がさ、『徒花』って言われてたんだけど、なんでだ?」
徒花とは実を結ばない無駄な花。あれほどの強さを誇る彼女がそう呼ばれる理由が彼には分からなかったのだ。
「……ああ、その話か。くだらない話だよ」
そう言って、双一は透間羽衣という少女の性質と透間一族における信条のズレについて話し始めた。
透間一族には、二千年という永きに渡る時間の果てに研鑽された『透間流武器術』という武器全般に関する技の型が存在する。
そして、その型には闘気の練度や浮動特性によって三つのパターンが存在しているのだ。
まず一つ目が、何も能力を使用しない生身の状態でも使える基本の型『甲式の型』。扱う武器ごとにそれぞれ十種類ずつ存在しており、戦闘を行う者は習得できて当たり前、できない者は非戦闘員としてバックアップや雑用に回される。
次に、闘気を利用して武器の射程距離を変化させる発展形の型『乙式の型』。こちらも扱う武器ごとにそれぞれ十種類ずつ存在しており、ここまで習得出来てようやく透間の戦士として一人前と認められる。
そして最後に、自身の浮動特性も利用して創り出すオリジナルの型『朱式の型』。この型だけはそれぞれが独自に生み出すため、体系化されていない。この『朱式の型』を生み出すことが透間一族の頭首となる最低条件であるため、浮動特性を獲得し頭首の座を狙う人間は、必ずこの境地を目指すのである。
以上のことを踏まえて羽衣の闘気の特徴を振り返ると、武器の射程を伸ばすことができない為、覚えられる型の種類がどうあがいても基本の『甲式の型』だけなのである。
いつまで経っても基本の型しか習得できない姉。それに引き換え、肉体の成長が完了していないにも関わらず『朱式の型』まで習得している弟の存在。
羽衣が半人前の烙印を押されるまでにさほど時間は掛からず、「双一が『透間の完成形』だとしたら、羽衣は『透間の徒花』だ」と陰で揶揄されることも当然の流れと言えるだろう。
いくら修行を重ね闘気の操作や技を極めても、羽衣は透間一族では永遠の半人前なのである。
「――そんなことがあったのか」
「だから言っただろ? 『くだらない』って。人の強さを突き詰めてきた透間一族が、その権化である姉上を認められないなんてとんだ笑い話だ」
敢七は一笑に付す双一の話を聞き、納得する。
「羽衣先輩は周りが何を言っても諦めなかったんだな」
「いや違うな。姉上の中ではきっとできて当然のことだったんだ。尤も、姉上は透間の次期頭首なんて小さい地位で治まるような器ではないことを考えると、妥当な評価であるとも言えるがな! 透間一族頭首なんて雑務、姉上では役不足だ。大体――」
だんだんとボルテージが上がる双一。流石は透間の中でも上澄みの存在。大怪我をしたことを感じさせない力説っぷりである。
「二人とも準備は出来たかい?そろそろ出発――双一の包帯を替えてからにしようか」
力説のし過ぎで、胸の包帯から血が滲みだしている双一を見て苦笑しながらやってくる羽衣。
決戦の時は、間近に迫っていた。
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