夢の先
「なぁ、あのバス停なんであんなに人がいるんだ?」
俺の視線の先にはものすごい人だかりができている。
今は午前5:23。
この時間帯にこんなに人がいるなんて不自然だ。
「ん?あれは夢の先に連れて行ってくれるバスが来るらしいぜ。ほらほら、あのバスがそうだよ」
俺は友達の指差す方を見るとそこにはすこし変わったバスがこちらへ向かってきている。
「なぁ、俺らもあのバスに乗って夢の先に行かないか?強く望む事が書いた紙が有れば乗れるってよ」
『夢の先』か...。どうなんだろう。確かに夢の先にいけるなら行きたいな。
「ちょっと興味湧いてきたし行くだけ行ってみようか」
バス停に近づいたはいいもののみんな我先に群がり、目がギラギラしてる。
流石に引くレベルだけどそれだけみんな本気で夢の先に行きたいんだろう。
しっかしバスに乗るには強く望んだ紙があればいいんだよな?特にやりたい事もないし適当でいいか。
俺は友達にペンと紙を貰いとりあえずは乗車券の代わりにと適当に望みを紙に書くと先ほど見えたバスが排気ガスを吐いて目の前のバス停に停まる。
彼らの方を見ると先ほどよりも荒々しさが増していた。
やばい。このままの勢いだと全員乗れる気配がしない。
嘘だろ、これを逃したら次のバスはいつ来るのか?
そもそも次は来るのか?
俺は周りの目も気にせず人混みへと突っ込んでいく。
どけ、そこを通してくれ、頼む俺を乗せてくれ、
「先に俺を乗せてくれ、邪魔だ頼むから退いてくれ、どうせ大層な望みでもないだろう!」
いつしか心の中の叫び声は鈍い声となって口から溢れ出ていた。先ほどまでは荒れ狂う彼らを軽く嘲笑っていたのに、しかし今はそんな事関係ない。
バスに乗り込む事だけを考えるんだ。
やがてバスがこれ以上入らなくなるとバス停から夢の先へと出発した。
「ふぅ、なんとか乗り込めた。泣きながらも順番譲る馬鹿がいて助かったわ」
なんとかバスに乗り込むことができた俺は一安心。
バスは立つのがやっとな程人が乗っていた。
バス停を出てから数時間後。
どうやら乗り継ぎがあるらしい。
次のバスは夜が来たら出るらしいから夜まで寝るとするか。
「しっかし喉が渇いたな、あれだけ叫んだし水でも飲むか。水水〜あったあった。......ない......ない!どこだ、おかしい、そんなはずない、どこに行ったんだ、嘘だろ、ここにもない、あっちにもない」
水を出そうとカバンを漁っているとある事に気づいてしまった。
乗車券の代わりとなる望みを書いた紙がなくなっていた。
嘘だろ...見つからないやばい...もう仕方ない。
こうなったら忍び込んででもバスに乗ってやる。
俺が乗ったせいで乗れなかった人がいるのに...
「おい!そこの空席にカバン置かないでくれ!」
ふと見ると俺が座ろうとしているところに鞄を置いている馬鹿がいた。違う、これじゃない、こんなことしてる場合じゃない、乗車券を、探さなければ!
ない、やはりない、どこにもない、そろそろバスが来てしまう...
日が沈み夜が来ても結局乗車券は見つからなかった。
やがて排気ガスを吐いて乗り継ぎのバスがやってきた。
もう仕方ない!意地でも乗り込んでやる。
人の影に隠れてそっと忍び込め....バレないように、音を立てないように.....落ち着いて冷静に........ふぅなんとか忍び込めたな....。
しかし....こう冷静に考えると夢の先に行くのが決して良いことでもないな....むしろ嫌だ!まだ夢の先なんて見たくない、適当に考えた夢の先なんて見たくない、自分の夢は自分で切り開いてことだ!
「あぁ!ちょっと待ってくれ!やはりここでおろしてくれ!」
こんな簡単に夢の先が見れてします人生なんて嫌だ!こんな人生なんか望んじゃいない!けど、俺一人のために止まってくれるはずがねぇ!
俺はあのとき初めて強く望み憧れるものが欲しいって思ったよ。やはり自分の運命は自分で切り開いて幸せ、夢を掴み取るんだ。
楽して夢の先なんて見たくもない。
はじめは満員だったバスが気づけば空席ができるほど人が減ってたんですよ。つまり主人公のように途中で考えが変わった子たちがたくさんいたんでしょうね