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12 分からないことは後回しにして突撃あるのみ


 とりあえず、誰かが追ってくる様子はない。

 一旦落ち着ける場所に移動してじっくりと話をすることにした俺達は、リイラの案内で一軒の宿屋へとやって来た。

 一階は食堂になっていて、食事だけでも利用出来るんだそうだ。

 

 宿屋へ来たし部屋を確保しようかと思ったが、まずは話を聞いておきたかった。

 もしかしたらまた逃げることになるかもしれないしな。

 そうなれば、部屋を取っても勿体ない。


 外は薄暗くなってきたが、客はまばらだ。

 とりあえず奥の目立たない席へ座る。


「ここ、通りから外れてて目立たないけどお料理は安くて美味しいんだよ! 隠れた名店ってやつ?」


「へー、よくこんなお店知ってたな」


「私、この街の出身だからね」


「なるほど」


 リイラは元々この街、≪辺境都市ロンドル≫の出身なんだそうだ。

 だから裏路地を逃げ回ったり、こんな宿屋を知ってたんだな。


 リイラの生い立ちとかも色々気になる。

 だけどそれは一旦後だ。

 先に、済ませておかないといけない話がある。


「リイラは、お腹空いてないか?」


「うん、私もうお腹ペコペコだよー」


「それじゃあとりあえずご飯にしよう。俺も何も食べてなくて、お腹ペコペコなんだ」


「わーい!」


 リイラはよっぽどお腹が空いてたのか、とても喜んでいる。

 両手を上に上げてウキウキだ。

 

 しかし、すぐに何かを思い出したように慌てだした。


「あ、ご、ごめんなさいタクトさん! 私、荷物はミレーに預けてたからお金持ってなくって……!」


「ああ、それなら大丈夫。お金ならあるから俺が出すよ」


「ええ? でも悪いような……」


「大丈夫大丈夫。さっき助けてもらったんだし、恩返しだと思って」


「そういうことなら……甘えちゃおうかな!」


「そうしてくれると俺も嬉しいよ」


 少し呑気な気もするけど、これはこれでいいんだ。

 いつ襲撃があるか分からないからこそ、腹ごしらえが重要だ。

 それに、遠くのテーブルの上の料理を見つめて、涎を垂らしそうになってるのを見たら放っておけない。


 注文はリイラに任せた。

 おすすめを適当に頼んでくれたから、しばらく待てば美味しいご飯にありつける筈だ。


 学校帰りにこの世界にやってきて、数時間は経っている。

 もうお腹ペコペコだ。

 さっきのもリイラに合わせて言ったわけじゃなく、本心からの言葉だ。

 

 さて、料理が来るまでにある程度話を聞いておこう。

 と思ったが、どうやら先に聞きたいことがあるようだ。

 

「タクトさん、あの後何があったのか聞かせて欲しいの!」


 さっきまでの明るい様子が陰ってしまっている。

 もしかして、無理して明るく振る舞ってたんだろうか。

 女の子の気持ちは分からないぞ。


 でもとりあえず、疑問に答えてあげないとな。


 俺は正直に、全部話すことにした。

 リイラは命の恩人だし、明るくて素直で、ちょっとアホの子の匂いがするけど、優しい子だ。

 騎士だって目指してて、実際に見ず知らずの俺の為にミレーを残して逃がそうとしてくれた。


 俺なんかよりも数百倍立派だ。

 間違いない。


 そんな子に隠し事なんて出来るか?

 いや出来ない。

 嫌われるかもしれないけど、その時はその時だ。


「タクトさんすごーい!」


 俺の話を聞いたリイラの反応はこれだけだった。

 いや、眼をキラキラさせて、小さく手を叩いている。

 本気で褒めてくれてるようだ。


 いや、そうじゃなくって。


「それだけ? もっとこう、気持ち悪いとかない?」


「どうして? だって、男の人なのにパンドラパーツを使えた上に、あのすっごく強いドラゴンをやっつけちゃったんでしょ? それって凄いし、凄いことだよ!?」


「お、おう、ありがと」


 リイラは特に不快な感情とかは抱いてないらしい。

 頭にパンツ被るとか正気とは思えないんだけど、特に問題なかったのか?


 いやでも、ミレーの話だと普通はそんな使い方しないんだよな。

 明確に書かれてたわけじゃないけど、魔王と同じ使い方みたいだし。


 うーん、もしかしたら、リイラがそういうのに疎いだけかもしれないな。

 人前でやると普通に通報案件な気がする。

 例えこの世界では問題なかったとしても、俺の現代人メンタルじゃ人前で被る気にはならない。


 人前じゃなかったら普通にあり。

 なんとも言えない恍惚感が俺の頭から広がって、全身を包み込んでくれる。


「でも、そっかー、タクトさんが助けてくれたんだね。ありがとう、タクトさん!」


「どういたしまして。でも、先に助けてくれたのは二人だからな。俺もすっごく感謝してるんだ」


「あ……」


 俺の言葉で何かを思い出したのか、再びリイラの元気が小さくなってしまった。

 俺の話も済んだし、今度はこっちが聞く番かな。


「リイラは、どうしてあのヤバそうな奴に追いかけられてたんだ?」


 俺が二人を助けた後、門まで運んで学院の教師に預けた。

 そこまでは確認したが、その後の事は知らない。

 何がどうなったらあの危ない奴に追いかけられるのか。

 

「えっと、実は……」


 リイラが言うには、目を覚ましたのはベッドの上で、隣のベッドではミレーが寝ていた。

 混乱して状況をしっかり把握する前に、何者かが頭上から襲い掛かって来たらしい。


 ギリギリ気付いて初撃を躱したリイラが見たのは、黒いローブを着た男が三人。

 全員がリイラに殺意を向けていて、慌てて窓を突き破って逃げ出したそうだ。


 傷を負いながらも逃げ続け、それでも追い詰められてしまったところで俺が登場したわけだ。

 ほんと、間一髪だったな。


「それって、ミレーは無事なのか?」


「うん、多分大丈夫。私が暴れてもミレーに被害が出ないように守ってる感じだったから……」


 なんだそれ。

 リイラを殺そうとして、ミレーは守る?

 どういう理由でそうなったのか全く分からない。


「リイラ、そのリイラが寝てた場所は覚えてるか?」


「え、うん、ばっちり覚えてるよ。昨日この街に到着した時に泊まった、学院の建物だったと思う」


 理由もろくに分からないし、俺が首を突っ込んでいいことかも分からない。

 だけど、一つはっきりとしてることがある。


「ミレーのところに行こう」



 俺は学院を信用出来ない。

 大体何だ、こんな可愛い子達を危険な森に放り込んで、一週間経つまでに戻って来たら退学?

 酷過ぎるだろ。


 しかも俺の恩人のリイラが襲われるとか、学院絡みだろそんなの。

 違う可能性だって勿論ある。

 けど、それならそれで部外者に簡単に侵入されるって何だよって話になる。


 そんなところにミレーを預けてはおけない。

 

「ほんと!? 助けてくれるの?」


「勿論。一緒に迎えに行こうぜ!」


「うん!」


 リイラも、その部屋に戻るつもりだったようだ。

 待ってろミレー、今迎えに行くからな!


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