我が家
「えーっと、水を操る魔法アクアか」
早速川に向かい試してみる、すると水が球体状に浮き上がり空中にフワフワと浮遊している。これなら持ち運びも簡単だと思ったが、少しでも集中を切らせば球体状の水は形を崩し地面にこぼしてしまう、一回目はそれで失敗したがなんとか二回目は持ってくることができた。その水を少しずつ種を植えたところに染み渡らせていく。しかし毎回これをしていては効率が悪そうだ、水路を引きたいところだが私1人では到底無理な案件だった。
「ナナシ、畑よく出来てるね!」
「あぁ、そっちはどんな感じかな、何か作ってたみたいだけど」
「ふっふっふ、じゃじゃーんこの町の記念すべき第一号の私とナナシの家だよ!」
ベルが指差した所には木製の立派な家が建っていた。
「正直期待していなかったけど凄いな普通に立派な家だよ」
「見直したかナナシ」
「これなら、キャスターになるより大工になったほうが良いのでは」
「もう、それは言わないでよぉ、私は絶対に立派なキャスターになるんだから!その為に町を出たのに」
「いた、痛いごめん悪かったよ」
「分かればいいのです」
「それより早速中に入ってもいいかな」
「どぞー!というか私とナナシの家なんだから遠慮しない」
「それじゃ、おじゃましまーす」
「ナナシそこはただいまでしょ?」
「た、ただ…いま…」
「おかえりナナシ」
なんか恥ずかしいなそれにしても中は以外と広く二人くらいならむしろ余裕があるくらいだ。
「凄いよベル本当に」
「そうでしょう、そうでしょうもっと誉めてもよいぞ」
「えーと、こんなに可愛くて手先が器用な女の子はそうそういないよー」
「えっ」
ベルは少し頬を赤らめて少し驚いた表情でこちらを見ている。
「え、なんか変なこといった?」
「可愛いとか初めて言われたから、今まで大工させられてたから男っぽいとか魔法もしょっちゅう失敗しててドジっ子とか言われてきたし」
「ああんもうなしなし、私疲れちゃった今日はもう寝よう」
そう言うとカバンを枕にして体を反対向けた。
「お腹すかない?」
「別に…」
ベルの言葉とは裏腹に、くぅ~という音が家の中に響き渡る。
「さっき川で取った魚があるんだけどなぁ」
「くぅ、食べます食べさせて下さい!」
「うん、一緒に食べよう」
昼間はいいが夜は以外とこの辺りは冷えるらしく、ベルが作った家のお陰でこの夜はいつもよりよく眠ることができた。
霧の中にいる辺りは真っ白でこの中をひたすら歩いている。ここはどこなんだろう?
「っ痛!」
急に頭に鈍痛が響いた、たまらず膝をおる。その痛みは以前にも感じたことのある痛みがした。
「…よく……にんげ…」
「誰だ、そこに誰かいるのか?」
「かん……おま…わー…」
「ここは何処なんだ、誰かいるのだろう?」
私は霧のなかを声のする方へとひたすら走るが、いくら走ってもいっこうに抜け出せないむしろ同じところをグルグルと回っている感覚に思わず立ち止まる。すると今まで途切れ途切れだった声が今度ははっきりと聞こえた。
「殺してやる、いや死では生ぬるい貴様には圧倒的絶望を与えてやる。この悪魔め」
その声がした瞬間、目の前に大きな顔が姿を現した。その顔は怒りに満ちており目玉は今にも飛び出さんばかりにこちらを睨み付けていた。
「やめろ、その目で私を見るな」
「フハハハハ、ハハハハハハハ」
「やめろ、やめろー!」
「ナナシ、ナナシったら!」
どこかで聞き覚えのある声で目が覚めた。よほど悪い夢を見ていたのか額には汗をかいている。
「ナナシったらかなりうなされてたから、心配しちゃったよ悪い夢でも見たの?」
「あぁ、そうらしいでもどんな夢を見てたか思い出せない」
「そっか、とりあえず川で顔を洗ってきなよひどい汗だよ」
「そうするよ」
家からでると川に向かい額の汗を水で洗い流す。ふと川に映った自分と目が合う。記憶をなくしてから、なにも分からない状態で目を覚まして、まじまじと川に映った自分を見るとまるで他人のように見えて仕方なかった。白い髪に蒼い目、額には小さい切り傷がある。そこでナナシはベルがいった言葉を思い出した。
「ナナシはだいぶオーディナルとは違う」
確かにベルと川に写る自分を見比べると髪の色から瞳の色まで違っていた。自分は人ではないのか?記憶がない以上その可能性を否定できない。自分が何者か分からないという恐怖が少しずつ私の体を内側から震わせているのを感じた。もし人間でなかったら、ベルに迷惑もしくは何らかの危害を加えてしまうのではないか…。
「おーい、ナナシ何してるのさ遅いから見に来ちゃったよ」
「ベル、私はもしかしたら人ではないのかもしれない」
「急に何を言ってるのさ、ナナシは人間だよ」
「記憶がない以上、それを誰が証明するんだ。それにベルもいったじゃないか、私たちとはどこか違う気がするって事実私は髪の色も瞳の色も君とは異なるし、知らない魔法を使えるなんて普通の人間には出来ないんだろう!」
「分かるよナナシの気持ち」
「分からないさ!自分が何者かも分からず、人とは違う姿をしているんだから!ベルには私の気持ちなんか分からない!」
「分かるよ!私も…、私親が大工だっていったけど実の親じゃないんだ、私がまだ物心つく前に捨てられていた私を今のパパとママが拾って育ててくれたんだ。初めてその事を聞かされた時とてもショックだった、自分を育ててくれていたのが本当の親じゃなかったなんて、私はいったい誰なんだろうって」
「でもね私気づいたの私は私、自分が何者だろうとパパとママにシャウス=ベルと名付けられた時から私はパパとママの子供なんだって、だからさナナシも自分が何者なのかはナナシが決めればいいよ、私は少なくともナナシは悪い人には見えないよ?」
そう言うとベルはニコっと笑って見せた。ベルの言った言葉に少し気持ちが楽になり先程までの不快感は消えていた。
「ありがとうベル、君の言う通りだよ過去の自分がどうだったかなんて知らないけど、今はナナシとして生きていくことにするよ、ごめんね怒鳴ったりして」