4 野生のドラゴンが飛び出してきた!
本日三回目の更新です!
「まるで女の子みたいな男の子が使用出来た例があった筈よ」
「oh……」
それって男の娘だよね。
あれは男であって男じゃない。根本的に違う生き物だ。
普通の男子である俺には真似できない。
「後はそうね。伝承に伝わる魔王は、男だけど≪パンドラパーツ≫を使いこなして破壊の限りを尽くしたそうよ」
「ほうほう。それは、普通に履いて使ったのか?」
「残っていた記録が少なすぎて、詳しくは分からないわ。ただ、普通に装備するのとは違ったみたいね。神への反逆を体現したような姿に恐怖した、みたいな一節が確認されてるそうだから」
神への反逆かぁ……。確かに普通じゃなさそうだ。
「でもそれなら、使える可能性はあるな」
「ちなみに、安易に真似しようとした人が死んだ例もいくつかあるわ。というか、未だに年に何人かは出てるわね。貴方も挑戦してみたら?」
ミレーは悪戯っぽく笑う。
さっきからコロコロコロコロ表情を変えやがって! 惚れちまうぞこらぁ!
青春真っ盛りのオタク舐めんなよ! ちょっと話しただけでころっと落ちるんだぞおおん!?
――いけない、ついテンションが上がってしまった。
なんとか表には出さないようにしないと。
早口で捲くし立てて引かれるのがいつもの俺だからな。
引かれてしまってこんな危険なところで一人になりたくないし、抑えないと。
「流石にそれは……遠慮しとく」
「そうね、それが賢明だと思うわ。それで死人が出るってことは、良くて資質が足りないか方法が間違ってる。悪くて、魔王の伝承は嘘で女性にしか扱えない、ってことだもの」
ミレーがうんうんと頷いている。
全くその通りだ。
そんな分の悪い賭け、命でも掛かってるんじゃなければやる筈が無い。
俺は街でのんびり暮らすんだ。
パンツから魔法を放つ必要なんて欠片も無い。
――っと、もう一つ気になることがあったんだった。
「邪竜って、何?」
「この大森林の奥深くに住むとされている、邪悪なドラゴンよ。詳しい種類は不明だけど、相当な力の持ち主とされてるわね。パンドラパーツを集めるのが好きらしいわ」
パンドラパーツを集めるのが好きって、変態かな?
「えーっ、私達、そんなところに実習に来てたの!?」
「貴女、知らずに来てたの……?」
ミレーの説明に、リイラが驚いている。
気持ちは分かるけど、ミレーが呆れてしまっている。
二人は俺と違って自分の意思で来てたんだろうからな。
「だって、先生達の指示だし、皆平然としてるからそこまで危険じゃないのかと思って」
「行く場所の情報を集めておくのも大事な準備よ。それに、私達が余裕で倒せる強さのモンスターなんて、この大森林ではかなり下のランクでしかないわよ」
「えー!?」
パンツの力で強力な魔法が使える魔法騎士学院の生徒。
この森は、そんなミレー達でも危険な恐ろしい場所なようだ。
訓練でそんなところに放り込まれるって、危険過ぎない?
リイラ程素直には出さないが、俺も顔に感情が出ていたらしい。
ミレーが何かを察したように小さくため息を吐いた。
「この世界にはモンスターっていう危険な存在が蔓延ってるし、近隣諸国もいつ戦争を仕掛けて来てもおかしくない。そんな状況なんだから、騎士には強い覚悟と力が求められるのよ」
「なるほどねぇ……」
恐ろしい世界だ。
現代社会で平和に過ごしていた俺には考えられないような常識が広がっている。
異世界転移して喜んでる場合じゃなかった。
下手すると普通に死んでたよな。
この二人に出会えたことも、とんでもない幸運だった。
「それで、タクト、ちょっと言いづらいんだけど、いいかしら?」
「うん? 何?」
「私達、この森で一週間過ごさないといけないの。だから自力で街まで帰って欲しいんだけど――」
「あー……」
考えてみれば当たり前のことだ。
突然モンスターを連れて乱入してきた俺を助けてくれた上に、色々教えてくれた。
間違いなく恩人だ。
その厚意に甘えて人里まで送れなんて、とても言えない。
厚かましすぎる。
正直死ぬ未来しか見えないけど、な、なんとかなるだろう、多分、きっと、おそらく……なるといいなぁ。
「ゴメンねタクトさん! あの、予定の期間より早く戻ると二人とも退学になっちゃうの! だから、ここを離れる訳にはいかなくって……」
俺の沈黙を何か勘違いしたらしく、リイラが慌ててフォローしてきた。
そんなこと言わなくても大丈夫なのに。
ミレーが言ってることは極々当たり前のことだ。
「それは私達の事情でしかないもの。別に、恨んでくれてもいいわ」
「大丈夫、二人は大事な訓練の為に来てるんだからそっちを優先するべきだよ。俺はまぁ、なんとか頑張ってみるから」
「貴方正気? ここは何としてでも私達に護衛を頼むところじゃないの?」
態々そんなことを言うミレーは、間違いなく人が良い。
そのまま突き放してしまえば楽だろうに。
「さっき助けてもらえただけで十分だよ。俺が居座っても邪魔にしかならないだろうし。訓練が終わって街に戻って来たらお礼するよ」
「――ええ、楽しみにしておくわ」
ミレーが何かを言おうとして、ふてぶてしく笑った。
自意識過剰でなければ、なんとなく、俺を引き留めようとしたように見えた。
気のせいだとは思うけど、もしそうなら申し訳ない。
気が変わる前にここを離れよう。
「ようやく見つけたぞ」
可愛い声がした。
ミレーでもリイラでもない、幼い感じの声だ。
勿論、俺でもない。
「えっ……!?」
「あれ? さっきまで誰も……」
「女の子?」
視線を向けた先に居たのは、女の子だ。
黒くて艶やかな髪は腰くらいまでの長さがある。
よく見ると、濃い紫色のようだ。微かにたなびく箇所を見ると分かりやすい。
年齢は十歳くらい?
吊り目がちで、将来は美人になることが確定していそうな美少女だ。
黒いワンピースがいい感じに怪しさを際立てている。
妖艶っていうのかな?
「どうしたの? 迷子? お名前は?」
「ちょっとリイラ……!」
子供が好きなのか、リイラが声を掛けながら近寄っていく。
反面、ミレーは警戒しているようだ。
それはそうだ。だって、この森は普通の女の子が平然と迷子になれるような場所じゃないらしいし。
「ほう、恐れないとはいい度胸だ。名乗ってやろう……!!」
少女が凶悪そうに笑うと、真っ黒い影に包まれた。
その影はぐんぐん大きくなっていく。
形作り、弾け飛ぶ。
「あわわわわ」
「なんてオーラなの……!?」
「うわぁ……」
リイラが慌てて後退り、ミレーは迫力に怯む。
そして俺はもう、うわぁとしか言えない。
そこに在るのは、黒くて大きな、現代社会でも有名なモンスター。
「我の名はメルギオス。竜族の四王が一人、壊滅破竜メルギオスだ」
ドラゴンだ。