第9羽 ルーティーン
読んで頂き、ありがとうございます。
あの小さな漁村を離れて、少し大きな町に来て1週間が過ぎた。
町の名前は確か‥トリート‥トリモモ‥そんな名だ。
マリアの使魔になったといえ、特別に変わりはしない。
しいて言えば、飯と寝床の心配をしなくてい良い位だ。
マリアのルーティーンも分かった。
朝、シャワーを浴び着替えて、俺を連れ食堂で朝飯。次にギルド支部へ出掛け依頼のチェック。
俺を宿屋へ残したり、連れて仕事をして夕方に帰り、そのまま晩飯。そして寝る。
大体そんな感じだ。
夜は、デカ柔い胸で俺を抱いて寝るのだが、元々が暑がりな俺。
最初の2日は我慢したが3日目から、布団から出て夜の散歩をしている。
大夫マリアとの生活が馴れてきた時の夜。
「チャコ、私ねえ明日から3日間くらい遠征するから。心配しないで、ご飯は宿屋のおばちゃんに頼んであるから。」
「ミャ~」
「町の外れにある牧場に行って、ゴブリン退治をしてくるだけだから。」
ゴブリンか。
5体までなら駆け出しでも問題ないが‥‥パーティーの編成によるな。
「ミャーミー」
朝、身仕度を整えたマリアが、
「チャコ、行ってくるね。留守番お願いよ。」
「ミャー」
と言いマリアを見送ると、バレないように後を付けた俺。
町の出口が集合場所のようだ。
「遅れました。駆け出しEランクのマリアです。」
「オッス!俺は剣士のバスだ。ランクはDだ宜しくな。」
「俺はハンターのギリすっ。俺も駆け出しのEすっ。」
「私はシールドのリズ。ランクはEだ。」
どうやら、ランクDの剣士がリーダーらしい。
牧場を目指して徒歩で移動中に、マリア達の話し声が聞こえてきた。
「最近、マリアは頑張ってるよね。」
「はい。リズさん程では無いですが、相棒の為に頑張ってます。」
「相棒?彼氏かい?」
「彼氏‥チョット違います。血を分けた姉弟‥やっぱり彼氏かな‥‥ハハハハ‥。」
俺の心に小さなトゲがチクリと刺さった。
三時間歩き、昼前には牧場に着いた。
マリア達は着いて早々に、依頼主と打ち合わせを済ませ、周辺の調査を行いゴブリンの足跡を確認している。
奴等は5体と判明した。が‥‥果して本当か?
夜になれば分かる。
俺は、近くの木に登りマリア達の様子を、睡魔と戦いながら見ていた。
もう直ぐ日没だ。
奴等ゴブリンは日の光りに弱く、昼前は深い森の中や獣の掘った穴蔵で身を潜めている。
頭は剥げ耳と鼻が尖り醜い顔をし、残虐で狡猾な奴等だ。
そろそろだ。
来た。奴等独特な臭いが俺の鼻に届いてくる。
俺は索敵魔法を使い、奴等の数を確認した。
12体。その内2体はロックゴブリン。
不味いぞ!
ロックゴブリンは、普通のゴブリンより硬く、ゴツゴツとした頭皮と同じ皮膚を持ち、握力も強い厄介な奴等だ。
「来たぞ!全員配置に付け!」
12対4の内Dが1人で後はE‥無理だ。
まあ、俺に関係無い。
マリアが無事ならば、それで良い。
‥‥マリアに固執している自分に気ずく俺‥‥
違うぞ!断じて違う!ただ、飯と寝床の恩を返すだけだ!
‥‥姉弟‥彼氏‥‥頭の中でリピートされる‥‥
今正に、ロックゴブリンに対峙し、後一撃で致命傷を負うマリアの前に無意識に立ち塞がり、ロックゴブリンを見据えている子猫の俺。
俺は小さい天使の羽を広げ、前足を伸ばし尻を持ち上げ威嚇のポーズをとり、
「シャー!」
と鳴いた。
それを見たロックゴブリンは
「キキキキキィー!」
バカにし、大声で笑っている。
一瞬の出来事で、戸惑いながらもマリアが、
「‥チャコ‥‥猫天使‥‥だったんだ‥‥」
マリアに背中を見せながら、獅子のオーラを開放し、ロックゴブリン達に魔法サンダースネークを打ち出した。
蛇のように地べたを這う槍と化した雷が、次々とゴブリン達を倒し、
「ギャー!‥ゲェ!‥キィー!‥‥‥」
奴等は絶命した。
何が起きたか混乱しているマリア。
俺はマリアに向き直り、胸に飛び付き治癒魔法ホーリを使った。
「ありがとうチャコ。けど無理しちゃダメだぞ。」
治癒は問題なさそうだ。
「チャコ、チャコは猫天使だったんだね。ゴブリンを退治したのはチャコ‥‥?違うか。」
「ミャー」
「こんなちっちゃいチャコに、あんな魔法使える訳が無いもんね‥‥けど、チャコの前に大きなライオンが見えたんだけどな‥‥チャコ知ってる?」
「ミィー」
その名で呼ぶなよ。
生暖かい目で、宜しくお願いします。