心地よい風向き
僕はズキズキと痛い腕にボールを抱え、微温くなったココアを口に運びながら家に着いた。
ドアを開け、ただいまと声をかけて
中に入ると薫生はソファで寝ていて
母さんは薫生の横で読書をし、
父さんはベランダで外を眺めていた。
「おかえり。疲れたでしょ。」
母さんが静かな声で話した。
どうだった?と聞かないのが母さんの優しさであり、母さんは結果にはこだわらない
、いかに全力を出しかたが大事といつも言っている。
父さんがベランダから中に入って来たところで僕はグッドサインをしてみせた。
「まずはゆっくり風呂に入ってこい。」
僕は軽く頷いてお風呂に入った。
「あぁぁ~気持ちいい。」
目をつぶって呟いた。
このまま眠ってしまいそうだ。
「絵麻ちゃ~ん、ビール出して~な。」
父さんの声がかすかに聞こえる。
「おいっ寝とらんめいな?」
僕はその声で目を覚ました。
「寝てないよ。」
どれくらい寝ていたんだろう。
お風呂から上がると薫生も起きていて
母さんが温め直したチキンとバーガー、それと野菜スープが並んでいた。
僕は話しが止まらなかった。
父さんは薫生とテレビを見ながら
しかし耳はこちらに傾いてニヤニヤと聞き、母さんはそれで、それでと
僕の話を前のめりに聞いてくれている。
野菜スープはもちろんだが、温め直したチキンとバーガーがこんなに美味しいかったことはなかった。
次の日、父さんと母さんはおばあちゃんを病院に迎えに行きそのまま伯母さんの家に下ろして
、僕と薫生を拾いに帰って来た。
僕はそれまでの間ずっと寝ていた。
こんなに長く寝たのはどれくらいだろう。
僕と薫生はいとこのお兄ちゃん、お姉ちゃんそして久しぶりに
おばあちゃんに会えてすごく興奮している。
この伯母さんの家は大所帯でおばあちゃんが入院する前はよくここに集まって食事をしていた。
お酒が入ると父さんとおばあちゃんは
よく喋りそれに伯母さんや叔父さん
時には長女のお姉ちゃんも参戦しものすごく盛り上がる。
父さんはこの食事の場が好きでいつも
最後までおばあちゃんと座っている。
僕も薫生もいつも楽しくてしょうがない。
母さんはそれを困った顔で微笑みながら、伯母さんとコーヒーを飲んで待っている。それが毎回である。
今日、僕は隙をみておばあちゃんが座っているソファの隣に行った。
「おばあちゃん、元気してた?」
「セイちゃん久しぶりに顔が見れた。いつでも元気よ。あなたは中学校はどう?」
「うん、楽しんでるよ。」
「それが一番いい。あらっどうしたのその腕は?」
長袖で隠していた腕はを見つけられた。
「あ~これ、大丈夫だよ。おばあちゃんそれよりね僕、バレーボール部に入るんだ、
おばあちゃんバレーボール知ってる?」
「知ってるさ~、おばあちゃんもしよったんだよ。」
「ホント!?」
「若い頃ちょっとだけどね。楽しかったよ。そうねセイちゃんバレーするの楽しまないかんよね。」
「うん!」
そんな話をおばあちゃんとしていたら、父さんが来てどけどけと僕を押しのけておばあちゃんの隣に座り
また美味しそうにビールを飲み出した。
美味しい食事、楽しい会話、そして
おばあちゃんにも会えて僕はホッと
したのか、ウトウトとなってしまってる。
「なん誠、眠いとね?」
お姉ちゃんの一人が気づいて話しかける。僕は首を縦に降るのがやっとだった。
「セイ君は昨日戦ったの、だから疲れてるの。」薫生がお姉ちゃんに説明している。
「誰と戦ったの?」
「壁と。」
「何?壁?なんで壁と戦ったの?」
「わかんないけど、壁と戦うって決めて勝ったらしいよ。」
それを聞いていたお兄ちゃんお姉ちゃんは大笑いしていたが
伯母さんの布団でゆっくり寝なさいの声だけが聞こえ
いとこのお兄ちゃんに抱えられたところで僕の記憶はなくなっていた。
後から薫生から聞いたが、
父さんは飲みかけのビールを母さんから取り上げられ、
コーヒーを渡されてそのあと強制的に布団へと送られたそうだ。
僕は心地よい空気の中で眠につき
楽しみに月曜日を待った。