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ネームレスエピック  作者: 治田治
第0章 流星光底の簒奪者 (りゅうせいこうていのユーサーパー)
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2話(1) 『狂人と狼王の妃』

 初任務当日の夜、夏用制服を着た羽衣(うい)はとあるビルに来ていた。このビルは透間一族の所有物であり、この地域における異能事件の対策拠点として機能している。

 武器庫から無造作(むぞうさ)に日本刀を手に取り、装備した羽衣は大広間へと足を運ぶ。その部屋にはモニターが沢山あり、この地域の現在の様子や地図など様々な情報が映し出されている。


「羽衣ちゃん昨日ぶり‼」


(もえ)。昨日ぶりだね。今日は来る予定じゃなかったはずだけど何かあったのかい?」


 大広間に足を踏み入れた羽衣は、飛んできた元気な声に視線を向ける。萌は元気一杯(いっぱい)自信たっぷりに答える。


「フフフフフーン‼ 特に何も無いよ‼」


 ドヤ顔の萌は、さらに続けて鞄をゴソゴソ漁りだす。


「何もないけど、羽衣ちゃんの初任務祝いにコレとコレを作ってきたのだ‼」


 萌が取り出したのは赤と青の二つの腕輪と、腰に巻くことができる拳二つ分くらいの袋。 


「昨日百円ショップで買った材料で作ったんだ‼ 本当は羽衣ちゃん用の刀を打つ予定だったんだけど間に合わなくて。こんな量産品になっちゃってごめんね?」


「これは『肩代(かたがわり)の腕輪』と『洞袋(うろぶくろ)』だろう? どちらも私には過ぎた代物(しろもの)だよ。ありがとう」


 萌の家系である御守(みもり)家は代々様々な武器や道具を製作することを生業(なりわい)としており、透間一族とも古くから親交がある。

 そして、人知を超えた存在に対抗する道具が尋常(じんじょう)な物のはずはなく、それぞれに特殊能力が付与されている。

 そんな御守家の中でも萌は当代きっての天才発明家。肩代の腕輪も、洞袋も百円ショップの材料で作れる量産品などではない。特に洞袋に関しては、売れば億は下らない代物である。


洞袋(うろぶくろ)は刀を入れさせてもらうよ。肩代(かたがわり)の腕輪は今回使う機会は無いと思うけどお守りとして持っていこうかな」


 二つを装備する羽衣。すると、そこに三メートル程の長く重厚な槍を整備していた双一(そういち)も声をかける。


「姉上、準備はできましたか?」


「うん。どこへでも急行できるよ」


 双一は結局サポートとして付くことになった。この決定には若干不服な羽衣だったが、現場で自分が全員倒せばいいと気持ちを切り替えていた。そんなことを考えていると、モニターの地図に異常を示す赤い点滅が現れる。


「早速()()が現れたね。広い場所だったら嬉しいけど――――ッ!」


 モニターを凝視した羽衣は言葉を途中で区切ると、次の瞬間には慌てた様子で非常階段から飛び出す。

 羽衣の尋常じゃない様子に驚きつつも遅れてモニターを確認する双一。すると彼も「マズい」と呟き、立てかけてあった刀を手に取り、すぐに飛び出して行った。


「えーと、なにがどうなったの?」


 残った萌が呆然(ぼうぜん)としながら横にいた剛蔵に聞くと、剛蔵も緊張を隠せない様子で答えた。


「萌ちゃんや、モニターの場所を見てみるのじゃ……」


「場所? ……ああ‼」


 剛蔵に(うなが)されモニターを見た萌も驚きに目を見開く。


「全く厄介なことになったのう。よりにもよって――紙鳥(かみとり)家とは」


 羽衣の初任務は波乱の幕開けとなった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ハァッ、ハァッ。葉月(はづき)! ケガはないか⁉ 足は大丈夫か⁉」


「う、うん! 大丈夫だよ!」


 現在、紙鳥家は戦場になっていた。

 家の窓ガラスは割られ、道場は扉や壁が破壊、中庭では植えられた木が引き裂かれ、七色に光っている眼鏡が踏み(つぶ)されていた。


 地面からは、狼、蝙蝠(こうもり)、猪、(わに)、果ては人の形をしている()()など、多種多様な魔物が際限なく(にじ)み出ていた。共通している点といえば、これらの魔物の色は黒く、そして紫がかった瘴気(しょうき)(まと)っていることか。


 学校での用事を済ませて家路に着いた二人は、突如魔物達に襲われた。外へ助けを求めるために中庭へ移動していたが、果てなく現れる魔物に足止めを食らい、靴を履く余裕すら無かった。

 敢七(かんな)が葉月を後ろに(かば)い、闘気を纏った竹刀で攻撃しているが、徐々に生傷が増えていた。


「葉月! 電話は繋がるか⁉」


「ダメ! 電波が入ってない‼」


「クソッ、やっぱり外に出るしかない……のに‼」


 突如瞳を灰から金に変色させた敢七は、虚空(こくう)に対して闘気を纏った竹刀を振るう。すると、爪で切り裂いてこようとする狼の魔物が、まるで予定調和であるかのように竹刀に直撃し吹き飛ばされる。

 魔物の襲撃から十分程経過した今まで、敢七と葉月の二人が無事でいられたのは、敢七の異能によるものが大きかった。


 敢七(かんな)の異能は、未来を視ることができる力『未来視』の一種。


 その名は、『暫定未来視プロビジョナル・ビジョン』。


 暫定未来視プロビジョナル・ビジョンとはその名の通り『暫定的(ざんていてき)な未来を視る』ことができる能力。

 敢七の場合は『敢七本人が介入、もしくは行動を変えなかった場合に確定して起こる未来』を視ることができる。裏を返すと、敢七が介入すれば視えた未来を変えることができるのだ。


 残念なことに、この能力は敢七自身が能動的に視ることができず、瞳が灰色から金色に変色した時に勝手に未来が映り込んでくるという欠点があった。

 しかしこの能力と付き合っていく(うち)に、彼は視える未来の優先順位に、ある程度の法則があることに気付いた。

 最優先は敢七自身、次に彼と関わりのある人物、その次に知人他人関係なくその時彼の周囲にいた人物。そして危機的な内容であるほど優先して視えるという傾向にあったため、敢七はこの性質を利用していた。


 彼は自身をあえて危険に(さら)すことによって、積極的に能力を発動してこの状況に対応していたのだ。しかし、それでも状況は悪化する一方で、徐々に追い詰められていた。


 理由は二つ。単純に魔物の数が多く対応が追い付かない事と――


(こいつらの異常な耐久力はなんだ⁉ まるでダメージを負っていない……!)


 魔物達の異様な打たれ強さ。先程(さきほど)、敢七が先読みして放ったカウンター気味の攻撃を受けた狼の魔物も、既に何事もなかったのように立ち上がっている。殺傷能力の低い竹刀での攻撃、まだ闘気の扱いが未熟で威力の増大が不十分という事実を差し引いても、この耐久力は尋常ではない。


(このままじゃジリ貧だ……! 何とか葉月だけでも……)


 内心の焦りを隠せない敢七。

 そして(つい)に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようになってきた。

 未来視を使っても後手に回るしかなくなってしまった敢七に、いよいよ不可避の一撃を与えようと、(わに)の魔物が顎門(あぎと)を開く。


「しまっ……‼」


 対処に遅れてしまった敢七はせめて葉月だけでも守ろうと左腕を鰐の魔物の前に出し、身構えたその時。

 


「――透間流剣術、甲式(こうしき)()の型『蒼下輪舞(そうかりんぶ)』」



 キィィィイイン――という耳鳴りと共に、涼し気な声が上空から聞こえてきた。次の瞬間には敢七の眼前にいた鰐の魔物の胴と頭が分かれ、荒さの全くない美しい断面を(さら)していた。

 そして、(うっす)らと青みがかった白い線が中庭にいる魔物の間をするりと抜けていく。


 一瞬の静寂。


 直後にボトリ、ボトリと音が響き、辺り一面の魔物の胴と首が分かれていた。


「い、一体何が……?」


 呆然とする敢七と葉月に、塀の方から声が聞こえてくる。


「敢七! 葉月ちゃん! 無事か⁉」


「双一⁉ じゃあ今魔物を全滅させたのは──」


「その様子だと、どうやらギリギリ間に合ったみたいだ。竹刀だけでよく耐えたね」


 最後にボトリと魔物の首が落ちた方向から聞こえてきた声の主は、カチッと刀を鞘に納め、ポニーテールを(なび)かせている。その涼し気な声は、先程敢七が窮地(きゅうち)(おちい)った時に聞こえた声と同じもの。そして、敢七が予想した通りの人物だった。


「羽衣おねぇちゃん!」


 見える範囲の魔物がいなくなったことで緊張の糸が切れた葉月は喜色満面、羽衣に向かって大声で呼びかける。


「葉月、怪我はない?」


「うん! お兄ちゃんが守ってくれたの!」


「まあ敢七がいるなら最悪葉月だけは無事か。とりあえず状況を整理したいな。色々と違和感が――」


「羽衣先輩後ろ‼」


 ス――ッと、思案に入ろうとする羽衣の隙を突くように、背後から忍び寄ってきた人型の魔物が異様に伸びた爪で襲い掛かる。

 降り掛かる凶爪(きょうそう)は完全に羽衣を肩口から捉えて切り裂き、致命の一撃を与えた――かに思われたその時。


 ガギン‼


 硬質な音が響くと同時、人型の魔物の爪が半ばから折れていた。何が起きたか理解できていない様子の人型の魔物に、羽衣は後ろも振り返らずに裏拳を繰り出す。

 敢七の攻撃に対してあれだけの打たれ強さを誇っていた魔物が、たったそれだけの攻撃で、グシャリと体を(ひしゃ)げさせ、吹き飛んでいく。


 羽衣が周囲を見渡すと、再び地面から魔物が湧き出ていた。


「話をする前に全滅させる必要がありそうだね。双一、いくよ」


「はい、こちらは任せてください」


 双一は、敢七と葉月を比較的安全な塀の方に誘導すると、身体に闘気を纏わせていく。


 そして、地面から現れた魔物の群れの中にいる内の一体、狼の魔物を見据えて(つぶや)く。


「対象指定」


 直後、双一の足元から狼の魔物の足元へと光が真っ直ぐに伸びていく。そして、光が狼の魔物の足元へと繋がる。


 次の瞬間、双一は真っ直ぐに繋がった光の線を辿(たど)るように、一直線に狼の魔物目掛けて駆け出した。

 そう、文字通り一直線なのである。当然、彼と狼の魔物の間は、多くの魔物が道を(はば)んでいるが、気に留めた様子もない。

 そして、いよいよ道を阻んでいる魔物の一体、猪の魔物と肉薄する。躊躇(ためら)うことなく攻撃を加えようとする猪の魔物に対して、双一は走るスピードを緩めない。


 双一に迫る双牙(そうが)。しかし、その牙は彼を貫くことはなかった。攻撃を食らったかに思われた次の瞬間、猪の魔物はその身体ごと彼とは別の方向を向き、まるで自分から攻撃を外したかのような不自然な動きをしたのである。


 双一の進路上にいた他の魔物も同様に、不自然に避ける動きをしていく。そして光の線で結ばれた狼の魔物に対して、もう少しで刀が届く距離へとたどり着いた。


 狼の魔物は、仲間の攻撃が通じず警戒心を強める。しかし双一は、自身の間合いではないにも関わらず、(さや)に納められた刀を振るう。


「透間流剣術、乙式(おつしき)参の型『白煌薙鳥(びゃっこうなぎどり)』」


 抜刀。そして一閃。


 静止した刀が残した、白い軌跡(きせき)の先には粗い断面を作っている狼の魔物の胴体、上空には狼の魔物の頭が舞っていた。


「――対象指定。――対象指定。――対象指定」


 魔物を倒すたびに双一が呟き、光の線が生まれてはまた魔物の首が粗い断面を作りながら宙に舞う。

 その間、双一を狙う光の線で結ばれていない魔物の攻撃は、全て不自然に外れていく。さらには、無差別で広範囲な攻撃すらも彼と、彼が光で結んだ魔物には当たらない。

 この現象を引き起こしているのはもちろん双一である。


 前述の通り、透間一族は討魔の一族であり、戦闘に特化した肉体へと変質している。

 透間一族のコンセプトは『人の身のままで人の能力を極限まで高める』こと。二千年間、肉体強度が高い人間や、闘気総量が多い人間、強力な浮動特性(フロート)を所持している人間等と結婚し、子を()してきた。


 次の世代の人間を更なる強さへ、次の次の世代の人間を更なる強さへ。


 そうして連綿(れんめん)と行われ続けた『品種改良』の積み重ねにより、透間一族は常軌(じょうき)を逸した強い身体と、一般的な人間が特殊な訓練を行い獲得できる闘気を、生まれながらに獲得することに成功した。

 しかし、『品種改良』で獲得した真の恩恵(おんけい)は先に挙げた二つですら(かす)むものであり、人体を一つ上の段階へ押し上げたと言っても過言ではないものであった。


 それは、浮動特性(フロート)の次世代への遺伝。


 浮動特性(フロート)を持つ人間は『浮動者(フローター)』と呼ばれ、彼らは一代限りの突然変異である。その子供に能力が遺伝することはない。

 透間の人間も、必ず全員に遺伝するという訳ではない。しかしそれでも、突然変異の壁を越え人類初の偉業を成し遂げたのである。

 そんな、人体の法則を塗り替えてしまった透間一族から生まれる浮動者には、一族独自の()()()信条に基づいた、能力の(かたよ)りが発生していた。


 その信条とは、『心技体、そして()()()を制する者は戦を制す』というものであり、透間の先人達は間合いが戦いにおいて最終的な勝敗を分ける要因と考えていたのだ。

 そうした考えから、透間一族は間合いを支配する術を浮動特性として獲得できるよう試行錯誤(しこうさくご)し、やがて成功した。


 そして、透間の歴史の最先端を歩んでいる透間双一は、これまでの透間の集大成とも言うべき逸材であった。

 一族の中でもさらにずば抜けて強い身体、大量の保有闘気、そして強力な浮動特性。

 誰が最初にそう呼んだかは分からないが、いつの間にか双一は『透間の完成形』、『透間の次期頭首』と呼ばれるようになった。


 そんな双一の浮動特性の名は『空隙操作ヴォイド・コントロール / 一対決闘(ソロ・エンカウンター)』。


 この能力を簡潔に説明するならば、『指定した相手と自分が必ず一対一になる能力』である。


 双一が視認した相手に対して『対象指定』と宣言を行うと、彼自身と指定された『対象』は光の線で結ばれる。

 そして双一と結ばれた『対象』は、能力が解除されるまでの間、お互いの攻撃しか通用しなくなり、その他の如何(いか)なる攻撃、妨害は全て外れていく。

 この能力はどちらかが戦闘不能になるか、光の線で結ばれてから十五分経過しなければ解除されることはない。


 任意で能力を解除することができないことがネックではあるものの、こと集団戦、特に多対一の戦いにおいて数の有利を()()す非常に強力な能力であった。

 (もっと)も、この能力の利点は、双一が一対一の戦いに必ず勝利できるほど強いことが前提条件ではあるが、『透間の次期頭首』の力は伊達ではない。その証明に彼の周りには、既に事切れている魔物が散乱していた。


 双一は新たな魔物が出現しなくなったことを確認すると、刀を鞘に納める。


「フゥ、どうやら魔物は全滅させたか。……それにしても」


 辺りを見回す双一。道場は扉や壁が破壊され、中庭も見るも無残に荒らされている。その有様に嘆息(たんそく)を漏らすと、


「ここまで破壊されているなら、槍を持ってきても大丈夫だったな……」


 そう呟き、敢七(かんな)葉月(はづき)(もと)へと向かった。

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