いざ、移住者を募りに村へ
「凄い、これ見てよナナシが植えた畑にもう芽が出てる、実をつけてるのもいくつかあるよ!」
「あぁ、それは植物の成長を促す魔法を込めたから」
「へぇーそんな魔法もあるんだ、私魔法って戦ったり競いあったりするだけのものだと思ってたよ」
「私はベルが貸してくれた本に載っていた事を少し応用してやってみただけさ」
「畑もあって家もあってなんだか村らしくなってきたねナナシ」
「いや、むしろ山の上で自給自足で暮らしている変わった二人組の方が近いかも」
「二人だけじゃ村とは呼ばないってこと?」
「うん、まぁそうかな」
「よし、じゃあ近くの村に行って我が村に引っ越す人がいないか募集してみようよ!」
「絶対にいないと思う」
「即答!?そんなの分からないじゃない、もしかしたらいるかもでしょ?」
「村での安定した暮らしを捨ててこんなどこかも分からない森の真ん中で暮らしたいなんて人はよっぽどの物好きしかいないと思けど」
「それ遠回しに自虐してませんか」
「はは、違いない」
「もう笑い事じゃないってば、とにかく可能性が0じゃないならやってみないと分からないでしょう、今出来ることをしなきゃ」
「うん、その通りだねやらないよりは何か行動をとるのは間違ってない、でもそうなるともういくつか家がないと住む場所がないな」
「う、確かに…分かったよ作ればいいんでしょ!」
「じゃあ村にいくのは明日からということで、私も畑の管理ともう少し魔法を勉強しておくよ」
「これじゃ、立派なキャスターになるどころか大工が本業になっちゃうよぉ」
「ベルにも後で教えてあげるから」
「今出来ることをしなきゃと言ったのは私だし、ともかく今日中には完成させてみせるよ」
「無理はせずにね」
それから各々出来ることをしている間にいつの間にか日が暮れて太陽も沈みかけていた。
「もうこんな時間が」
「できたーー!」
「は、早いな、まさか本当に1日で作り上げるなんて」
「もうお腹ペコペコ」
「食事はもうできてるよ」
「さっきからいい臭いがしてたんだよねぇ」
「うん、ベルの持ってた鍋を借りて畑の作物と川魚を使ったスープを作ってたんだ」
「ナナシ料理もできるの!?」
「料理と呼べるような物じゃないけどね」
そう言いながら器に盛ってベルに手渡すと、それを何の疑いもなく口へと運んだ。
「美味しいよナナシ」
「そう言ってもらえると嬉しいな、おかわりもあるからよかったら」
「おかわり!」
ベルはよほど腹を空かしていたのか少し多めに作っていた鍋はすぐに空になった。
「はーお腹いっぱい、久しぶりにこんなに食べた気がする」
「だろうね、まさか全部たいらげるとは思わなかったよ」
「あ、そうそうナナシ大事なこと聞いてなかったんだけど」
「何かな?」
「この村の名前を決めないとと思って」
「村の名前か…、全く考えてなかったよ」
「ナナシの村だからナナーシ村とかどうかな」
「却下、なんか格好悪い」
「却下はや!?いいと思うけどなぁ、じゃあナナシは何かあるの?」
「ここは二人で作ったところなんだから、ナナシとベルでナナベルでどうかな」
「ナナベルか、うんいいよ凄くいい」
ベルは何やら木の板を取り出すとナイフで削り始める、その手先は器用で何やら文字を刻んでいる様子だった。
「よし、できた」
しばらくするとその板を木の棒にくくりつけ、地面にぐさりと突き刺した。その板にはナナベル村とだけ書かれた質素なものだったが、今の二人には十分すぎる物だった。
翌日、二人で村へと向かう事にした。背中にはお手製の籠にいっぱいの畑で取れた作物と空いている時間で森の中で取った薬草を背負っていた。
「まさか…、ナナシが薬草まで知ってるなんて」
「本に書いてあるのと同じような物が森のなかに生えてたからね、せっかく村に行くのだからお金を稼いで必要品を揃えようと思って」
「私にはどれもただの草にしか見えない…けど、それにしても重いよナナシ…」
「もう少し頑張って、ほら村も見えてきたよ」
ベルに聞いた通りに歩いてかれこれ二時間ほど、ローランという村についた。
「はぁ、重かったぁ」
「ご苦労様ベル、私はこれを売れそうな所でお金に変えてくるよ」
「うん、それにしてもナナシは村に来るの初めてなのになんだか慣れてる感じがするね」
「自分でも不思議だけどここは何をやるところだとか自然とわかるんだよね、もしかしたら以前きたことがあるのかも」
「何か思い出した?」
「いや、村の雰囲気とか名前とかは全く覚えがないんだ」
「そっか、じゃあ私は適当な場所で我がナナベル村に移住する人がいないか募集してるわ」
「そっちは任せたよ」
~三時間経過~
ナナシに言い切ったものの、行く人は皆素通りしていく完全に関わらない方がいい人になっちゃってるよぉ、一人おじさんが話しかけてきたけど…。
「お嬢ちゃんそのナナ…なんとかっていう村はどこにあるんだい?」
「ここからククリの森を二時間ほど歩いたところにあります!」
「なんだって?ククリの森なんてこの辺の奴等も立ち入らない森じゃないか、そんなところに村なんてあったかな」
「はい、昨日出来ました」
「あっはっは!こいつぁいいや、まさか住人はお嬢ちゃん一人とか言わないだろうね」
「私だけじゃないです、ナナシもいるから二人ですよ!」
「それは村じゃなくて、森に住んでる変わり者だよあっはっは」
周りからはクスクスと笑い声が聞こえる、私は至って真面目なのに!だんだん腹が立ってきた。
「これから大きい村になって人も大勢集まってそれから…」
「そりゃ楽しみだ、変わり者の村としてさぞ有名になるだろうさ」
「あっはっは、クスクス」
「むぅー」
もう一度言い返そうとしたところで誰かに肩を引っ張られた。
「ナナシ」
「すみません、同居人がお騒がせしたみたいで」
「おぅ、あんたが森の中で暮らしてる変人のお仲間かい」
「えぇ、その変人にこんなに構っていただけるとは先程あちらのお店でお見かけしましたが、余程暇なのですね」
「な、なんだとぅ」
「ああ、これは失敬二人しかいない村と店主一人の店内、なんだか似たような物だなと思いまして、まさかそれで気になって声を掛けて下さったのですか?でもそうなりますとあなたも私たちと同じ変人ということになりますね」
「てめぇ喧嘩うってんのか」
「オヤジ一本取られたな、あっはっは」
いつの間にか人だかりが出来ている。
「っち覚えてろ」
オヤジは人並みをかき分け姿を消し、それと同時に人だかりは解散した。
「なによあのオヤジムカつくわ、でもナナシのお陰で少しスッキリした」
「相手がこちらを下に見ているなら、同じ土俵に立たせれば良い、それにいい宣伝になったんじゃないかな」
「なったかなぁ、でも移住したいって人はまだ0だよぉ」
「私も1日で集められるなんて思ってないさ、今日がだめなら明日もすればいいよ」
「う、また二時間かけてここまで来るの…というより帰るのもなかなかしんどい」
「それなんだけど、これで少し楽になるかもだ」