残り者への興味
見知らぬ人が話しかけてきた。
多分3年生だと思う。
「はぁ、、そうですけど。」
「いきなりごめんな、中村いやメンボウから君の話を聞いたんだ。」
そうか、この人はバレー部の人だ。
戸惑う僕に話を続け続けようとしていた時にメンボウが大声と共に駆け寄って来た。
「井ノ口先輩~、誠~」
メンボウはその先輩に頭を下げた後
僕に話し始めた。
「誠、この人は3年の井ノ口先輩でバレー部のキャプテンなんだよ。
オレが誠のこと話したら、会って見たいって言ってくれて。」
「あっそうなんだ。」
「バレーした事ないんだって?休み時間でいいから一度、一緒にやってみないか?」井ノ口先輩が僕に話しかけた。
「なぁ誠、一度やってみようや。
もちろん俺も一緒だからさ。」
ここでも僕の返事はお構いなしで二人で今日の休み時間に待ち合わせる約束をして
井ノ口先輩は爽やかにじゃぁと手を上げて去って行った。
休み時間、僕はメンボウを振り切る事が出来ずグランドの中にあるバレーコートに連れてこられた。
そこにはもう井ノ口先輩と共に3人がバレーボールで遊んでいた。
「先輩、こんにちはっす。」メンボウが挨拶をする。
僕はその声と同時に軽く頭を下げた。
「今川君、来たなよかったよ。」
井ノ口先輩が声をかけて手招きで後の3人を呼んだ。
その3人もバレー部の3年生である。
まずはやってみようという事になり
輪になってボールに触ることになった。
初めて触るバレーボールは僕のいうことを聞かず首輪を外された犬のように自由に動き周る。
先輩達はなかなか上手だと、僕をのせながらボールを回してくる。
自分では上手いとは思えなかったが
褒められて悪い気はしなかった。
休み時間の終了を告げるチャイムがグランドに鳴り響いた。
井ノ口先輩が
「また次の日休み時間もここに集まろう。」と告げると
また爽やかにじゃぁと手を挙げて去って行った。
僕にバレーはどうだった?とも聞かずに。
メンボウも次も行こうぜ!とだけだった。
今、バレーはどうだった?って聞かれても別にとしか答えは言えないが。
そうこうして、休み時間にバレーに誘われ出して早くも4日が経った。
体を動かすのは嫌いではないので
僕もそれなりに楽しんでいた。
そんな5日目、ふと井ノ口先輩と
二人でパスをすることになった。
「今川君は何も教えてないのに結構ラリー続くな。」
「そ、そうですか?」
「ちょっとコートの中に行ってみようか。」
「あっはい。」
井ノ口先輩は一人の先輩にサーブを打ってくれと頼んだ。
「ネットの向こうからボールが来るから、さっきみたいにやってみてくれる?」
「あっはい。」
ネットの上からボールがやってくる。
コートの外から見る限りではそんなに難しく思えなかった。
僕の中では足ではなくて手でやれるから簡単だろうと思っていた。
山なりにぼーるが来る。
僕は落下点を予測してボールを目で追いながら素早く入った。
と思っていた。
落下点に入った僕にボールはスピードをあげて向かってくる。
僕は反射的に顔を背けた。
顔を背けると体はつながっているので
おのずと腕もボールを避けた形になる。
案の定ボールは僕の右腕にあたり、
右手後方に飛んで行った。
ネットを挟むとこんなに違うのか。
「ちょっと入りすぎたようだね。見てて、もう一回いいか?」
井ノ口先輩はたったままでコート向こうのボールを見る。
サーブを打つ先輩は僕の時とは違って、
上からサーブを打って来た。
僕はネットのすぐそばで正面に近い形で井ノ口先輩を見る。
僕の時と明らかにボールの速度が違う。速い。
井ノ口先輩はちょっと腰を落としながら、落下点に入り、両方の腕の真正面でボールを捉えた。
そのボールは緩やかな弧を描いて僕の腕に収まった。
何が違ったのだろう?
考えごとをした僕ははっと顔を上げると井ノ口先輩が近寄って来た。
「上手くいきすぎたよ。」
「いや上手いです。」
笑顔の井ノ口先輩はネットを眺めながら言った。
「近くで見るとネットって高いだろ?
このネットの上からボールをアタックする事が点につながるスポーツだけど、俺でも中々、ネットを超えてボールはさわれないよ。でもネットを手が超えなくても、バレーボールは出来るんだ。」
「・・・」
ここでチャイムがなり僕は井ノ口先輩と話しながら校舎へと歩き出した。