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オーデナリージャンプ  作者: 市丸 時化人
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サッカーなんて大嫌いだ!


「そうじゃないだろ!」


僕はサッカーが嫌いだ。

いつもは温厚な父が激変する。


小学校に入ると父がサッカーをずっとしていた事とその延長で少年サッカーと関わっていて、僕の意見とは関係なく地元のサッカークラブへと入会させられた。


このチームはいわゆる弱小チームだ。

低学年の時は、体を動かす事が好きだったのでサッカーは嫌いではなかった。


しかし、高学年になると上の代からの

口撃、父からのプレッシャー。


最上級生になるとさらなる、父からのプレッシャーそれと同学年の仲間はちょっとしたヤンチャな奴ばかり。


気が全く合わない。


この頃はサッカーが嫌で嫌でたまらなかった。


なんの成績も達成感もないまま少年サッカー時代が終わった。

正直ホッとしたと同時に中学に入ってもまたサッカーを続けないといけないかと思うと憂鬱になったが、考えない事にしていた。


入学式も近くなったある日の夕食、

母がこう切り出した。


「中学に入ったら、誠には好きな部活をさせる。何もしたくなかったら、それもよし。それでもサッカーをさせると言うなら、一切あなたは関わらないで!」


母は小さく、童顔で一見可愛らしい雰囲気なのだが言う時ははっきりと物事を言う性格であり、

その言う事は筋が通っていて時にはぐうの音もでない。


「えっなんでとつぜん?」と父が

全然考えてもいなかった事を言われて焦りながら答えた。


「小学校の時のあなたのあれは何!

あれは指導でも何でもない。ただの脅し!」


やっぱり父はぐうの音も出なかった。


僕は母の突然の発言に喜びを隠すのがやっとだったと同時に

父の様子が気になりチラッと顔を覗き込もうとした瞬間に父が口を開いた。


「まぁしゃあないね。サッカーやらんでいい。後は自分で好きなもんば探せばいい。」

そういいながら、ビールをグビッと飲み、サッカーよグッドバイといわんばかりの表情を見せた。


母は何を格好つけて言ってんのという顔しながら父の飲み干したグラスにまたビールを注いであげた。


サッカーをしないでいいのはすごく嬉しいけど、

父の言葉が期待外れというか拍子抜けというかどうにも気になっていた。




その夜、どうしても父がすんなりと僕がサッカーをやめる事に同意した事が気になって仕方がなかった。

でも、聞くのに勇気がいる。

なんせ僕の父親は根っからの九州男で女の人には弱いが男にはめっぽう強い。


ここら辺の不良は他の大人には知らん顔をするが、父には挨拶をするくらいだ。

挨拶されたら挨拶し返すから彼らもするんだろうと思う。


こんなエピソードもある僕がまだ小さい時、僕を自転車に乗せてお使い中、

前に不良が道いっぱいに歩いていた。

すると父は「誠、鳴らせ!」

僕は訳もわからず、チリンチリンとベルを鳴らす。


すると誰に鳴らしてんじゃ、コラ!と

勢いよく振り向いた彼らの顔がギョッとした顔になったのは覚えている。


その夜、誠がいるのにそんな事をして!とめちゃめちゃ怒られて、シュンとした父の顔も覚えている。

そんな九州男の父だ。


僕は夜空を眺めながらコーヒーを飲む父に意を決して聞いてみた。

やっぱりサッカーやれって言われるかもしれないと内心ドキドキしたが

聞かずにはいられなかった。


「ねぇ、お父さん。」


「ん、なんやどした?」


「中学で僕はサッカーを・・・」


「あぁ~その事か、自分の好きな事すればいい。」


「なんで?」


「ハハッ、俺もお前のじいちゃんに

野球をやらされてた。家に帰っても素振り、素振り。嫌でたまらんかった。

そんな時にサッカーと出会った。すぐ虜になったな。それからサッカーを始めた。」


「・・・」


「その時、じいちゃんは何も言わなかった。逆にサッカーの世界に引き込んだ形になったけど、野球やってほしかったろうと思う。」


「・・・」


「でも、俺はサッカーが楽しくてたまらんかったから野球はせんかった。

今その事が返って来た感じか(笑)、お前がサッカーをして、サッカー選手になってくれたら嬉しいと思っとった。でもそれはお前の夢じゃなくて俺の夢やった。俺はサッカーが好きだ、

だけどお母さんに言われて、強制はいかんことに気がついたよ。

お前の好きな事をすればいい。この話はおしまいや。はよ寝ろ。」


「おやすみ。」


父さんも同じ事をしたのが、妙に

おかしく嬉しかった。


僕の大好きだった、じいちゃんが

「誠、よーじいちゃんの仇ばとった。」と笑ってるように感じた。


自分の中のつっかかりが取れて

ホッとしたのか眠気が襲って来た。


そのまま僕は素直にベットに向かい、素直に父の言葉を受け取けとり眠りについた。




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