ベルと名乗る少女
魚は焼いて食べた。どうやって火を着けたかって?先程のバチッとなったものを利用した。どうやらディオと唱えると電撃が放たれるらしい、なぜそんなことが出来るのかは不明だが便利なことには代わりないので気にしないことにした。電撃が使えるなら他にも使えるんじゃないのか?しばらく考えてみたが思い浮かばない、と言うより思い出せないというのが正しいだろうか、何故ここに倒れていたのかも分からないところからすると何らかの原因でここに来て気を失い記憶喪失になってしまった可能性が高い、でないと知らないものを使えると言うのはおかしい、むしろ知っていたものを思い出したそういった感覚だ。しかしまだまだ分からないことだらけだ。
ともかく食料については解決したのだが、今度は雨風をしのげる物がほしいな、幸いここは草原で見晴らしがよく野生の獣がいたらすぐに発見できるのですぐに身を隠せる。しかし、半径数百メートルに何もないせいで風は若干肌寒いし、雨でも降ろうものならそのままずぶ濡れになるしかないだろう。小屋的なものを作るしかないか、早速辺りを探してみるがろくなものが見つからない、そもそも小屋なんてどうやって作るんだ?まず土台があって壁があって屋根があって…、うん分からん雨が降ってきたら森の方に避難するしかないか、そう思い森の方へ目を向けるとそこに人影があるのが見えた。
あれは人か?しばらくぼーっとしていると、丁度私がいる斜め左の方角に何やらキョロキョロしている人影が見えた。その人物もこちらに気づいたらく徐々にこちらに近づいてきた。その人物はローブのような服を着こなし、手には杖らしきもの、赤髪のおそらく女性であろうその人物の背中には大きなカバンを背負っていた。
???「こんにちは、あのこんなところで何をされてるのですか?」
何をしてるか…それは私も知りたいんだが、気が付いたらここで寝てましたなんて言ったら変に思われるだろうし、さてどうしたものか。
???「あの?」
「別に何をしているのでもないのだけども、訳あってここで生活しているんだ、とはいってもまだ、おそらく二日目だけどね」
???「そうですか、なら今夜はお供してもいいですか?私もそろそろ足を休める場所を探していたのです」
「あぁ、別に構わない」
これは幸運だ、現状が全く理解できてないこの状況の糸口を掴めるかもしれない、彼女から色々と話を聞くことができれば現状を変えることも出来るだろう。
「君は旅人かい?」
???「はい、あ、名乗っていませんでしたね、私の名前はシャウス=ベル一応キャスターです。ベルとお呼びください、キャスターとしての修行のため各地を転々としています」
キャスター?今彼女はそう言ったなそれが何なのかは全く検討がつかないが、この少女はベルと言うらしい。
ベル「そちらのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、あぁそうだな、そうしたいのはやまやまなのだけど、実は自分の名前を覚えていないのです、記憶喪失ってやつかな、なので好きなように呼んでください」
「それはお気の毒に、しかし名前が無いのは不便ですね、分かりましたでは名がないので、ナナシさんと呼ばせてもらいます」
「ナナシでいいですよベル、堅苦しいのは嫌いなので」
「ではナナシはどうしてこのようなところに?」
「私にも分かりません、気がついたらここに倒れていたのです」
「それは困りましたね、私に何か出来ることがあれば協力しますけど」
「そうですね、では私からも質問させてください」
「はい、私が答えられる質問であれば協力致します」
「ここはどこですか?あなたは何故ここに?」
「ここは、ティレーネという大陸のククリという森の中です。この森は国の領土にも入っておらず、全くの未開の地なので修行もかねて冒険していたのです」
「大陸ってことは他にも色々あるってことかな、国というのもその周辺を統治する大きな都市があると?」
「はい、大陸は大きく分けて4つあります。ここティレーネ大陸、レーベ大陸、ジクリット大陸、ローラン大陸です。そしてこの近辺を統治しているのがレイスという国です」
うーん、何か思い出すかと思ったが全く覚えがないな、現在地が分かっただけでもよしとするか。
「ナナシはオーディナル…だよね?」
オーディナルその言葉に聞き覚えはなかった。
「すまないが、オーディナルとは何を指す言葉なのかな?」
「ああ、ごめんごめん、オーディナルって言うのは一般的な人間種の事だよ」
「すると、人間以外にも他に種族があると?」
「うん、他にもエルフ種や獣人種、竜種とか魔物にも色々種族があってね、トロールやらゴブリン、アンデットなんかもそうかな、でもナナシはだいぶオーディナルとは違う気がするけどエルフ種でもないし」
「その、何が違うのかな?」
「うーん、言葉じゃ難しいけど雰囲気かなぁ」
ベルはまじまじと私の顔を見つめている。人とは違う何かか、そこに自分が何者なのかというヒントがあるかもしれない。しかし、そういえば私はまだ私の顔を見たことがない手足は見たところ人のようだが、顔はどんな感じなのだろうか。確認したいが自分を写すようなものは何もなかったので、取り敢えず手で自分の顔をなぞってみる。うーん、分からん目があって鼻があって口があってそれ以外の情報が分からない。
「もしかして、自分の顔も忘れちゃったんですか?」
「うん、どうやらそうらしい今確認してみたが、少なくともモンスターではないみたいだ」
「あはは、モンスターだったらこんなまじまじと話したりしませんって」
「それもそうか」
「あ、良かったら鏡持ってるので見ます?」
そういって手渡された物を除き込むとそこには白髪の青年?らしき人物が映っている。これが私…まるで分からない今初めて見る顔に自分だという自覚がない、持てない不思議な感覚に戸惑う。
「どうです?」
「うーん、誰?」
「あはははは、自分の顔見て誰?何て言う人始めてみたよ」
「そうはいっても、全く見覚えがないんだ」
「ごめん、笑い事じゃないよね」
「それにしてもベルとは少し違うねその、オーディナルという種族とは少し違うのかもしれない」
パーツこそ一緒だが髪の色や質感、目の色も深い蒼色をしており少し人間離れしている感じがあった。
「うーんそうかな?、でもこうして普通に話せてるしナナシが何者であろうと今夜は一緒にいる仲間だし、見たところ悪い人には見えないよ」
「そう言ってくれると助かるよ」