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ネームレスエピック  作者: 治田治
第0章 流星光底の簒奪者 (りゅうせいこうていのユーサーパー)
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2話(2) 『狂人と狼王の妃』

 双一が荒々しく魔物を()ぎ倒していた一方、羽衣も順調に魔物の数を減らしていた。

 自身の体と刀に闘気を纏わせ、流麗(りゅうれい)な動きで敵を斬り裂いていく。

 敢七や双一の闘気の色が純白であるのに対し、羽衣の闘気には(うっす)らと青色が混じっている。


 羽衣は浮動特性(フロート)を持たない。加えて、闘気には欠点とも言うべき、ある特徴があった。


 それは、闘気が自分自身や触れたものから一センチ以上離れようとしないという特徴であった。


 闘気とは、自分の体から(あふ)れる生命力を特殊なエネルギーとして使えるようになった状態のこと。


 その用途は様々で、自身の身体能力や自然治癒力(ちゆりょく)を高めたり、武器を強化することも可能である。さらに修練を積んだ者は、発展した使い方として、魔物との戦いで双一が行ったように武器の延長線上に闘気を纏わせて武器の射程距離を延ばすことや、破壊力のある闘気自体を遠くに飛ばす『闘気弾』を使うこともできるようになる。


 一般的に闘気を扱える者は身体能力、破壊力を向上することはもちろんだが、中・遠距離の戦いにも対応できるように闘気の射程距離を伸ばす修行を行う。これは闘気の扱いが未熟な敢七も例外ではなく、現在刀身から五十センチ程は闘気を伸ばすことができている。


 しかし羽衣の場合は、いくら闘気を飛ばそうとしても彼女から一センチ離れたところでピタリと止まってしまい、それ以上彼女から離れようとしなかったのである。辛うじて触れてさえいれば刀程度の大きさなら闘気を纏わせることができるが、あまりに大きいものだと(おお)いきることができなかった。


 このような性質は前例がなく、透間の技術体系と人脈をもってしてもお手上げ状態であった。この時点で剛蔵や他の透間の人間からは、戦闘員ではなくバックアップになるよう勧められた。


 しかし、自分が最強になれると確信していた羽衣だけは、考え方が他とは異なっていた。


 闘気の射程距離が極端に短いのならば、その範囲での操作を誰にも到達できない境地まで極めれば良い。


 そう考えた羽衣は、自分の闘気が自身や触れたものから、一センチ以上離れようとしない性質を逆手に取ったとある修行を考案し、実践したのである。

 それは、自分の体から離れようとしない闘気に、さらに闘気を流し込み続け、闘気の密度を際限なく高めていくという修行である。

 この修行、理論上は緻密(ちみつ)な闘気コントロール技術があれば可能なのだが、実際に行った者は皆無(かいむ)か、もしくは少し行ってから断念する。


 なぜか?


 答えは単純。死ぬからである。


 この修行を行うと、必ずと言って良いほど高密度化に失敗して闘気が暴走してしまう。そして、暴走した闘気はどんどん大気中に放出されてしまい、体内の闘気が急速に枯渇(こかつ)する。その枯渇分を無理やり補うために身体は勝手に生命力から闘気を引っ張り出すが、引っ張り出された闘気も大気中に放出されるため、最終的に生命力が消滅し衰弱死(すいじゃくし)するのである。


 羽衣も過去幾度と無く闘気を暴走させてしまっていたが、ここで離れていかない闘気の性質が()きた。彼女の闘気は暴走しても直ぐには大気に放出されず、体の周りから離れようとしなかったため、一般的な闘気使用者よりも枯渇するまでに猶予(ゆうよ)があったのだ。

 この本来存在しない猶予時間に、もう一度闘気を自分の制御化に置くことによって衰弱死を避けてきた。とは言え最初の頃は、生死の境を彷徨(さまよ)うこともあったため、透間一族の肉体スペックがあったからこそできた芸当と言えるだろう。


 こうした自殺行為とも言える修行を毎日欠かさず続け、十年近く経ったある日、ついに羽衣の狂気が闘気の真髄(しんずい)(とら)えた。


 あまりにも密度を高められた闘気は、純白から薄らと青みがかった白色に変化した。その薄青い闘気を纏うと今までの純白の闘気とは比べ物にならない程に身体能力や攻撃力が上昇し、さらにはあらゆる攻撃を通さない絶対の障壁となった。


 今までは双一との訓練でしか、この『闘気のバリア』を試す機会が無かった。

 しかし今日この日、この任務により羽衣の闘気のバリアは魔物にも通用することが証明された。


 羽衣は、出現した魔物の最後の一体を斬り伏せると、構えを解いた。

 死屍累々(ししるいるい)の山を築き上げた羽衣の身体には(ほこり)一つ付いておらず、刀身にも返り血等は一切付いていない。


「うん。魔力を持った相手でもこの闘気は有効みたいだね。双一は……この程度じゃ相手にもならないか」


 そう言いながら双一の方を見て助力は必要ないと判断する。それから程なくして彼も周囲の魔物を全滅させていた。

 敢七(かんな)と葉月の(もと)へ合流した羽衣と双一。改めて各々の無事を確認した後、羽衣が先程語ろうとしていた違和感を口にする。


「どうにも今回の襲撃は腑に落ちない事があるね。双一、普通()()はこんな所には発生しないはずだよね?」


「そうですね。魔物が発生する()()は、本来人里離れた場所に発生するはず。それに、地面から湧き出るなんて現象は見たことも聞いたこともないです」


「そうなのか?俺はてっきりこれが()()の出現と思っていたんだけど。ちなみに()()ってどういう風に出現するんだ?」


 今回初めて魔物に襲われた敢七は、魔物との交戦経験がある双一の答えを待つ。


「以前サポートとして任務に随伴(ずいはん)した時は、虚空(こくう)に裂け目ができた感じだったな。それに、これほど魔物も耐久力があるわけじゃなかった。いくら敢七の闘気操作が未熟だからと言っても、何事も無かったかのように立ち上がるのはおかしい。これじゃあ魔物というよりゾンビか何かだ」


「うぐっ、ごめん……未熟で……」


「ああいや、そういう意味で言った訳じゃないんだ。それに俺たちが来るまでに敢七はよくやってくれたじゃないか」


「そうだよお兄ちゃん! お兄ちゃんが頑張ってくれたからみんな無事なんだから!」


 双一の無自覚の口撃(こうげき)に凹む敢七をフォローする双一と葉月のやり取りを意識の片隅に置き、思案に(ふけ)る羽衣。


(魔物は本来本能的に相手を襲うはず。でもこの魔物達は戦略的というか傀儡(かいらい)的というか……。裏に何かいる可能性がある、か)


 そう結論付けた羽衣は、念のため闘気は解除することなく双一達に提案する。


「双一、バックアップ班にこの魔物の死体は回収してもらうよう手配してくれるかい? 敢七と葉月は、今日はウチに泊まると良い。……敢七?」


 羽衣を突然凝視(ぎょうし)してくる敢七。それを(いぶか)しむ羽衣だったが、次の瞬間には敢七が彼女に飛び掛かり、抱き着いたまま地面を転がっていく。


「敢七⁉」


「お兄ちゃん⁉」


 驚く双一と葉月に対して、当の羽衣は敢七のされるがままになっていた。もちろん反応はできていたし、(かわ)そうと思えば余裕を持って躱すことができた。


 しかし、金に変色した彼の瞳の色を見た瞬間、羽衣の脳内から躱すという選択肢は無くなっていた。


 次の瞬間、羽衣がいた場所を地面から出てきた()()が音もなく通り過ぎた。


 敢七は視てしまったのだ。


 絶対の防御を誇る薄青い闘気を身に纏っていたはずの羽衣の上半身と下半身が、地面から湧き出た何かによって紙屑(かみくず)同然に引き裂かれる未来を。


 未来を視た敢七ですら、未だに何が起きたか分からず冷や汗が止まらない。


 直後、葉月の悲鳴が聞こえてきた。


「葉月⁉」


 羽衣に(おお)い被さるようにしていた敢七は、慌てて起き上がり葉月の方を見ると、葉月が地面に吸い込まれていくのが見えた。

 葉月の隣にいた双一も、咄嗟(とっさ)に彼女の手を掴もうとしたが、その手は空を切る。

 そして、地面から出てきた何かが道場の屋根に飛び乗りその足を止める。すると、その隣に葉月を抱きかかえている人物が屋根から現れた。


 長身に痩せぎすの身体、青白い顔に走っている三本の古傷。内に宿した狂気を少しも隠そうとしないその人物は、葉月を丁寧に屋根の上に降ろし、外国の騎士が高貴な存在に対して行う様に足元に(ひざまず)いた。


 そして、葉月の顔を見上げると、恍惚(こうこつ)とした表情で話し出す。



「ああ‼ ようやく見つけることができました『狼王(ろうおう)(きさき)』よ‼ 私は吸血鬼の真祖(しんそ)にして世界の救済者サリュー。さあ! 『狼王フェンリル』と子を成し、共に世界を救いましょうぞ‼」



 サリューと名乗った吸血鬼の狂気の瞳には、葉月しか映っていなかった。

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