表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりは女子高生《Ri's》バンド  作者: azakura
2章 Teen's Music Servival 予選
6/13

1次選考

 曲の完成後は個人練習一日、合同練習二日のペースで演奏を研ぎ澄ませたリズの二人。時には高校で人を集め、演奏を披露したりもした。


 そして迎える『第3回 Teens(ティーンズ) Music(ミュージック) Survival(サバイバル)』一次選考当日。


 九月十八日(土)・関東Dグループ。


 全国からエントリーした総数五〇六組のうちの五組が、東京会場であるキャパシティ五十人規模のライブハウス『Studio(スタジオ) Beat(ビート)』に集う。観客は満員御礼。


 出場バンドが集う控え室では、


「さぁ本番だね。今日までの成果を存分に見せてやるぞ! って、リカちゃん?」


 各バンドが打ち合わせをする中、リカは強張りを表情に見せている。編んだ両手の指も落ち着きがない。


「…………」

「ひゃうっ!?」


 なこがリカの脇腹を軽く揉む。低めの地声に似つかわしくない悲鳴を上げたリカ。


「ちょっとなこ!?」

「緊張すると喉が強張るからね。なんならもう一回揉んであげようか?」

「い、いいってば」

「コーヒー飲んでくる?」

「さっき飲んだ」

「じゃあ大丈夫だ」


 なこは笑う。釣られてリカも口元を緩めた。


(なこだって緊張してるはずなのに。結成から今日までなこに引っ張ってもらった。だから……しっかりしろ、私!)


 なこのためにも、そして“変えたい”自分自身のためにも、今日は絶対に勝つ。


「お、気合注入? 準備はOK?」

「おかげざまで。私たちなら突破できる。そういう時間を過ごしてきたんだから」

「だね。んじゃ、リズの“売れる音楽スタイル”をいっちょ披露してやりますか!」



 抽選の結果、演奏順は【すいまーず】、【Elu(エル) Green(グリーン)】、【eye(アイ)See(シー)】、【キングス】、【Ri's(リズ)】となった。

 観客席で開始を待つ女子高生のマナは、会場に連れてきた友達のカナコへ得意げに、


「今日のエントリーバンドなら有力候補は男五人組の【キングス】かな。粗削りだけどパワフルな演奏が評価されてるね。あたしも気になるバンドだったりして」

「どうせボーカルの顔が好みなんでしょ?」

「なっ!? ち、違うもん! そ、そんなんじゃないんだから!」


 昨年のグランプリ【gion(ギオン)】を知って以来、今年のコンテストに注目していたのもあり、評判の高い高校生バンドの名は知っていた。


「【すいまーず】はメンバー全員が中学時代に水泳部だった四人組のガールズバンドだっけ。他には……リズ? 聞いたことないな」


 まあいい。勝ち進むバンドがあるとしたら【キングス】だろう。贔屓にもしてるし応援してる。

 そして定刻の十四時。進行役の説明後、一組目【すいまーず】の演奏が始まる。MCはなく五分以内の一曲のみを披露するルール。【すいまーず】のほか、各バンドが演奏で個性を表現してくる。


 四組目の【キングス】まで終わったが、しかし、


「緊張してたのかな、演奏が硬かったというか。これじゃあ……勝ち抜けないぞ」


 【キングス】の演奏は悪くはなかったものの、緊張は否めなかった。演奏だけなら他のバンドも及第点と言えたし、どうだろうか?


「これならどこが勝ち上がってもおかしくないし、全滅もありえる」

「みんなよかったもんね。たかが高校生だと侮ってたけど、どのバンドも満足です」


 そう話していたころ。ステージにライトが灯され、五組目のバンドが光を浴びる。たしかバンド名は【Ri's(リズ)】。マナが知る限り無名だが、


「……って、なこ!?」

「知ってるの?」

「うん。【パラレルタイム】ってバンドのギターボーカルだったんだけど、ちょっと前に解散しちゃって。新しいバンド組んだんだ。……でも、二人だけ?」


 そう。なこの左にはショートヘアのマイクを持った女子。それ以外はいない。すでに演奏を披露した四バンドは最低でも四人以上の構成であり、全国からエントリーしたバンドの中でも二人組は異色の構成だろう。


(プロでも二人体制のバンドはあるし、まあ。メンバーが集まらなかったのか、狙ってそうしたのか)


 マナがそう考えていると、横のカナコが、


「ギターの子もかわいいけど、ボーカルの子もかわいくない?」

「ほんとだ。かわいいし、クールって感じでカッコイイかも。服のセンスもいいな」


 ボーカルは半袖シャツに短パンのブランド服、ギターのなこは半袖シャツにジーンズ。色は二人とも黒で統一している。

 ステージの二人に見惚れていると演奏は始まった。


(なこはギターに専念か。ギター以外の楽器は打ち込みね。演奏で魅せるつもりはないのか? なこは無難にしてもボーカルは……お世辞にもうまくはない)


 サビの前で音を外したのは素人でもハッキリわかってしまった。ボーカル初心者だろうか。あのなこと組むのなら、どこかで経験を積んだボーカルだと思っていたが。

 まあでも、


(歌う姿はカッコイイ。ミスしても堂々としてるし、凛とした振る舞いは今日の他のボーカルにはない個性。なこの横にいても存在感がある)


 【パラレルタイム】の時は、他のメンバーには悪いがなこワンマンのバンドだったと記憶している。“なこ”と“それ以外”。けれど、目の前で音を奏でるリズは違う。

 二人だからこそのバンド。

 そして観客側に立つマナがリズを見て、聴いて、最も印象深いのは、


「いい曲」


 何よりも、耳に残る素敵な曲だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=705435306&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ