6 パンツの模様は神の業
頭に色々流れ込んできた。
視界がおかしい。焦点も合わない。
思わず俯いてしまった。
これは、魔法の欠片だ。
このままじゃ何もならない。
ただの情報に過ぎないからだ。
でも、強くイメージを持つことで、どんな魔法にもなる。
これはそういうものだと、何故か理解出来た。
その情報も一緒に入って来たのかもしれない。
すごい万能感だ。
今なら何でも出来る気がする。
目の前のクソ強ドラゴンですら、怖くない。
「――盾!!」
「何っ!?」
咄嗟に叫ぶ。
俺の前に魔方陣が出現する。
そこから発生した大きな半透明の盾が、メルギオスの爪を弾き返した。
盾が微動だにしない分、メルギオスの身体を下がらせる。
魔法を放つ際、本来なら呪文の詠唱が必要になる。
しかし、魔導躍進機を使えばイメージするだけで発動出来る。イメージが弱い場合は、簡単な言葉を口にすることでイメージを補完する。
例えば、魔法の名前。
俺は魔法の名前なんて知らないから、単語を叫んだ。
それでも上手くいってくれて助かった。ギリギリのタイミングだったからな。
鋭い爪を弾かれても、メルギオスは止まらない。
今度は噛みつこうとしてるのか、頭を下げて突っ込んでくる。
そのまま指を咥えて見てるつもりもない。
再び魔方陣を発生させる。
守ってばかりじゃ埒が明かない。今度は攻撃の魔法だ。
イメージするのは剣。
鋭い、一閃!
「斬撃!!」
「ぐぬぉ――!!」
光の斬撃がメルギオスに襲い掛かった。
奴め、攻撃を警戒してたのか、咄嗟に腕をクロスさせて防いだ。
受け止めた衝撃で大きく後退したものの、まだ立っている。
「なんだ、この力は。何故、使いこなせる……!!」
しかし、ダメージは大きいようだ。
斬撃が奔った箇所は鱗が大きく抉れ、血がダラダラと流れている。
力が入らないのか、両腕をだらりと下げたまま上げようとしない。
もうひと押しだ。
このパンドラパーツのお陰で、強力な魔法が撃てる。
後一度か二度、攻撃を入れれば倒せる筈だ。
「……そうか。貴様も、あ奴と同じなのだな」
大きく息を吐いたメルギオスが、俺を睨みつける。
何か呟いているが、声が小さくてよく聞こえない。
今は、あいつを倒せる魔法を用意するんだ。
もう一度斬撃でいくか?
いや、多分足りない。
俺のイメージ不足か、あいつの防御力が凄いのか。
多分両方だな。
さっきの一撃で両断出来なかった時点で、威力が足りてない。
それに、今のあいつは何か怖い。
諦めていないというか、野性の眼だ。
昔、中学生の俺を追いかけてきた野生の猿も同じ眼をしていた。
武器も持っていたのに、恐ろしくて全速力で走って逃げた。
それと同じような状況。
何をしてくるか分からない。
生半可な攻撃では駄目だ。
今思いつく、最高の攻撃を――!!
「貴様は、ここで潰す。再生を後回しにしたお陰で、魔力の回復が間に合った……我が至高の一撃で、消し飛ばしてくれるわ!!」
メルギオスの魔力が高まっていく。
あれ、いつのまにそんなの分かるようになったんだ。
これも頭に被ったパンツのお陰か?
多分、そうなんだろうな。
メルギオスが大きく口を開けた。
そこに、大量の魔力が収束していく。
なるほど。やっぱりドラゴンの切り札と言えば、それだよな。
「立派な壁!」
分厚く、見るからに頑丈そうな壁が出現する。
俺の前にではなく、倒れたままのミレーとリイラの前にだ。
余波に巻き込まれたら危ない。
「ゴオオ――!!」
メルギオスの口から、高密度に圧縮された破壊の魔砲が放たれようとしている。
それこそが、≪竜の息吹≫と呼ばれる、ドラゴンの代名詞にして最強クラスの切り札。
しかし、俺の前にも既に魔方陣が展開されている。
細かい網目のようなものが幾重にも絡み合って構成されたそれは、よく見ると見覚えがある。
あ、分かった。
俺が今被ってるパンツのレースの刺繍だ。
変態的な技術で編まれたこの模様は、魔術的な意味を持つ。
それを何重にも組み合わせて重ねることで、魔導躍進機としての機能を十全に発揮する。
これはそういう仕組みらしい。
何故パンツなのかは、パンツが与えてくれた情報の中には含まれていなかった。
なんて、変な事を考えてる場合じゃない。
パンツのお陰で思考速度が加速してるからって余裕ぶっこき過ぎだ。
イメージするのは、今目の前にある、最強の攻撃!!
「――オオオオォッ!!」
「竜の爆熱光!!」
極光が放たれた。
ぶつかり、ほんの僅かな時間だけせめぎ合ったかと思えば、あっさりと竜の息吹を呑み込んでしまった。
勢いは衰えることもなく、そのままメルギオスすらも呑み込んだ。
放出を止めると、魔方陣もすぐに消えた。
気にしていなかったけど、いくつもの光の粒に分かれて空気に溶けていく様は綺麗だった。
「勝った、のか……?」
俺の放った魔法は地面を抉り、木々も消滅させていた。
まるで木のトンネルだ。
先は闇に続いていて、どこまで破壊されているか分からない。
さっきまでいたあの凶悪なドラゴンも、影も形もない。
完全に消滅させたか、逃げられたのかは正直分からない。
だけど、気配もない。
ということは、間違いない。
俺は勝ったんだ。
「そうだ、ミレーと、リイラは……!?」
二人は別々の場所で倒れていた。
魔法で発生させた壁のお陰で、特に被害は受けていなさそうだ。
小柄なリイラの身体を抱えて、ミレーの隣に寝かせた。
二人とも、しっかりと呼吸をしていた。
ミレーはボロボロだけど、出血も無さそうだ。
良かった。
なんとか、守ることが出来た。
「……さて、これからどうしよう」
パンツを頭に被ったまま、少し考える事にした。
ジャストフィットだし、被り心地も最高に良いんだ、これ。