週末での苛立ち
「自分が小さくてバレーボールは出来ないと思っているかと思ってね。でも今川君の動きはバレーが出来る。メンボウのような背の高い奴とは違うスタイルでやればいいんだよ、だってバレーは6人でやるんだから。」
「だから、一年がメンボウ一人で頑張ってるから君が仲間になってくれたら嬉しくてね。」
「さっきの井ノ口先輩がやったプレーは?」
僕は何を聞いているんだろう。
「レシーブだよ。今川君はレシーブのセンスがあると思う。」
「でも、上手く返せませんでした。」
「ははっ練習してないからね。おっちょうどいいや、こうやって一人でもレシーブの練習が出来るよ、見てて。」
そう言うと井ノ口先輩は校舎の壁にボールを当てるとそれをレシーブで返す事を繰り返し見せた。
「壁打ちって言って、レシーブを一人で練習するやり方だよ。正確に出来るようになりと長く続けられるよ。」
僕はメンボウと頭を下げて、教室へ向かった。
レシーブ、壁打ちかぁと
心で呟きながら。
週末は特に予定がなく過ごす。
友達と遊ぶ約束はしない。
家の中でも十分に満喫できるからだ。
薫生と遊んだり、母さんの手伝いをしたり、自分の時間を楽しんだり。
小学校当時の週末はほとんどが
サッカーの試合だった。
本当に一年中試合だった。
大して強くないチームでもそうだった。だから今は週末の予定がないことを楽しんでいる。
でもなぜだろう。
時々、本当に時々だけどレシーブの事を考える瞬間がある。
僕にとってあの井ノ口先輩のレシーブは衝撃的だったのか?
なせ自分がレシーブの事を考えてしまうのかは自分でもわからない。
あまり重要にも思っていないし。
薫生が珍しくサッカーボールを持って友達と公園で遊んでいる。
彼は自分で公言するほどスポーツが嫌いだ。スポーツしなくても生きていけるのだそうだ。
「誠くん、お昼が出来たから薫生ちゃんを呼んできて。」と母が言ってきた。
「わかった。」
僕は階段を駆け下りて、公園にいる薫生に声をかけた。
「お母さんがお昼が出来たから帰って来いって。」
「うん、わかった。また後で遊ぼうよ。」
薫生は草むらの中に入っていたサッカーボールを持って近いて来た。草むらにあったいう事はほとんど使ってないな。
僕は歩きながら、薫生からサッカーボールを奪い取った。
団地の階段の入口に差し掛かった時、
僕は不意に壁にボールを当てて帰ってきたボールをレシーブしてみた。
何回か続いたが、サッカーボールでは重いしすぐにそれた。
昼食を食べながら、井ノ口先輩のレシーブの形はどんなだったかな?と考えている。
昼食後、薫生は友達の所へ飛んでいこうとしていた。
「サッカーボール使う?」
「もういらな~い、行って来ます」
母さんの行ってらっしゃいと車に気をつけての声が聞こえている。
僕もスニーカーを履き、サッカーボールを持って行って来ますと母さんに声をかけた。
僕は団地のあまり人が通らない場所を選んでレシーブの壁打ちを始めた。
気づいたら1時間ほど壁打ちをやっていた。しかし全然上手くいかない。
もう一回、もう一回とやっているが
回数を重ねるほどにサッカーボールが転がっていく回数も増えた。
「あークソッ。」
僕の苛立ちが短い言葉になった。
井ノ口先輩のレシーブを思い出しながらやっているつもりだが上手くいかない。何が井ノ口先輩のレシーブと違うんだ。
僕はイメージしながら
サッカーボールをレシーブする。
サッカーボールはイメージとは真逆の
方向に飛び出していく。
自分の納得のいかないレシーブに
腹がたった。
僕はサッカーボールを拾い、家に帰ってただいまもそこそこに冷蔵庫を開けて牛乳をコップに注いだ。
それを持ってソファに腰掛けゴクゴクと飲み干した。
頭とジンジンする腕を冷やす意味を込めて。