我慢のハーフタイム
権之助は無言であごひげをさすった。
「はいコーヒー。」
絵麻が権之助にコーヒーを差し出した。
「ありがとう絵麻ちゃん。」
「熱くなったり、諦めたりするのは伝わるよ、選手達じゃ見えない聞こえない事を伝えるのが権ちゃんの役目だと思うけど、最後まで諦めなければ何が起こるかわからないのがスポーツなんじゃなかったっけ?たとえそれが勝てなかった試合でもね、んん~権之助君。」
「そうやったね、そうたい。見てる俺らが勝手に試合内容ば決めたらいかんかった。さぁこれからいっちょガツンッといってみよか~、あっちぃぃぃ!」
権之助はコーヒーを持っているのを忘れて手を叩こうとして軽いヤケドをした。
ノーマンズのボールから再開されたが案の定すぐにボールを奪われてほとんどの時間がノーマンズのゴール前で試合が行われている。
ピッピピー
「ハーフタイム」
冗談も飛び出すほど余裕な表情のブルーウッドFC とは対照的にブレイスは1人怒っており、デフェンス陣を中心に疲労感が漂うノーマンズFC 。
「言いたかないけど俺にボールを集めないから2点も取られるんだよ。」
ブレイスがベンチに腰掛けながら言った。
「言いたかないなら黙っとけよ、ほとんどお前がボールを失ってからピンチになってるんだよ。」
ウイリーが我慢出来なくて言った。
「なんだと!」
ブレイスがベンチからガバッと立ち上がってウイリーを睨んだ。
「やめろ、本当の事を言われて怒るな。」
フォープスが続けて言った。
ブレイスはフォープも睨んだ。
「ウォホン、どう言っても2点を追いかけないといけない状況には変わりない。デフェンス陣を楽にするには・・もっとブレイスにボールを集めて攻撃のチャンスを作るしかない。」
ステーブがそう言い放った言葉に一同絶句した。
ここ後に及んでまだブレイスにボールを集めろと言うのか、他にアイデアやアイテムがあるだろうにそれを提案もしないのか。
「こいつはダメだ。」
フォープスが呆れ声でそう言い放った。
「ハァァ、サイドに振られる対応をなんとかしないといけないな。」
ため息と一緒にレイアンが言った。
「あぁそうだな、誠にばかり負担はかけらないなんとかシュートを打たせない事をやらないとな。」
アインがそう答えた。
「ウイリー落ち着いて。」
誠がウイリー横に行き肩に手を置いた。
「うん、でも誠達は精一杯やってる俺はわかるよでもあいつは・・・俺も誠達の力になりたいよ。」
ウイリーはそう言ってうつむいた。
誠はベンチで歯がゆい思いをしてるウイリーのためにももう点はやりたくないと思い、ネイフは黙ってスパイクの紐を結び直した。
「前回うちが負けたチームとは思えないな。」
テリーが立ったままスポーツドリンクを飲みながら言った。
「ああ、重要なポジションに適切じゃない奴がいるとあんな感じになっちまうんだな、そのためのコーチだろうに。」
ブライアンもそう言いながらスポーツドリンクを口に含み、チラリとノーマンズベンチの方を見てフッと笑った。
「ウイリー落ち着くんだ。」
ウイリーと誠の後ろからウイリーの父親アレックス・ブリッジが声をかけた。
「だって父さん。」
「お前の気持ちはわかっている、私もプレーヤーだからね。だからチャンスを待つんだ必ずチャンスは来るから。」
「・・・うん。」
ウイリーはうつむきながら返事をした。その背中をまた誠が優しくさすった。
「寒さで体が固まって動けないねズズッあ~。」
薫生がみそ汁をすすって言った。
「なに?」
権之助が振り向いて聞いた。
「ほらあいつ、ベンチコートにくるまって寒すぎて貧乏ゆすりしてるけどアップしようともしない。あれは最悪の場合ケガするね。」
薫生が箸でブレイスをちょいちょいと指しながら言った。
「こぉら薫生ちゃん、行儀が悪いよ。」
絵麻が注意をした。
権之助はため息よりもチッと舌打ちをしてしまった。
後半が思いやられる雰囲気だ。