16 パンツ被ってリベンジだ!
屋台で買ったのは、何かの串焼き六本。
五本で銅貨一枚だったがおまけしてくれた。
安くなるのは嬉しいが、物凄い変態を見るような怯えた目だったのは辛かった。
なんだよ、ちょっとパンツを被ってるだけじゃないか。
そのせいだな。泣きたい。
さっきは全力疾走してたから気にならなかったが、視線が痛い。
串焼きを頬張りつつ、更に辺りを警戒しながら歩いてる分余計だろう。
「もぐもぐ、おいしーね、タクトさん!」
「おお、美味いな。汚物を見る目で見られてなければもっと美味い」
けど仕方ないんだ。
俺はこのパンツを被っていないとぶっちゃけ無力。
リイラはそれなりに戦えるらしいが、昨日の黒ローブや門番には敵わない。
特に、あの黒ローブは油断した瞬間襲い掛かって来てもおかしくない。
パンツを脱げば死ぬ。デッドオアパンツ。
どういう状況だよマジで。
腐ったタマネギを見るような人々の視線に耐えながら、例の屋敷の前まで来た。
ここまで来れば人通りも少ない。
お陰でパンツを被ったままでも堂々と歩くことが出来る。
貴族街だから不審者として即斬られそうな気もするが、多分大丈夫だろう。
用件だけ済ませたらさっさと逃げるつもりだしな。
「リイラ、ここで待ってるか?」
「ううん、私も一緒に行くよ」
「分かった。今度こそミレーを迎えに行くぞ」
「うん!」
建物の陰から出て、屋敷に向かって歩く。
立派な門の前には二人の門番が立っている。
昨日と同じ顔だ。
丁度いい。
昨日のリベンジとしゃれ込んでやる。
門番達が俺達に気付いたようだ。
厳つい方は訝しげな顔をしている。
爽やかな方は、小憎らしい顔だ。
俺のことを馬鹿にしてるのがヒシヒシと伝わってくる。
これだからイケメンは嫌いだ。
どんな顔しててもイケメンってか? おおん?
性格の悪さが顔に滲み出てくるくらいボコボコにしてやろうか。
「止まれ」
厳つい方が口を開いた。
足を止めて、リイラにも立ち止るよう掌で合図をする。
門番までの距離は、約五メートル。
「次は容赦しないと言った筈だが……なんだそれは。お前の趣味か? それとも、気でも狂ったか?」
厳つい方の視線が、俺の頭に向いた。
呆れている。
いっそ呆れを通り越して憐みを感じる。
違うんだ。
俺だって好きで被ってる訳じゃ……好きだけど。
好きだけど、そうじゃない! 今この状況を楽しむ為に被ってるわけじゃないんだ!
なんて弁明しようかと悩んでいると、リイラが一歩前に踏み出した。
「お願い、ミレーに会わせて!」
「そのような者はいない」
「俺達はミレーを迎えに来た。そこを退かないなら、――押し通る」
俺は本気だ。
この二人は門番という仕事を全うしているだけで、罪は無い。
だけどそんなこと、俺には関係ない。
ミレーを迎えに行くのを邪魔するなら俺の敵だ。
パンツを被ってでも、俺はミレーに会いに行く。
「ぷっ、あはははは! あー、おっかしぃ」
「おいサンジュ」
爽やかな方が笑い出した。
なんだこいつ。
厳つい方がたしなめて、なんとか笑いを抑え込んだ。
「いいじゃないすか先輩。パンツを被って粋がってる変態くらい、オレ一人でヨユーっすよ」
「……まったく」
厳つい方が呆れ気味に腕を組んだ。
爽やか……ウザい方が得意げな顔をして槍を構えている。
こいつ、俺達を苛めて遊ぶつもりだな。
「ふぅ」
ウザい方が足に力を込めた瞬間には、もう魔方陣は形成されている。
前に一つと後ろに二つ。
全部バッチリ見えてるぜ。
「暗黒の奔流!」
魔方陣から黒く禍々しいエネルギーが荒れ狂い、渦を巻いて放たれた。
三方向同時発射。その為の三つの魔方陣だ。
「ぐぅぁ!?」
一歩踏み出したばかりのウザい方を捉えた。
しかし、それだけじゃない。
「きゃっ!」
「ぎぇ!」
「なっ!?」
お前らに構ってる時間なんか無いんだよすっこんでろ!
俺の心から浸みだした暗黒の奔流は、リイラのすぐ横を掠めて背後へと解き放たれた。
スカートがめくれてかけてリイラが慌てて抑えたが、黄色いのが見えた。
イエスイエスイエスパンツ!
やっぱり丸出しよりも、隠れてる状態から一瞬見える方がエロい。
ついでに、後ろから奇襲をかけようとしていた黒ローブ二人も渦に巻き込まれて吹き飛んだ。
三人共が建物や門に叩きつけられて一撃ノックアウト。
高威力のかっこいい魔法を三つ同時発射。
後ろの奴らに気付いた時には一瞬焦ったけど、やってみるもんだな。
少し頭が重くなるような感覚があったが、まだ大丈夫。
パンツが高性能過ぎるな。
ちょっと怖くなるが、今は頼もしい。
「馬鹿な。なんだその力は」
「言っただろ、押し通るって」
「冗談はそのふざけた格好だけにしてもらおう」
普通に会話してるだけなのに、厳つい方がイライラしてるのが伝わってくる。
パンツ被った男に襲われて、しかもそいつが強かったらどう思うか。
そりゃふざけるなよってなるわ。
なるんだろうけど、俺は一切ふざけてるつもりはない。
至って真面目だ。
これは今の俺が誇る最強装備だぞ。
見た目なんて関係あるか。
ミレーを迎えに行けるなら、それで十分だ。
「この格好も全部俺の本気だ。言っとくけど、容赦はしないぞ」
「いいだろう。掛かってこい」
厳つい方が槍を構えた。
明らかに強い。もう風格が強い。
だけど、今は俺の方が強い。
つまり、俺の頭のパンツの方が風格があるってことだ!
見ろこの立派な刺繍のレースを!
「闇の見えざる手」
「あ、足が……!?」
厳つい方の足元に、小さ目の魔方陣が二つ出現している。
そこから伸びているのは、俺にしか見えない魔法の手。
これで厳つい方の両足を抑え込んでいる。
≪念動力≫よりもカバー出来る範囲は狭いが、ピンポイントな分パワーはデカい。
力のありそうな相手だったし、念には念を入れていこう。
俺の前に大きな魔方陣が形を成して、光が集まってくる。
「く、足が、動か、ん。くっ」
「竜の爆熱光!!」
俺は身動きの出来ない相手に向かって容赦なく、安心と実績の最強魔法をぶっ放した。