8 幸せの重み
魔法で出した矢印に従って十分程歩いたところで、森が途切れた。
そこに広がるのは一面の短い草に、所々生える木と背の高い草。
まさに平原って感じだ。
その向こうには、立派な壁と門も見える。
多分あれがミレー達の言っていた街だな。
薄暗い森の中にいたせいか気付かなかったが、今はもう夕方だ。
遠くの空が薄ら茜色に染まり始めている。
補助魔法の効果のお陰か、ここまであまり疲れずに来れた。
足場が悪くてもサクサク進むし、移動速度もかなり速かった。
魔法ってすごい。
ただ、流石に街までこの状態のままでは行けない。
近づけば周囲に人がいるだろうし、あの立派な門には門番的な人もいるだろう。
俺の今の格好はどうか。
この世界じゃ珍しいらしい学ラン。
パンツを頭に被って、周囲に意識を失った女の子を二人従えている。
まともじゃない。
新手のネクロマンサーか何かと勘違いされても文句は言えない。
俺が門を守る立場でこんなの見つけたら、先制攻撃待ったなしだ。
持てる限りの攻撃をぶつけるだろう。
例えそこまでいかなくても、警戒されることは間違いない。
そうなると困る。
知り合いなんていない世界で、街に入れませんなんてなったらお終いだからな。
いくら魔法が使えても、街の外で一人で野宿は心細すぎる。
無理。無理無理。
仕方ない、当初の予定通り抱えていこう。
無理だった。
「重い……」
パンツを取ったら強化魔法も解除されるらしく、元の貧弱に戻ってしまった。
俺の筋力じゃ女の子を二人同時にお姫様抱っこしたまま一キロ程歩くなんて、無謀過ぎた。
作戦変更だ。
パンツは被ったまま行く。
まず二人を浮かべたまま、俺の両腕に下ろす。
こうすることで、お姫様抱っこをしているようにしか見えない。
疲れないし、怪しくない。
完璧だ。
パンツを被ってること以外は。
それに関しても、作戦がある。
人が近づいてきたら実行するとして、それまではこのままゆっくり街へ向かう。
あまり軽やかに移動すると怪しいよな。
女の子二人を抱えてるかのようにゆっくり、大変そうに、ふらつきながら行くのが良さそうだ。
今は何も持ってないのと同じ状態だ。
リアリティを出す為に念力を調整して、体重と柔らかさを感じるようにしよう。
「おおふ」
これは中々。
引き締まった膝裏の感触がやばい。たまらない。
これは決して邪なつもりでやってるわけじゃない。
街に向かう為には仕方ないことなんだ。
だからセーフ。
決して、意識のない女の子の脚を撫でまわして楽しんでるわけじゃないんだ。
あくまでも抱えているだけ。それだけだ。
もっと手が食い込む感じを楽しみたいけど、これ以上念力を弱めると俺の筋力が持たない可能性がある。
我慢だ、我慢。
そのまま街へと歩いて行く。
門まで、残り三百メートルくらいか。
門番っぽいのが二人、立っているのが見える。
俺の周囲に他に人はいない。
まだ、いけるか?
頭に被ってるパンツが気付かれたらまずい。
念の為、魔法はこの辺りまでにしておくか。
向こうからも俺達の姿自体は確認出来てるだろうからな。
「おおっと」
わざとらしい声を出して、前のめりに倒れる。
二人を乗せた腕を伸ばしたまま、びたーんと大胆に。
勿論わざとだ。
二人は念力で操ってるから、衝撃を与えないように直前で一度止めて、ゆっくりと降ろした。
かなりわざとらしい自覚はある。
俺の大根レベルは高い。
けど、遠目には普通に転んだように見えただろう。見えたよね?
この体勢なら、俺の頭は前に横たわってる二人の身体で隠れている。
パンツを外して、ポケットにしまった。
仕舞うところを隠したのは念の為だ。
意味があるかは分からないけど、ゼロかプラスならやっておくに越したことはない。
さあ、ここからは気合いだ。
頑張れ俺!
まずは左腕をミレーの膝裏にもう一度差し込む。
そのまま、膝を曲げてしゃがんだ状態へ。
重たい物を持つ時はなるべく対象に近づいた方がいいって、何かで見たからな。
足に全力を込めて、立ち上がる。
「うおおっ……!!」
さっきも試したけど、やっぱりきっつい。
なんとか立ち上がったけど、足がとてつもない重力を感じてる。
まるで地面にしがみ付かれてるみたいだ。
呪縛を振り切って、一歩ずつ前へ出す。
足もきついけど腕もきつい。
感触を楽しんでる余裕なんてまったくない!
いやでも太ももの感触がすごいし、右手も鎧の隙間の肉にちょっと触れててこれはああ腕が、腕がやばい!
けど、二人を重ねた状態で転ぶのは危険だ。
頭を打ったりする可能性もある。
頑張れ俺、負けるな俺!
「っ、ず、ふぅー」
百メートルくらい歩いたところで、限界が来た。
もう無理。死ぬ。
二人を落としてしまう前に、自分から地面に下ろした。
「おい、大丈夫か?」
そのまま両手をついてしばらく深呼吸をしていると、門の方から迎えが来てくれた。
助かった。
なんとか、二人を送り届けることが出来た。
◇
迎えに来てくれたのは、門に常駐する兵士の一人だった。
門の中には滞在する為の場所があって、そこに何人もいるらしい。
そして俺が通されたのも、その場所だ。
教室の四分の一くらいのそんなに広くない、窓の無い部屋。
俺は一人で待たされていた。
ミレーとリイラは、念の為病院へと運んでくれたそうだ。
木製の丸椅子に座ってぼーっと待っていると、一つだけあるドアが開いた。
さっきの兵士が一人入って来て、さらにもう一人いる。
綺麗な人だ。
高そうな魔法使いっぽい服で、長い裾から覗いた足首が妙にエロい。
この人もパンドラパーツを装備してるんだろうか。
そして魔法を使う時にはスカートを脱ぐんだろうか。
でもローブだから、脱ぐなら丸ごと脱がないといけないよな。
なにそれヤバい。
もしあの下がパンツ一枚だったりすると興奮するけど、そんなわけないか。
パンツ一丁になると逆にエロ値が下がる気がするしな。
難しいところだ。
「どうぞ、こちらです」
「どうも」
この女の人は、ミレー達が通う学院の教師。
兵士に事情を説明したら、呼んでくれたのだ。
「はじめまして、私はシャリエ・キファール。セイルーン魔法騎士学院の教師をしています」
「は、はじめまして。タクトと申します」
シャリエと名乗ったこの人、威厳たっぷりだ。
俺の通う高校にいた、能天気だったり無責任だったりする女教師とは全然違う。
慌てて立ち上がって挨拶を返した。
「貴方がウチの生徒を助けてくれた方?」
「そうなんですけど、二人には俺の方こそ助けられまして」
兵士にした話をもう一度繰り返した。
気付いたら森に居たところから始まって、ドラゴンに襲われたところまで。
拾ったパンツのことは、話していない。
パンツは普通、男には使えない。
それを頭に被って使った記録として、魔王の話が残っている。
同じことをしたなんて知られたら、魔王扱いされてもおかしくないからな。
メルギオスは、俺の異世界人パワーが目覚めて撃退したことにした。
「……そう。余計なことをしてくれたわね」
俺の話を聞いた女教師は、予想外の言葉を口にした。
この人、今なんて言った?