自分が誰かも分からず
うぅ、頭が痛いズキズキと鈍い痛みが心臓の鼓動に合わせるかのようにしきりに私の頭を刺激する。なんでこんなに頭が痛いんだ、どこかに頭でもぶつけたかな?思い返してみる…、だめだ全く思い出せない、むしろ思い出そうとするたびに頭痛が増すばかり
「っつ」
だめだこれは我慢できるレベルではない、私はゆっくりと目を開けようとするが瞼もまるで開かない。一体なんだってんだ、私は諦めて再び頭痛と戦い始める。一体今はどういう状況でなんで私は寝そべってるんだ?ん、待てよ寝そべってるのか、確かに頭痛はひどく体は動かないが感覚的に寝そべっているようだ。他に情報はないものか五感を研ぎ澄ませて思考するがそれを頭痛が邪魔をする。
「くそっ」
もういい、どうにでもなってしまえそう思い考えるのを止めたが絶え間なく続く痛みという刺激には抗えなかった。これは何か、拷問か何かでも受けているのか、それにしては人の気配がないそれに静かだ、まてよ何か聞こえるな。
よく耳を澄ませるとリーンリーンという音が辺りから聞こえている。これは虫の音かそれも昼間に鳴くうるさいガヤガヤした音ではなく、どこか悲しげな心に透き通るような虫の音色だ。ふむ、今は夜かとなると夜におそらくこれだけ虫の音が聞こえているから余程の田舎か、もしくは森の中に寝そべっているのか?それにしても体が動かないのは何でだ?森に出て昼寝をしてたら夜になりましたって感じじゃないんだけど、もう一度目を開けることを試みる。すると少しずつ目が開きその映像が頭の中に投影される。
星だ、それと月、空には雲一つない満天の星空が広がっていた。首もなんとか動く、少し傾けるとやはり森の中のど真ん中で寝そべっている。そうなるとやはり不自然だ何故、森の中で、身動きとれず、こんなところで寝ているのか全く記憶にないというより思い出せない、一つため息を打ち空を見上げる。あれ、なんだか少しずつ体が動く気がする。最初は指先、次に手首から腕と順番に力を込めてしばらくするとその手でなんとか体を起こす。
さて、これからどうしたものか…正直私が何者で何故このような場所にいて動けないのか全く分からないので何をしたらいいのかすら思い浮かばなかった。これは記憶喪失ってやつなのか、取り敢えず、そうだな生きよう。うん、最も単純でかつ人間が一番欲する欲求が頭の中に浮かんだ。腹は…空いてないな体調も体があまり動かないこと以外は問題ない頭痛も若干弱まった。手足を見回すと五体満足である問題ない、しかしずっとここままではいずれ死んでしまうのはやぶさかではない、まずは体が動かせるようになるまで安静にして体力も温存するか、私は目をつむると朝がくるのを待つことにした。
朝だった、どうやらまだ生きているらしい頭痛のせいであまり寝れなかったが無事に朝を迎えられた。こんな森の中じゃ野生の獣にでも襲われかねないし、動けない体では抵抗する術もないそう考えると幸運だったのかもな、遠くに見える山の方に目をやると今まさに日の出が顔を覗かせようとしているところだった。体は動く私は全身にありったけの力を込めてようやくよろよろと立ち上がった。よし、指一本動かせなかった時に比べれば上出来だ。周囲を改めて確認すると、周りは木々が生い茂っていて自分がいる半径数百メートルは草原が広がっている。その真ん中にポツンと私が要るといった様子。
どうしてまたこんなところに、改めて自分のおかれている不自然さに絶望しながらも生きなければそう思い、まず自分に何が出来るのか考えてみた。歩くことはできるが、遠くまで歩く体力は無さそうだ現にもう疲労し始めている。力なく再び腰を下ろす。
おそらく今自分が要る場所は森のど真ん中で近くの町やらに行こうにも途中で体力が尽きてしまうだろう、と言うことは近くの町に助けを求めることはできない、しばらくはここで精力をつけるしかないようだ問題は食料だな食料がなければ野垂れ死にだ、そして今の私はお腹が空いている。まずは食料を探さないとそう思い弱った体に鞭を打つと再び立ち上がった。
よろよろと森の方へと足を運ぶと川の音が聴こえてくるのが分かった。しめたぞ川が近くにあるこれなら水も食料も調達出来るかもしれない、川の音のする方へと進むと幅二メートル程の小さな川を発見した。まずは乾いた喉を潤すと同時に空腹も少し和らぐ、次は食料だ川の中には川魚の姿が見えるが流石に素手では無理だ。とはいっても捕獲する道具をもっているはずもなかった。せっかく食料を確保できたと思ったが困ったぞ、魚を捕まえるには…、網、竿、材料があれば作れそうだが辺りを見回すが適当なものは落ちてない、後は何か衝撃を与えて魚の動きを止めるとか、そう強い衝撃や電撃といったものを使えば魚を捕獲出来るだろう、それこそ無理か…まてよ電撃?
私が一番魚を捕らえる方法としてしっくりきたのは、一番無理そうな方法だった。川に電撃を流して魚を捕らえるもちろんこの場に電気を起こせるものなどない、しかし電撃と思い付いたとき同時にある単語を思い出した。ディオそんなよく分からないの単語、なぜそんなものを閃いたのかすら謎だった。
「ディオ なんちゃって」
半分冗談で言ったつもりだったがあり得ないことが起きた、指先からバチッと言う音とともに一瞬閃光が走ったかと思うと先程まで逃げ回っていた魚がプカプカと浮いてきたのだ。何が起きたのか全く分からないが、ともかく食料は確保出来たようだ。私は食料を持てるだけ回収すると再びもといた場所に歩き出した。