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Dear.×××  作者: 霧藤
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ep.01坂上瀧拿の場合【前編】

この世には誰も手に入れたことのない幸せな果実がある。

それは私たちの気づかないところで日常に存在し、いつも私たちのそばにある。



しかし、誰もそれを手に入れることなんて出来ないのだ。

その果実はそこに存在し、ここには存在しないものだからだ。




それでもいつかは誰かがその果実を手に入れる。

そういう風にこの世の中は出来ている。

そうでなければならないのだ。

だから果実を手に入れることが出来ない私たちは、

恋をし、人を愛し果実への欲望を満たす。





それが例え自己満足のようなものであっても、

私たちの世界はそういう風に出来ているのだ・・・・・・。






『ep.01坂上瀧拿さかがみたきなの場合』





中学校生活最後の年を迎えたがいまだに実感がわかない。

自分のクラスを友達と確かめ合い、喜び、悲しむ。

いつもの調子で二年のクラスへと向かいそうになる足を新しい教室に向けた。



そこには当たり前だが見知った顔があちらこちらに見える。

去年同じクラスだった者。三年間同じクラスだった者。

初めて同じクラスになる者。



彼とうちは三年間同じクラスだった。




「坂上また同じクラスかよー」

「柊こそまた同じじゃん」



柊渚ひいらぎなぎさ

彼は三年間ずっと同じクラスで過ごしてきた。

そして私の所属している女子ソフトテニス部の部活仲間であり、

親友である櫻井茶子さくらいちゃこの想い人。




「瀧拿ー、」



振り向くとそこにはボブカットの髪の毛をふわふわと揺らしながら

茶子がこちらに走ってきた。




「茶子、こちは同じクラスだね」

「だね〜。

今年も瀧拿と離れたらどうしようってずーっと不安でさぁ」

「あははは。

茶子かわい〜ぃ」

「だってぇ!」



むぅ、と子供みたいにピンク色の頬を膨らませる茶子。

すると茶子はうちの後ろにいた柊に気づいた。



「柊君も一緒なんだ、よろしくね!」

少し頬を染めながら顔を緩めた。




親友の恋を応援するのも友達・・・・・・。

そんなの分かってる、だけど・・・・。



なんだろう?

今、少しだけ胸が痛んだ。

チクリと痛んだのは気のせいかもしれないと今は思うしかなかった。




それでも、この先の出来事がうちをこんな風にまで変えてしまうなんて

今は思ってみなかったんだ・・・・・・。始まりはあの日から二ヶ月経った六月になってからの梅雨の時期のことだった。

外は土砂降り、うちの片手には淡い水色の折り畳み傘。



部活で日焼けした肌にひんやりとした冷たい感触が・・・・・・



 「せーんぱいっ」

「うわあぁぁああ!!!」

「ぶみゃああぁぁああああああ!!!」

なぜかうち以上に驚いている声の主は先月ソフトテニス部に入部した

柊の妹のうしおちゃんだった。

ポニーテイルに結った髪の毛は雨でぐしょぐしょに濡れて

白い夏服バージョンのセーラー服が思いっきり透けている。

が、本人はまったく気にする様子はない。

むしろ濡れちまったぜ!とか笑ってるぐらいなので

気づいているのかどうかも危うい。

汐ちゃんはなぜかやたらとうちを慕ってきてくれる可愛い後輩だ。

でも、

「せんっぱーいっ」

うぎぅっと見事なダイブ(抱きつき攻撃とも言う)をうちにお見舞いしてくる。

で、そのまま静止。

急に顔をあげたかと思えば

「先輩かわいーですね」

普通の顔してこんなことを平気で言っちゃう。

でも本人曰く

「僕は同性愛者レズではありません!

女の子萌えなだけです!!」

だそうだ。

・・・・・・萌え?

うちには理解しかねない領域にある言葉だな・・・。

「瀧拿先輩どうしたんですか?

男らしく雨に降られて帰りますか?!」

「遠慮しておくよ・・・・ってなんで君はここにいるの。」

ちちち、と指を横に振りながら

「ふ・・・っ

鞄を学校に忘れたんでさァ・・・」

遠い目をしてうちを見上げてくる。

なんだかとっても切ない目だった・・・。

って

「鞄!!?」

「はい靴も上履きのままなんですけど、」

てへ、と足を指差す。

確かに学校指定の上履きのままだった。

「えー・・・?

鞄忘れるかな、普通・・・。」

「忘れますよ、二日に一回ぐらい!!」

それは人としてどうかと思うけど。




 「お、汐じゃねーか。

どした?こんなとこで。」

「あ、渚兄なぎさにいだー!

あんね、あんねー瀧拿先輩に普通鞄忘れないよねって言われちった」

「いや普通忘れねえだろ、鞄・・・・。」

ガン!と口を◇にして

「なんで!?

よく忘れるよ??!」

「おばーちゃんかお前は。」

え、なんで?

と首をかしげている汐ちゃん。

あれって天然とかで片付けちゃっていいのだろうか・・・?

「で、坂上は何してんだ?」

「あー、傘使うのメンドくて。」

「お前はお前でどんだけ面倒くさがりだよ。」

「僕今日瀧拿先輩とかえりゅー」

今の話の流れでどうしてそうなるんだろう・・・?

まあ、確かに家はお隣さんだけど!!

「瀧拿おねーちゃんに迷惑かけんなって。

柊も困るだろ?

こんなうっせーのいたら。」

「渚兄ヒデェぜ!!!」

「いや・・・困るって程でもないけど・・・、」




そして今。

なぜか柊とうちと間に汐ちゃんで三人であいあい(?)傘をして

家に向かっているところ。




ザーザーと降り続ける雨の中窮屈に三人入っている傘。

ちなみに折り畳み傘ではあまりにも小さい、ということで

柊が青い傘を開いた。



「ねぇ、」

「なんすかー?」

「なんかさ・・・

柊、めっちゃ濡れてない?」

「僕は濡れてませんけど」

「いやいや君じゃなくてお兄ちゃんのほうね。」

なーんだ、と空を見上げてから汐ちゃんはいいなあ、と呟いた。

何がいいのか全然分からないけどその瞳は

とても羨ましそうに遠くを見ていた。

その目がなんだかとても切なくて、どこか寂しげだった。



「汐が濡れるより俺が濡れたほうが幾分かマシだろ。」

そう言って汐ちゃんと同じように雨雲を傘の中から見上げる。

「・・・・そ、っか・・。」

ふたりの目はここにいるのにどこかもっと遠くを見ているような気がして、

なんとなく話しかけられなくなった。

それから家に着くまでお喋りな汐ちゃんも、柊も一言も喋らずに

ただただ歩いていた。

時折汐ちゃんが立ち止まり紫陽花を眺めてから優しく微笑んだのを覚えている。

それを視た柊が普段とは違う"お兄ちゃんの顔"を見せたことも。

家に着く頃には雨もだいぶ弱くなった。

だからと言って汐ちゃんの口端がいつものように元気にあがることはなかった。

口を、小さく開けてぽかん、と空を見上げている。

放っておいたらそのままどこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな感じ。

でも、それを引き止めることはうちには多分出来ない。

だって今の汐ちゃんは独りだから。

傍に誰も寄せ付けないそんな空気をまとっているから。


そんな時、汐ちゃんが不意に口を開いた。

「先輩、」

「なにかな?」

「         」

でも、通りかかった車の音で聞こえなかった。

「ごめん、もう一回言ってもらってもいい?」

そう聞くと

「ダメです。」

とにっこり微笑んでからこれは先輩が気づかなきゃダメですから、と続けた。

意味がわからない。

けれどどことなく分かる気がする。

曖昧な気持ち。

うちが、ここにいるのにいないようなそんな感覚に陥る。

「それでは、先輩さようならー」

「あ、うん・・・。

バイバイ」

「じゃ、また明日。」

「ん、また明日。」




その"また明日"がなぜだか非常に嬉しかった理由がうちが自分で気づかなきゃいけないところなんだろう。

でも、もしこれがそうだとしたら・・・

「どうすればいいんだろう・・・?」

誰に届くことのない呟きをぽつりと梅雨空にこぼした。





続く

とりあえず前編が書き終わりました!

瀧拿編が書き終わったら次は茶子編に行こうかと考えております。

全員分の甘い恋と切ない記憶の物語をお届けできたらいいな、と思っています。

 私はまだ中学生ですが、高校に入る前に書きとめておきたい物語だったので・・・。

中学生の遊びのような恋のお話。

しかし自分たちからすれば大人と同じように相手が好きで好きで悩んだりもするのです。

そんな思春期の複雑な心境が少しでも伝わっていたならば幸いです。

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