ゆうきのココア
夕食の片ずけの手伝いをしていても
腕は少しジンジンする。
「二人共ありがとう、後はできるから。」
母さんからそう言われ、僕は歯を磨き自分の部屋に行きベッドに横になった。
「どうもコツが掴めないなぁ。
明日、メンボウに聞いてみよう。」
僕はレシーブの事を考えながら眠りについた。
次の朝、僕はガバッと起き上がり
「しまった。」と呟いた。
体育祭が近く、体育祭の練習に時間を取られる。休み時間もそうだ。
僕は早めに学校に行ってみたがやはり
メンボウは早く来るはずもない。
しかし、僕は隙間を狙ってメンボウに
話しかけた。
「メンボウ、レシーブを教えてくれないか?」
「レシーブ?誠、バレー部に入る気になった?」
「違うけど、いや、いいから教えて。」
「けど時間がないよな、どうする?」
「う~ん、コツだけでも教えて。」
「コツかぁ、バレー部に入ったら・・わかったよ。」
メンボウは僕がしつこいという顔をしているのに気づきレシーブの方法を
短時間で話した。
その日の夕方も団地の練習場へと行って壁打ちを時間いっぱいまでやった。
メンボウに教えてもらった事を思い出しながらやってみたが40回そこそこで終了した。
腕の痛みはしっかりと増してはいっているが。
父さんが帰って来るまでの時間で
夕飯の支度をしながら母さんが話かけてきた。
「なんかいつもと違う感じがするけど、どっか痛い?」
「いや、別に。」
「ほんと~?」
「ほんとだよ、別にないもないよ。」
とは言ったものの母さんに自分が考えてる事を言った方がいい気がしている。
でもタイミングというか言う気がまだでない。
「そっか、それならいいけど何かあるのなら話してほしいなぁと思っただけ。
何にもないならそれでいいよ。」
あっ母さんが話を終わらそうとしてる。言う機会が無くなるのはイヤだと思った。
「母さん、あのね。」
「うん、どうしたの?」
「・・・あのね。」
「うん、ちょい待って。」
母さんは台所の火を止め、包丁をまな板の上に置き、僕にココアを作って差し出すと目の前に座った。
「はい、どうしたの?」
僕はココアの入ったカップを手で包む。ココアの暖かさが勇気をくれた。
「あのね僕、バレー部に誘われてて。」
「うん、それで?」
「それで1週間待って欲しいって言ったんだ。」
「どうして?入りたくないの?」
「正直、迷ってる。けど1週間で壁打ちって一人でするレシーブを連続100回出来たらバレー部に入ろうかと思ってるんだ。」
「そうなんだね。」
「もし出来たらバレー部に入ってもいいかな?」
「もちろん!セイ君が挑戦して、
自分が決めた事をやるのは賛成!」
僕はこの言葉を聞いた瞬間にココアを一口飲んだ。
ホッとした味が口に広がった。
「でもバレーボールかぁ。」
「母さんはやったことある?」
「母さんは学校の体育でやっただけかな。」
「そうかぁ僕は先週、井ノ口先輩たちとメンボウとで初めてバレーボールに触った。」
「教えてもらったの?」
「う~ん、ちょっとだけ。後はバレーで遊んだって感じかな。」
「そっかでもよかったね。何かやってみようと思えるものが見つかりそうで。よし晩御飯作っちゃおう。」
そう言って母さんは立ち上がり、台所に向かう所で僕はまた母さんに声をかけた。
「母さん、あのね父さんには・・」
「まだ言わないで、でしょ?」
「うん。」
母さんと僕は微笑んだ。
僕はココアをゆっくりと一口、一口
味わいながら飲んだ。
こんなにココアが美味しいとは。
夕食も終わり、寝る準備も終わった僕はベッドに横になった。
目標にはまだまだ遠いが、今日の僕は何か達成感でいっぱいだ。
自分のやってみようと思う事を誰かが応援してくれる事が
こんなにも気持ちを前向きにしてくれるとは知らなかった。
しかも母さんは僕の話を真剣に聞いてくれた。その事が僕はすごく嬉しかった。
「あ~ココア美味しかったぁ」
目を瞑り、独り言を言いながら
ゆうきをくれた母さんのココアの美味しさを思い出しながら
僕はそのまま眠りにについた。