さて、ここからは私のターンだ。覚悟しろ。
「アメリア、僕は君との婚約を破棄する!」
マジかっ!?
たった今、よりにもよって学園の卒業パーティーという公衆の面前で婚約破棄宣言された私は、第二王子の顔を見た。
相変わらず中身の伴わないムダなイケメンだわー。
「レオン王子、どういうことですの?」
「貴様!とぼける気かっ!?」
キサマっ!?いくら第二王子といえど公爵家の私を「貴様」呼ばわりするなんてあり得ない!
前から脳ミソ溶けてるんじゃないかと思ってたけど、しばらく会わない間に、脳ミソ爆発したのかしら?
「僕を愛するあまり嫉妬に狂い、僕の愛するスイートレインをイジメただろうがっ!?」
‥‥‥えぇーっと、突っ込みどころが多すぎて。
とりあえず添削を。
①僕を愛する→愛どころか恋どころか情もない。
②僕の愛するスイートレイン→第二王子の堂々たる不貞告白!アウト!第二王子アウト~!!
「申し訳ございません。私には心当たりがないのですが、苛めとは?」
とりあえず「愛」とかの感情論は置いといて、私の名誉に一番影響があり、客観的に否定出来る項目から詰めていこう。
「貴様っ!往生際が悪すぎるぞ!」
えぇー。また貴様って言ったし。面倒くさいよー。
「まったくスイートレイン嬢とは天と地の差ですね!」
「そーだ!そーだ!」
「アメリアさま?罪は認めないとね?」
出たっ。第二王子の取り巻き3バカトリオ。
宰相の息子、細身のインテリメガネ。
騎士団長の息子、食欲と筋肉モリモリマン。
商会の跡取り、ワンコ系ふわふわ男子。
多分こいつら第二王子と同じようなことしか言わないし、以下モブで。存在無視しよ。
「スイートレインが、貴様にイジメられたと言っておるのだ!観念しろ!」
てかスイートレインちゃんなんて会ったことないし!?
まぁ、第二王子と3バカトリオ(合わせて4バカカルテット)に囲まれるように立っているピンク髪の子だろうなとは思うけど。
「アメリアさまは私を階段から突き落としましたっ!」
マジかっ!?
本日2回目のマジかっ!?
何かの誤解だと思っていたけど、ピンク髪ちゃんは、堂々と私に冤罪をぶっかけようとしやがった。髪だけじゃなくて、頭の中もお花畑のピンク色らしい。
そんなピンク頭ちゃんを愛しそうに見つめ、私を親の仇のような目で睨み付ける4バカカルテット。
「スイートレインさま?私、あなた様とお会いしますのは初めてではないかと思うのですが。」
とりあえず言ってみた。
「そっそんな、いつもあんなにイジメているくせにひどいです!」
わなわなと肩を震わせるピンク頭ちゃん。演技上手だなぁ。
「アメリアっ!!スイートレインをっ!この期に及んでスイートレインを傷つけるとは貴様は悪魔かっ!!」
第二王子が目をひんむいて抗議する。
あぁー。唯一の武器のイケメンが台無しだわー。
初めて会った10歳の時、政略結婚とはいえイケメンでラッキーなんて思ったのは一瞬で、紅茶の飲み方もお菓子の食べ方もマナーがなってないし、王族の癖に品がない、私が読んでる本の半分も読んでいなくて教養もない、見ていて不快だし話も合わなくてつまらなかった。
更に向上心もないので、今では道端の虫以下の存在。
それでも言葉は交わさず顔だけ見て観賞用とすれば結婚生活も耐えられるだろうと思っていたが、もうダメだ。
これからきっと顔を見るたび、目をひんむいてる漫画の悪役キャラみたいな顔を思い出してきっと噴き出してしまう。
ここまでされたし、もう我慢する必要はないなと私は判断した。
さて、ここからは私のターンだ。覚悟しろ。
「では、スイートレインさまが受けたという苛めの内容を教えて頂けましたら、全て否定する証拠を提出しますわ。」
「「「「「はっ!?」」」」」
「まずは階段から突き落とされたという日時を教えてくださいませ。第二王子とはいえ、レオン王子にも王位継承権はございますので、私も王妃教育を受けさせて頂いておりますの。
公務のため学園を欠席させて頂くことも多くなっておりましたので、階段から突き落とされたという日も欠席か、学園では授業に出席する以外の時間は過ごしておりませんので。
それに私には王家からも護衛をつけていただいておりますので、証言頂けると存じます。」
「なっ!?そんなの聞いてないっ!!」
ピンク頭ちゃんが真っ青になった。さっきの演技力どこいった。
「レオン第二王子は、もちろんご存知ですわよね?」
「ぼっ、僕は、スイートレインが、言ったから。」
第二王子は、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してた。
なるほど。ピンク頭ちゃんの発言を丸飲みして、検証も、考えることもなく、そのまま私に突撃してきたわけですね。
「ねぇ、レオン第二王子さま?国王陛下は、今回のことはご存知ですの?」
「ちっ、父上には、あっ後で報告をするつもりで‥‥。でも、報告しなくても‥‥‥その‥‥。」
「先程の婚約破棄宣言の際に先生方が何名か退出されましたので、既にご連絡されていると思いますわ。」
「なにっ!?」
「婚約は家と家との問題です。今回のようなことは、お父様より公爵家として正式に抗議させていただくことになると思います。
レオン第二王子さまの王位継承権がどうなるかは存じませんが、きっと婚約は正式に破棄されるでしょうね。」
「貴様っ!?何を言って‥‥‥。」
「貴様、本日4回目ですわ。こちらも併せてご報告させて頂きます。もちろん一緒にいらっしゃる皆さまのお家にも公爵家として正式に抗議させて頂くことになると思いますわ。」
「はっ!?なっ、何を‥‥‥。」
「婚約破棄のお望みが叶って良かったですわね。おめでとうございます。」
私はニッコリ微笑んだ。
4バカカルテットは真っ赤な顔してお口パクパクさせて、ピンク頭ちゃんは顔面蒼白で震えてた。
「あははっ。アメリア様さすがですね!」
その時、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「いつ助けに行こうか様子をみていましたが、僕の助けなんて必要なかったですね。」
「ミカエルっ!?」
振り返った私はビックリした。
公務で行っていた孤児院に来ていたボランティアのミカエルが、正装をして微笑んでいたからだ。
私は公務でよく平民とも触れあっていて、孤児院のみんなからも民衆が使う言葉を教えてもらっていた。貴族として振る舞う時は、上品な言葉遣いをしていたけど、心の声やミカエルと話す時は、かなり砕けた言葉遣いをしていた。
そんな私が素を出せるミカエルがなぜここに?と疑問に思っていると、まさかの第二王子が答えをくれた。
「きさっ!‥‥アメリアっ!ミカエル王子を呼び捨てにするなどと不敬だぞっ!!」
「‥‥‥ミカエル、王子??って、隣国からの留学生??」
私は今日一番の衝撃を受けた。
婚約破棄宣言や苛めの冤罪なんてくだらないことよりも、ずっと衝撃だった!ミカエルが王子??
「アメリア様には、ミカエルと呼ぶことを僕から許可しているのですよ。」
ミカエル、王子は第二王子を一蹴したあとで私を優しく見つめた。
「アメリア様は、公務でお忙しくて学園でお会いする機会がありませんでしたね。サーファ王国第一王子のミカエル=ブルームです。」
「どっ、どういうことですの?」
「この国の真実の姿を見たくて、正体を隠して孤児院を訪問させて頂いておりました。もちろん国王陛下には許可を頂いていますよ。」
ミカエルは私を見つめた。
いつもそうなのだけど、ミカエルに見つめられると私は心臓がこう、ぎゅっとなるのだ。
「アメリア様を僕の婚約者としたい旨、国王陛下に申請させて頂く許可を頂けますか?」
ただでさえ心臓がぎゅっとされてる私にミカエルが言った。
「なっ!?ミカエル王子!?僕の婚約者に何をっ!?」
黙れ。第二王子。
「レオン第二王子、お望み通り婚約破棄されたのですよね?おめでとうございます。我が国にももちろん報告致しますよ。ご友人3人と、男爵令嬢のことももちろんね。」
優しいけれど凍えるような笑顔で、ミカエルはモブたちを見渡した。
そう。ミカエルが現れた時から私にとって、第二王子もピンク頭もすべてどうでも良くなった。彼らには、因果応報、勝手にどうにかなるだろう。
ミカエルはゆっくりと私を見つめた。
「アメリア様、お返事は?」
そんなもの。言わなくたって決まってる。
「はい、喜んで。」