初日終了
稲尾先生に挨拶をして初日の練習が終わった。
「メンボウ、ボールは部室に持ってくぞ。」
「あっざぁす。」
「ありがとうざぁいます。」
2年の先輩がボールは片付けて部室に運んでくれた。
僕とメンボウは体育館にモップをかけながらお礼を言った。
僕らはまだ部室を使えない。
体育館の隅で着替えながらメンボウが話しかけてきた。
「本当ならネットも片付けるんだけど、今日はママさんバレーが使うからラッキーだぜ、
で、どうだった誠?」
「うん、緊張してちょっと疲れたかな。」
「初めての練習だからな。でもだんだんと慣れていくぜ、
それに今は体育祭の練習もあって基礎が多いけどな。」
「そうなんだ。でも僕にはちょうどよかったかもしれない。」
「そうだな、みっちり基礎練だな。」
「うん、長谷部先輩は優しいよね?」
「おう、俺も部活入った時は長谷部先輩に教えてもらった。」
「やっぱそうかぁ、長谷部先輩は優しいしレシーブが上手いよね。」
「そうなんだよな。基本がしっかりしてるのは井ノ口先輩と長谷部先輩だと思う。
でも長谷部先輩はレギュラーじゃないんだぜ。」
「えっそうなの?」
「おう、長谷部先輩はレシーブ上手いけど、ポジションが井ノ口先輩とカブるんだよな、
それでちょい背もあるからリベロさせんのももったいないのかもな。」
「リベロ?」
「あぁリベロって守り専門のポジションだよ。なぁに練習してたらわかるよ。将来、誠がやるポジションになるからな、ってか今もまだリベロは定着してないから誠もレギュラー狙えよ。」
「まだ今日、始めたばっかなのに出来ないよ。」
「そう言うなよ、稲尾先生は見てないようで見てて、考えてないようで考えてるんだと。」
「誰が言ったの?」
「井ノ口先輩だよ。この前3年が話してるの片付けしながら少しだけ聞こえた。」
「そうかなぁ、でも人数も多いし、僕が思ってたより2年の先輩が多いよね。」
「そこな、俺たちと入れ替わりの、え~と今の2年が1年の時の3年の先輩が強かったんだって、
言ってる意味わかる?」
「わかるよ。メンボウ自分で言っててわかんなくなったんじゃないの。」
「わかってるよ!まぁそれで当時の3年のエースがハーフの人でスゲェアタック打ってたらしい。
だから今の2年はその事聞いて入った人が多いらしいぜ。」
「そうなんだぁ、アタックとかまだ想像つかないよ。」
「まぁそうだな、今うちの部でアタック上手いのは麻生先輩なんだよなぁ。」
「そうなんだ。」
「そうなんだよ。運動神経はいいな。麻生先輩も小学校でサッカーやってたみたいでバレー始めた中学からって聞いた。でもよ~自分大好きがにじみ出てんだよ。だから他人の事どうでもいいみたいな?思いやりないみたいな?」
「そうなんだぁ。なんか嫌だなぁ。」
「今日もそうだったけど、でもあの人が言うのあんま気にすんなよ。先輩達みんなが言ってる。きりがないんだってよ。俺もあんまり気にしてないってか、話しかけられない。」
そう言ってメンボウはガハハと笑った。
着替えが終わり、メンボウと正門を抜けた始めの横断歩道を渡って左に曲がって約100メートル歩く所で
メンボウとは別れた。
夕陽が傾きかけている空の下を僕は家へと向かう。
ふと周りを見ると僕と同じように部活帰りの生徒が多いことのに気がついた。小学生の頃の練習終わりとは違う感覚がある。それは何かと言われると説明は難しい。
また帰宅部もあれはあれでいい時間だったと思う。
ただ同じ放課後の時間で感じる空気がこんなに違うのかと思いながら。
お腹が減ったとお腹が合図を出してきたので少しだけ早足で家へと向かった。