序章 その名で呼ぶな!
読んで下さって、ありがとうございます。
眠っ‥最低1日の3分の2は寝ていたい。
寝る事が一番の至福の時。
俺?俺は猫だ。色は茶色。
乳離れして、今は独り‥‥1匹暮らし。
ただ、普通の猫とチョイと違うところがあるんだよ。
背中にさ、羽が生えているんだ。
たまに、毛作ろいで羽を広げている姿を見た人間達は、俺の事を「猫天使」と呼びやがる。
猫の天使って、バカにされた言い方で、俺は嫌いだ。
だからさ、人間を見たら直ぐに逃げる様にしているんだ。
けど、腹が減った時は別だけどね。
人間の足にすり寄って、愛嬌を振り撒いて飯にありつく。生きる術って奴よ。
さっき魚の頭を貰って食ったから眠い。
狭くて暗い場所が好きだからさ。
そんな場所で昼寝をするため、塒を探してうろちょろしてんだよ。
おっ、良い感じの馬車発見。
コッソリ忍び込み、暗い隙間に体を入れて‥寝る。
何時の間にか爆睡の俺‥‥
△▼△
「段ボールを切って‥手を入れて‥よし!」
二枚段ボールに細工して手を通して、翼の完成。
机の上からジャンプしたり、広げた傘を2本持ち物置の屋根から飛んだりと、ガキの頃から空を自由に飛び回るのが、俺の夢だった。
小学生になった時は、チャリンコにベニヤ板を着けて坂を走り下りたり、何時か自力で空を飛ぶ夢を追い続けた。
中学に上がった時、空を飛ぶ夢が突然潰えた。
小児性ガンてやつだ。
そんな時でも良く見る夢は、電信柱の上に立ち、空に向かって飛ぶ夢だ。
発覚して半年の中2の夏、人間としての俺は空への思いを抱きながら、その人生の幕を閉じた。
と思ったら、
「よくきたね。」
妙にフレンドリーなオッサンが話し掛けてきた。
「ここって‥?」
「皆は、天国と呼んでる場所だよ。」
天国‥ヤッパり俺は死んだんだ。けど‥
「貴方は、神様?」
「神の端くれのマルコだ。宜しくね。」
「あっ、俺は‥‥」
「知ってるよ。空に憧れを持ち、飛ぶ事を夢見る少年、高橋疾風君だね。」
流石は神様だ。
「普通はね、そのまま天の国へ行き、再生の時を待つのだが、不運な君には違う世界で‥つまりは転生という形で、新しい人生を送って貰うべく、こおして呼んだんだよ。」
転生?‥‥例のあれ?入院中に呼んだ沢山の本の‥‥死んで異世界でヒーローに成り上がる‥あれか?
「はあ‥」
「君の空への情熱に引かれてね、次の世界では空を飛べる能力を授けようと思うんだ。」
粋な計らいだ。
俺は2つ返事で、
「是非!お願いします。」
▽▲▽
という、昔の事を夢で見ていると、
「ニャン子ちゃん‥‥チッチッチッ」
どうやら潜りこんだ馬車は、次の町までの乗り合い馬車らしく、何時の間にか眠りこけているうちに、人が乗り込み動き出していたんだ。
その中の1人の女の娘が、俺を見つけた。
黒いローブに尖り帽子、手には杖の魔法使いだ。
「ニャン子ちゃん、お腹空いてない?」
丁度、小腹が減ったので、
「ミャー」と子猫らしく鳴いてみた。
女の娘は、鞄から干した肉の欠片を、俺の鼻先に置いてくれ、俺は美味しく頂いた。
「ニャン子ちゃんは、名前ある?」
我輩は猫である。名はまだ無い。
「答える訳は無いよね。」
「ミャー」
「茶色だから、チャ太郎‥‥チャ助‥‥チャチャ丸‥‥チャ色のニャン子だから、チャコね!私はアンナ。駆け出しだけど冒険者をしている魔法職のアンナよ。宜しくねチャコ。」
人間て奴は、なんて安易なんだ。
しかも俺はオスだ!
毛色だからチャは分かるぜ。何故、コ を?
気に食わなん。
(しかし俺はこの後、このヘンチクリンな名前で大変な事態になって行くとは、この時はまだ知らない。)
とは言え、次の町までの辛抱だ。我慢我慢。
ん?馬車が止まった。
既に囲まれている‥‥
「大変だ!ハンタードックの群れだ!」
ハッキリ言って、ハンタードックは雑魚だ。
1、2匹なら石コロでも何とかなる。
しかし、群れとなると別だ。
群れを統率してるリーダーを倒さない限り、爪が鋭く尻尾から放たれる針で厄介な事になる。
何でそんなに詳しいかって?
冒険者ギルドの中にある、酒場が俺の塒の1つで、色んな魔物の話しが入ってくるから、情報には事欠かないのだよ。
暇潰しに外を覗くと、ハンタードックが20匹はいる。
コッチは、
御者と冒険者の護衛が二人。俺に干し肉をくれた娘と、乗客が8人。
護衛の冒険者がベテランなら、何とかなるんだが‥‥ありゃダメだ。
あの数を見て完全にビビってる。
時間の問題だ‥‥
おっ!干し肉娘が加勢に出たな。
「こっちは私が!フアィア!!」
結構やるね。頑張れ頑張れ。
けど、群れの後ろに居る黒いボス犬を倒さないとなぁ‥‥
その時だった、馬車の後ろから顔出してた俺に、ハンタードックの流れ針が飛んできた。
警戒態勢をとる瞬間、干し肉娘のマリアが俺を庇い右の肩に針をくらった。
バカな娘だ。この俺の盾になり自ら進んで針を受け止めるとはバカだ‥‥
「チャコ‥良かった‥‥無事ね‥クッ‥」
だが、その真っ直ぐな心‥‥嫌いじゃない。
干し肉を貰った借りは、返さないとな。
俺は馬車の上にフワリと上がり、群れの後ろで余裕をブッこいてるボス犬に向け、奴だけ分かるように殺気を放っち、
「雑魚犬。消えろ。」
と脳に直接、言葉と
大鷲の翼を広げた巨大な獅子のイメージを送った。
ボス犬は、ガタガタ震え後ろ足の間に尻尾を潜らせ、小さく「ワン‥(撤収)」と力なく吠えると、一斉にハンタードック達は森の奥へと消えていった。
マリアは自力で肩に刺さった針を抜いたが、かなり体力を消耗しているのが分かる。
俺はマリアの胸に飛び付き、
「チャコ‥何とか追っ払ったよ‥」
じゃれる振りをしながら、背中に隠している小さな天使の羽を使い、傷口を癒してやった。
これで、貸し借りはなしだ。
「チャコこっちにおいで。」
つったく‥‥その名で呼ぶんじゃね!
暫くしたら、馬車も動き出すだろう。
マリアとも、次の町でお別れだ。
めでたし、めでたし‥だよな?
〇
猫天使 オス
茶色い猫
背中に天使の様な小さな翼を隠している
年齢 ?才
スキル ?
(レベル?)
〇
マリア 女
駆け出し冒険者 魔法職
年齢 18才
スキル 炎 水 風の魔法が得意
(魔法レベル 15)
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