入学式1
「いつまで、寝とるか!遅刻するぞ!」父の怒鳴り声で目が覚めた。
遅刻ってなんだ?
そうか、僕は今日から中学校に入学するんだ。
僕は顔を洗い、朝食を済ませ、
真新しい学生服に袖を通した。
まだ146センチしかない僕は
誰が見ても学生服に着られているように見えるだろう。
本当に遅刻しそうだったので僕は小走りで学校に向かう。
僕の通う中学校は2つの小学校から集まる。
簡単に言うと半分は知っていてもう半分は初対面。
やっぱり緊張する。
「よう、誠。」「おう、誠。」
僕はなぜだか、やんちゃな友達から声をかけられることが多い。
無視して行きたいところだがしっかりとついて来られる。
もう少し急いで欲しいのが本音なんだが。
なんとか遅刻を免れれて、教室に入り自分の席を確保した。
見慣れた顔を見るとホッとする。
「おっセイちゃん、おはよう」
君は誰だ?なぜ僕を知ってる?
彼は恵太と言って違う小学校のやんちゃ代表のような奴だ。
僕の名前を知っていたのはすぐにわかった。
その後を豪太と敦太が教室に入ってきた。
この二人は僕の小学校のやんちゃ代表で同じサッカークラブに入ってた。
すぐにこの3人は骨太三太と言われちょっとした中学の有名人になる。
この二人は僕の父が他・の・大・人・と・違・う・事を十分知っている。恵太もそれを教えられたのだろう。だから僕はやんちゃな彼らにも
よく声をかけられる。
うわの空で彼らの話を聞き流していると体育館に集合する事になった。
ホッとなどはしないのはもう慣れてしまっているからだ。
入学式は何事もなく始まった。何事も
なかったのは始まりだけで校長先生の話もPTA会長の話も、来賓の方の話もが雑音の中、時には大声の中何とか
終了していった。
そんな中、入学生代表の挨拶が始まる。その代表は何を隠そう今川 誠セイ。僕である。
小学校の先生が台本は一緒に考えるから代表の挨拶をして欲しいとしつこく
勧誘され先生の困っているのが伝わって渋々オーケーをした。
だがこんな状況は聞いていない。
緊張と焦りは打ち寄せてきたが、
考え方を変えてみた。
誰も聞いてないんだ。
それならさっさと読んで終わらせよう。僕は名前を呼ばれステージに上がった。
そうは思ったものの大勢の人を前にすると自分の顔が耳が赤くなるのがわかる。僕はまぶかに台本を眺めて読み出そうとした瞬間、
「セイっちゃん、しっかり~」
「ちゃんと聞けよオイ!」
「が・ん・ば・れ誠!」
あ~あの骨太三太が応援してるのか
茶化してるのか、どちらとも取れる大声をあげた。
するとあろうことかみんなが僕を注目する。
誰にも気づかれないで読み終える作戦を立てた僕の計算は始まる前に狂って、
自分の顔が赤くなるのがわかる。
それでもは始めないと終わらない。
僕はそれでは台本が見えないだろうと言われるくらいに頭を下げて読み出し
異様な盛り上がりを見せながら何とか読み終えた。
席に戻った僕はしこたま汗をかいていた。
入学式でこんなに汗をかくとは思ってもいなかった。
この入学式の中でもう一人、
入学式でこんなに汗をかくとは思っていなかった人がいた。
佳愛のお母さん和子さんだ。
彼女は入学生の保護者代表で挨拶をする事になっている。
青ざめて、冷や汗が流れているのを隣の母が気にして声をかけた。
「すごい汗よ、どこか調子が悪いんじゃない?大丈夫?」
「こ、こんなに騒がしいなんて思ってなかった。
野次なんか言われたら・・・引き受けなきゃよかった。」
「何を引き受けたの?」
「私、代表で挨拶しないといけないの、でももう無理。」
和子さんは今にも気を失いそうなくらいに顔から血の気が引いていた。
「どうしても無理?」と母。
うんうんと頷くだけで返事も出来ないくらいになっている。
「よしわかった。!」