1 運命を導く布
俺、小宮拓斗。十八歳。
どこにでもいる中二病真っ盛りの、異世界転生に憧れる普通の高校生だ。
好きなものは女子の太ももとパンツ。
学校では入学直後に起きた事件のせいで馴染めないまま、友達も居ない。
ただ引きこもると親に殺されるから、無心で学校に通う日々だ。
死にたい。
そんな俺だけど、気が付いたら森の真っ只中に居た。
ちょっと意味が分からない。でも、それ以外言いようがない。
本気で分からない。何がどうしてこうなった?
駄目だ、記憶が混乱してる。
落ち着いて思い出そう。
俺は確か、駅で電車を降りて、歩いて帰る途中だった。
そうだ。
それで、目の前にパンツが飛んで来た。
雪のような純白で、女性物。リボンとレースが可愛らしかった。
それが地面に落ちた。
五メートル程先の、狭い十字路の真ん中に。
目の前にパンツが落ちてきたらどうするか。
拾う。
選択肢なんて存在しない。
視線は固定されるし、考えるよりも早く身体が動く。
これは世界の真理だ。神が否定しようとも、少なくとも俺はそうなる。
で、突っ込んで来たトラックに跳ね飛ばされたと。
思い出した。
全身がグシャグシャになった感触までバッチリと。
おえ。ちょっと寒気がした。
余計なことまで思い出さなくていいのに。
しかも、拾った筈のパンツはどこにも無かった。
酷過ぎるぜ……。
せめてあのパンツがあれば、この状況だってなんとかなる気がする程の無敵感に包まれるだろうに。
それでどうしてこんな樹海みたいなとこに居るのか。
これは間違いない、異世界転移だ。
ネットで流行りの、異世界転移だ!!!
いやっほーう! やったぜ!
これでクソッタレな学校や家族から解放されて、俺も異世界ハーレムチート主人公だっはー!!!
……いや、ちょっと待って。
神様は? 誰が俺にチートをくれるんだ?
辺りを見回してみる。
木、木、木。薄暗い森が広がるばかりで、神様がいそうな謎空間じゃない。
既に異世界に現着してしまっている。
つまり、神様がチートをくれる展開は無い。
更に観察してみる。
今すぐにでも、モンスターが飛び出してきてもおかしくない雰囲気だ。
遠くの方から何かの音や、微かな振動も伝わってくるからな。
何も分からないけどヤベー場所なのは感じる。
やばい。俺はただの大人しいヒョロガリ高校生だ。
何のチートも補正もないままこんなところに放り出されても、すぐに死んでしまう。
転移してしまった理由は分からないが、とにかく行動するしかない。
とにかく人だ。人に出会って安全を確保しよう。
強そうな人なら尚良し。
如何にも深い森って感じだし一般人は居なさそうだけど、だからこそ冒険者とか居てもおかしくない筈。
モンスターとか、そこまでいかなくても猛獣とかの方が遭遇率高そうだけど。
景色はどこを見ても一緒。
方角も分からない。
こういう時は、本能を研ぎ澄ませろ。自分を信じるんだ。
よし、こっち!
なんとなく決めた方向に向かって足を踏み出す。
しばらく歩いていると、何かが木の枝に引っかかっているのを発見した。
何かの罠の可能性もある。
慎重に近づいて――パンツだ!!
即座に接近して掴み取る。
枝に引っかかっていたのは紛うことなきパンツ!
この手触り、見た目、間違いなくパンツ!!
香りからして洗濯した後の使用前っぽい。
相変わらず誰も居ないし、履く為に用意してたのが飛んで来たんだろうか。
しかし、これは俺にとっての朗報だ。
このパンツは綺麗で、汚れが全くない。いっそ神々しさすらある。
つまり、この近くに人がいる。
この上品な純白パンツの持ち主が、近くにいる!
――ガサガサッ。
えっ!?
咄嗟に振り向いた。
何もいないし、動いていない。
遠くから聞こえてくる物騒な音以外、特に音もしない。
でも今背後の方で音がした気がする。
びっくりし過ぎて逆に声が出なかったくらいびっくりした。
何かいるのか? それとも風か何か?
確かめてみようかちょっと悩む。
いや、ないな。それはない。
死亡フラグの匂いしかしない。
まずはパンツをポケットに突っ込む。
これは宝だ。無くす訳にはいかない。
念を入れて、ゆっくり後ずさる。
変化は無い。
本当に気のせいだったんじゃないか?
そう思うが、なんかどんどん緊張してきた。
怖い。マジ怖い。やべぇ怖い死ぬ。
木々の向こうに何かいるかもしれないと思うと、足がまともに動かない。
息も苦しくなってきた。
何もいない。何もいない筈だ。大丈夫、大丈――。
「うおっ!」
何かに引っ張られるような感覚が俺を襲った。
いきなりすぎて上体が後ろに逸れる。
――ガッサァ!!
「グルァ!!」
「ぶへぇ!?」
バランスを崩していたところで突然飛び出してきた何かにびっくりして、尻もちを付いてしまった。
肘まで地面について仰向け寸前の俺の上を、何かが通り過ぎていく。
すげぇ。
命の危険を感じると本当にスローモーションに見えるんだな。
なんて、悠長にしてる場合じゃない!!
獣っぽい何かが通り過ぎるのを最後まで見ることなく、必死に体勢を立て直す。
一瞬見えたあの鋭い牙はやばい。
あんなのに噛まれたら簡単に食い千切られる。
俺はまだ死にたくない! せめて童貞を捨ててからがいい!
ああでも童貞捨てたら捨てたでその子と幸せな人生を送ったりもっとエロいことも色々したい!
とにかく死にたくない!
走り出そうとした瞬間気付いた。
いつの間にかパンツが少し離れた位置に落ちている。
起き上がる時に落ちたか?
パンツに向かって地面を蹴る。
前傾姿勢で手を伸ばし、拾った勢いのままに真っ直ぐ全力で走る。
後ろの方からは追って来てる音はする。
だけど怖すぎて振り返る余裕もない。もし振り返ってすぐ後ろにいたら。
そう思うと絶対に無理だ。
とにかく動け俺の脚!
どれだけ走っただろうか。
五時間くらい走った気分だけど、それは絶対にない。
体力がそんなに持つ筈もない。
十分かもしれないし、一分も無いかもしれない。
俺は貧弱だ。
息も絶え絶えで脚も重い。
もう限界が近い。
そんな時、木々の切れ間が見えた。
開けた空間があるだけっぽいが、そんなことよりもだ。
人がいる。
全力疾走してるし木も邪魔してるからハッキリとしないが、誰かがたき火の側でこっちを警戒してるのが見える。
このまま突っ込んで良いものか。
段々と近付いてくる。
どうやらこの先にいるのは女の子のようだ。多分二人。
少し迷ったが、このまま行くのは申し訳ない。
これでも俺は男だ。
迷惑は掛けたくない――!!
「こっちへ! 早く!」
「す、すみ、すぃやせっ!!!」
真っ直ぐ、全速力で突っ込んだ。
来いって言ってくれてるんだから遠慮はしない。
意地!? 死ぬくらいなら張らないよ俺は!
開けた空間は、何故かそこだけぽっかりと木が無かった。
真ん中にはたき火があって、二人の女の子が堂々と立っている。
鎧っぽいものを着ている割に、下半身はミニスカートと防御力が低めに見える。
でも素晴らしい太ももをしていてついつい視線が吸い寄せられてしまう。
そして俺は躓いた。
「あっづぁ――!!」
勢いそのままに地面に滑り込んで転がって、女の子達を通り過ぎた。
顔面を少し擦った。身体も打った。
緊張の糸が切れたせいか足に力が入らない。これじゃ、立てそうもない。
それでもなんとか身体を、今俺が来た方へ向ける。
そこには二人の女の子が、俺に背中を向けるように立っている。
スカートが短いから引き締まった太ももがばっちり見える。
更にはその奥も、もう少しで見えそうだ。
起こしかけていた頭がついつい下がってしまう。
少し距離があるせいか。頬を地面に擦り付けても後一歩足りない。
見えそうで見えないこの感じも相当に素晴らしい。
が、見れるものなら見たい。
もう少しだけでも前に進めればきっと見える。
だけど満身創痍の俺の身体は、地面を這うことすら出来そうにない。
悔しい。
こんな絶好の位置にいるのに何も出来ないなんて。
せめて太ももだけでも拝ませてもらおう。
「抜杖!」
「わかった!」
突然だった。
黄色。そしてピンク。
凛々しい掛け声と共に、女の子達がスカートを脱いだ。
まるでマントでも捨て去るように。躊躇なく、一気にだ。
破ったりしたようには見えなかった。
多分、腰の辺りを外したら脱げるような、元からそういう造りになっていたんだろう。
唐突に現れた二つの可愛いお尻とパンツ。意味不明過ぎる。
でもそれはそれとして、素晴らしい光景だ。
世界遺産として俺の脳内メモリに未来永劫残していきたい。
少しでも面白いと思っていただけたら、感想等くださるととても喜びます。