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14 甘いのはパンツの香りだけでいい

本日二回目の更新です。


 リイラと一緒に、ミレーがいる筈の建物の近くまでやってきた。

 立派なお屋敷風の建物だ。

 周囲には似たような建物が多いことから、ここは貴族が多く住むエリアだと分かる。


 この建物は学院の持ち物らしい。

 きっと、門のところで出会った色気たっぷりの女教師を含む、学院の関係者が滞在するのに使ってるんだろう。

 金持ちめ。

 宿屋に泊まれ宿屋に。


 少し離れた建物の陰から、様子を窺う。

 庶民的なエリアと違って人通りは少ない。

 短時間なら誰かに通報されることもないだろう。多分。


 そもそもこの世界って、警察的な組織はあるのか?

 門のところには兵士がいたし、治安維持を担ってる兵士達もいるとは思うんだけど。


 って、思考が逸れた。


 敷地は高い塀で覆われていて、立派な門がついている。

 そこには屈強そうな門番が二人。

 これまた立派な鎧を着ている。


 さて、どうするべきか。

 少しの間考える。


 思い付いた。

 この方法ならいける気がする。 


「リイラ、正面からいこう」


「正面突破だね、分かった!」


「よっしゃ行くぞ!」


「了解!」


 俺とリイラは門へ近づいていく。

 胸を張って堂々とだ。

 何もやましいことなんてしてはいない。

 ただ友達を迎えに来ただけだからな!


「何用か?」


 近づくと、左側に立っていた顔の厳つい方が問いかけてきた。

 手には槍を持っていて、すごい迫力だ。

 正に門番。

 何が来ても通さないという固い意思を感じる。


「友達を迎えに来ました。ミレーっていう子が中にいる筈です」


「暫し待たれよ」


 厳つい方が目配せをして、爽やかな感じの門番が中へ入って行った。

 用件を伝えてくれるようだ。

 割と話が通じるのでは?


 数分後、爽やかな方が帰って来た。

 厳つい方へと結果を報告している。


 直接言えばいいんじゃないか?

 何故遠まわしに話す?


「そのような者はここにはいないそうだ」


「ええ? 魔法騎士学院の生徒ですよ?」


「居ないものは居ない」


 いない?

 そんな馬鹿な。

 

 反論してみるが、有無を言わさない雰囲気だ。

 上司からそう言われただけだろ絶対。


「ここにいるのは、同じく魔法騎士学院の生徒である、リイラです。この子が中でミレーを見たと言ってるんですよ」


「お前がリイラという者か。確かに、学院の生徒であるようだ」


「そうです。だから中にミレーがいる筈です」


「その者は中に連れて来いとの仰せだ。通っていいぞ」


 駄目だ、微妙に話しが噛み合ってない。

 どうやらまともに取り合ってくれるつもりもないようだ。


 でもまぁ、入れてくれるならそれでいいや。

 俺達で勝手に捜すとしよう。

 

「行こう」


「うん」


 リイラと一緒に中へ入ろうとした時、俺の前に槍が差し込まれた。

 これがホントの通せん棒ってか?

 なんのつもりだ?


「通っていいのは学院の生徒であるリイラだけだ。お前を通す許可は出ていない」


「はあ?」


「分かったらとっとと去れ」


 分かる訳ないだろ。

 魔法騎士学院ってのはなんだ、理不尽の塊か?


「さ、君は中へ。連れて行ってあげよう」


「いや、離して!」


「そんなに嫌がらなくても大丈夫だから」


 俺が問答をしている隙に、爽やかな方がリイラの確保に動いていたらしい。

 嫌がるリイラの肩を掴んで連れて行こうとしてやがる。


「この」


「おっと」


「ごっ」


「タクト!」


 リイラを助けに行こうとした瞬間、俺の胸元にあった槍の柄が、革鎧の表面を叩いた。

 息が洩れて変な声を出してしまった。

 呼吸が出来ない。

 胸を押さえている間に膝が折れて、地面についてしまった。


「大人しくしておいた方が身の為だぞ?」


 そんなに隙間も無くて勢いもつけてないのに、この威力か。

 痛い。苦しい。


 厳つい方は変わらない表情で俺を見下している。

 くそったれめ。

 石突を地面について槍を立ててるのは、余裕の表れか?


「うおお!!」


「おっと」


「げふっ」


 膝を一気に伸ばして、その勢いで爽やかな方に向かって掴みかかる。

 簡単に躱された上に、カウンター気味に腹に拳を入れられた。

 思わず腹を押さえて蹲る。


 吐きそうになるが、今はそれどころじゃない。

 絞り出すのは声だ。

 晩御飯じゃない。


「逃げろ!」


「――ごめんなさい!」


「あっ」


「行かせるか……!」


 俺の声を合図に、フリーになっていたリイラが駆け出した。

 爽やかな方が追いかけようとするが、後ろに置いていた足にしがみ付いてやった。

 

「こいつ!」


「がっ」


 すぐさま蹴っ飛ばされたが、もうリイラの姿は見えない。

 良かった、連れて行かれないで済んだ。


「全く、調子に乗ってるからだ」


「す、すみません先輩!」


 爽やかな方が厳つい方に叱られている。

 明確に上下関係があるっぽいな。


 ちなみに、俺は蹴っ飛ばされて地面に転がったままだ。

 色んなところが痛い。

 どうしてこうなった。


「お前も無茶をする。が、剣を抜かなかったのは褒めてやろう」


 褒められたって嬉しくない。

 多分、剣を抜いたらあの槍で即座に貫かれていたに違いない。

 考える前に身体が動いてたけど、パンツを被るのが正解だったのか?


 腰の剣よりも強力な武器だけど、本来男に使えるものじゃない。

 そんなものを取り出して頭に被ったところで頭が逝っちゃってると思われるだけだろう。


「が、いつまでもそこに転がっていられても迷惑だ。去れ」


「……言われなくてもそうするよ」


「次は容赦しない」


「二度と来るんじゃねーぞ」


 やっと腹の痛みが治まって来た。

 多分、革鎧がある程度の衝撃を和らげてくれたんだろう。

 身体は痛むが歩くことは出来そうだ。


 爽やかな方の睨みつけるような視線を背中に受けながら、俺はゆっくりと撤退した。


 くそ、正面から行ったのは間違いだったな。

 誰だそんな作戦立てた奴は。


 俺だよ。

 くそっ、もっとちゃんと考えるべきだった。

 間抜け過ぎるし、考えが甘すぎた。 


 だけど、この程度の傷で良かったと思うべきだろう。

 下手すると殺されてもおかしくなかったかもしれない。

 ゾッとするな。

 そのくらい迂闊だった。


 反省だ。

 もっと慎重に行動しなければ。

 異世界怖い。


 とりあえず、リイラと合流しないといけない。

 何かあったらさっきの宿屋に集合する手はずになっている。

 よし、宿屋に向かおう。

 着いたら部屋をとって、パンツを被ろう。


 回復魔法でも使わないと、体中が痛くて仕方がないからな。


 傷だらけの身体でなんとか宿屋へついた。

 受付のおばちゃんに変な目で見られながらも部屋を取れた。

 一人部屋を二つ。

 一泊朝食付きで、計銅貨八枚。

 前払いだ。


 さっきの食事は二人がお腹一杯になるまで食べて、銅貨二枚だった。

 そう考えると、銅貨一枚で千円程度になるのかな。

 

 これで、俺の所持金は銀貨八枚。

 

 ポケットに硬貨をそのまま入れているのに、嵩張らないしジャラジャラもしない。

 パンツに包み込まれているお陰だろうか。

 パンツすごい。


 価値的には、約八万円くらいか?

 お金を稼ぐ方法も考えておかないといけないが、ミレーと合流するまでは十分持つだろう。


 まずは二人と合流。

 その先のことはそれから考える。


「あー、身体が痛い」


 部屋に入って、ベッドに身体を投げ出した。

 受付のおばちゃんにはリイラが来たらもう俺の部屋に通してくれるようにお願いしてある。

 傷を治してゆっくり待つとしよう。


 俺は、まだどこかで甘く考えていたのかもしれない。

 この夜、リイラが宿へ来ることは無かった。

 


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