魔晶石
「フレイ!」
ベルの手のひらから炎が出現しふよふよと空中に浮いている。
「やった!やった、出来たよナナシ!」
「うん、大分上手くなったね」
大工仕事ばかりやらせれていたベルは私が戻ると同時に早く魔法を教えてくれとせがんできた。そういえば彼女の第一志望は魔法使いだったな、あまりにテキパキと大工の仕事をこなしていたものだから、つい忘れていた。
「お二人様、昼食ができましたぞ」
「やった!お腹ペコペコだったんだよー」
昨日移住してきてくれたロンドの奥さんサリナが作る料理は私が作ったものより遥かに料理として完成されているもので、ベルも毎日の食事が楽しみな様子だ。
「お二人はキャスター様なのですか?」
「私はまだまだ駆け出しですけどねあはは、でもナナシは凄いんだよ、色々な魔法が使えるんだから」
「おお、それはそれは」
「ところでロンド、水路の方はどうなってますか?」
「それがまだあまり進んでいなくて、申し訳ない」
「仕方ないよ、ロンドさん1人じゃ限界があるし、もう少し人がいればいいんだけど」
「新しい移住者を探すか、もしくは…」
「もしくは?」
「ちょっとこれを見てくれ」
「これは、ゴーレムの錬成?」
「その通り、ゴーレムなら一日中働いても疲れることもないし、この辺りは魔物も出るみたいだから村の守護としても役に立つのではないかと思ってね」
「じゃあ早速取りかかろうよ」
「それがね一つ問題があるんだ、コアである魔晶石がないんだ、どこかに炭鉱とかあればいいんだけど」
「炭鉱ですか?それならこの辺りにあったはずです。実は昔は炭鉱で仕事していまして、この辺りにも何度か来たことがあるんですよ、しかし…」
「何かあったんですか?」
「実は作業中魔物が出ましてね、それでやむなく断念したのです」
「その炭鉱まで案内していただくことはできますか?」
「えぇ、しかしまだ中に魔物が要るかもしれません」
ベルの顔をちらりと見ると、それに気づいたのか目が合う。一瞬目が游いだベルだったが決意したのか。
「だ、大丈夫ですよ私キャスターですし、いざとなったら魔物なんてやっつけちゃうんだから」
「では、魔物はベルに任せるとしよう」
「えぇ!?ナナシ意地悪しないでよぉもし、もしも出てきたときは一緒に戦ってよぉ」
「考えておくよ」
「そんなぁ」
ロンド一家からはクスクスと笑い声が漏れていた。ともかく、魔晶石を手にいれるために、ロンドの案内のもと炭鉱へとたどり着く事が出来た。
「では私はここで、ご無事を祈っています」
「はい、もし二人とも帰らない場合はナナベル村の後は頼みました」
「ちょっとナナシ縁起でもないこと言わないでよ」
軽い冗談を言いつつロンドと別れると早速炭鉱へと足を踏み入れる、中は昼間だというのに真っ暗で、松明の明かりだけが頼りだ。ベルは怯えきった様子で私の裾を掴んで離そうとしない。
「大丈夫かい?」
「う、うん」
「不安なら入口でまっていてもいいんだけど」
その問にベルは首を横に降った。
「しかし、普通こういう魔物がいる場所っていうのはキャスター二人で来るとこではないね」
「今さらそれ言う?」
かさかさ
「っひ、なにか動いたよナナシ」
「ん?ネズミだね、魔物ではないよ」
「なんだー」
ぴちょん
「きゃっ、首筋に何か落ちてきたよぉナナシ」
「水滴だよ」
「ベルは怖がりだね」
「なによー、ナナシは怖くないの?」
「私は別に…むしろベルの声にビックリするかな」
「そういえばナナシって、あんまり笑ったり怖がったりとかしないよね、怒ることもないし」
「そうかい?…言われてみればそうかもしれないな」
確かに、多少は面白いだとかビックリするだとか、思うときはあるが、それが感情として表に出ることはあまりないかもしれない。
「ナナシこれは?」
「ふむ、石炭のようだね、役に立ちそうだし集めておこう」
どうやらこの辺りでは石炭も取れるらしい、魔法が使えるとはいえ、こういったものはあった方にこしたことはない、魔晶石集めのついでに採取しておく。なかなか目的の物は見つからず、炭鉱の中をウロウロしている時だった。
グルルル
「ナナシなんか今聞こえなかった?」
「あぁ、聞こえた魔物の唸りごえのようだ」
「なーんだ、魔物の唸りごえかー、…ってそれまずくない!?」
唸りごえのなる方に松明をかざすとそこには二メートル以上はあろうかという熊のようなものがイビキをたてながら寝ていた。
「あわわわ、どうしようナナシ」
「よし、逃げよう」
そーっと物音をたてないようにその場を離れる。ふとベルは壁に埋まっているキラキラと光るものが目に入った。
「ナナシ、これ魔晶石じゃない?」
「本当だ、出来したぞベルしかも2つも」
早速丁寧に削り出すと背中に担いだ籠に入れる。
「これでゴーレム作れるのよねナナシ!」
「あぁ、しかし喜ぶのはあとの方がよさそうだ」
「?」
グルるる
「キャーーーーー」
先程寝ていた魔物が目を覚ましたらしい、ベルのすぐ真後ろにその大きな巨体を持ち上げて唸っている。2人は鉱山の中を逃げ回りなんとか命からがら入口までたどり着く事が出来た。
「はぁはぁ」
「ぜぇぜぇ」
「私達生きてる、生きてるよォ」
「逃げ足が早くて助かったよ、まだ自分に何が出来るのか全く分かってはいないからね、これでノロマだったら終わっていたよ」
「もう、ナナシったらもう少し頼りになるかと思ったのに、真っ先に逃げるんだもん」
「まぁまぁ、目的の物は手に入ったんだよしとしようじゃないか、それにしてもベル君の顔真っ黒になってるよ」
「え、嘘!?」
「石炭を集めた時に顔に触れたみたいだね、ククッ」
「あーナナシ笑ったな!」
「こうしてやる!」
「わ、こらやめないか」
外はいつの間にか夕暮れになっており、ナナベルに戻ると帰りを心配していたロンドさん一家に目的が達成出来たことを報告する。
「お姉ちゃん真っ黒ー、お兄ちゃんはもっと真っ黒!」
「やれやれ、今日はとんだ目にあったね」
「ナナシが笑うからでしょー」
何はともあれ目的の物は手に入れることが出来た。今日は疲れたし明日作業にとりかかるとしよう。