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蒼紅のリヴァイヴ  作者: 笹倉亜里沙
一章~フェルツ=クレアは恋を知らない~
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柔らかな警告

「中々さっきの出来事は運が良かったわね」


「……」


雑踏の中でも分かる澄んだ声。けれどもその声に俺の知る優しさなどなく、むしろ語尾に草でも生やしてそうだ。


だからこそそちらの方を見てしまえば殺意が沸いてしまうので俺は見ないし答えない。


無視する。


すれ違う人々を避けながら俺は住んでいる学生寮へと帰ろうとした。


数時間もすれば東雲家主催の誕生日パーティだ。その前からこんな煩わしい気持ちになりたくない。


「だって、魔法使いでも無ければ学院生でも無かったですもの」


けれども声の主はそれが当たり前だと言うかのように。或いはこの状況を嘲笑うかのように続けた。


魔法使い。今となっては何処にでもいる存在だ。いや、厳密には俺達以外だろうが……。


二年と半年あまり前の異世界者による侵略、いわゆる『灰の夏(ホワイトノイズ)』と呼ばれる日より世界は変わった。


こちらの世界にやってきた異世界者によって『魔法』という技術は伝わってしまった。


機械に代わる圧倒的な兵器として。


ただし魔法を使うには『魔方陣』と呼ばれる特殊な円を描かなければならなく、それは才能がある者にしか出来ない。


魔法といっても何でも出来る訳でもなく、更には魔方陣を消されてしまえば魔法は発動しない。


不幸中の幸いといったところだろうか。


だが、伝わったのはそれだけではなかった。


『特異性』と呼ばれるある意味何でも出来る力に目覚めてしまった。思春期限定という期限こそあるが。


彼らは多重次元連盟によって明確にランク付けられ、危険度としてレッテルを張られた。


帝王級の力を持ち世界を壊す『エンペラー』


その身一つで兵器と成れる『プライマリ』


プライマリには及ばないものの、十二分に危険な『セカンダリ』


そしてほぼ一般人と変わらない替えの利く『バレット』


その身一つで人を殺せる俺達の世代は、世界共通の学院に監視という形で在席している。


魔力と呼ばれるモノは誰にでもあるが、魔法使いは誰にでもなれない。


さっきのお婆さん、よく俺達を見て怯えなかったな……。と密かに思う。


俺達の着ている服装は学院生の服装だった。


もしかしたら知っていて尚優しくしてくれていたのかもしれないが。


それに暴漢達が魔法使いでないという保証もなかった。


むしろこのご時世にあれだけの事が出来るのだ。ただの人間である事の方が確立的には低い。


「それこそ、フェルちゃんも向こうの人間ですもの。もしかしたら帝王かもしれないわね」


耳障りだ。


俺の思考を先回りするように囁いてくる。


魔法のせいで自動車というものが劇的に減り、静かになった道ではよく聞こえてしまっていた。


「お兄ちゃんにあの子が」


「殺すさ」


おちょくっているであろう彼女に向けて放つ。


「――例え知り合いだろうと。必ず殺してやる」


これは俺が決めた事だ。俺が選んだ呪いだ。俺が望んだ未来だ。


妹を嬲り殺しにしてくれた『帝王』の一人なら、許すことは出来ない。


誰かが罪の裁量を決めるんじゃない。俺が赦せないから殺すんだ。


「独りよがりねえ」


放っておけ。


「まあでもお兄ちゃんはそうじゃないと困るわ。だって見た目が雫ちゃんに似ている私を殺すくらいだもの」


俺はそこでようやく隣を見た。


其処には銀の髪を揺らし、紅い目を慈しみ深く細める魔女シズクの姿があった。


その服装は出会った当初と打って変わって、俺と似たような服装だった。


ただし女子専用に可愛くデザインされておりスカートがふりふりと風になびかされている。


「お兄ちゃんって呼ぶな」


雫に呼ばれているみたいで余計に怒りが沸く。


「私が嫌よ。それに学院には兄妹って設定で通しているじゃない。今更過ぎるわ」


無くなったであろう戸籍にも妹となっているのは納得がいかない。


というよりおかしいと思わないのだろうか、俺が黒髪で妹が銀髪というのは。


「それよりお兄ちゃん、そのプレゼントは一体全体どういうことかしら」


「はあ? 」


俺は持っていたプレゼントをシズクに取り上げられる。


東雲用に買ったのだが、もしかしておかしな物を選んだのか?


「私の時には買ってくれなかったじゃない」


どうやら一丁前に誕生日プレゼントを貰えなかった事を怒っているらしい。


俺とお前、一応殺し殺される間柄だと思うんだが。


はあ、とため息を尽くとシズクはくすくすと笑った。俺が困る事ばかりするのが本気で楽しいようだ。


けれどもそんな弛緩した空気を唐突に変えて、シズクは真剣な表情で呟いた。


「それにしてもようやくね」


「……ああ」


ようやくだ。二年半も掛かった。足掛かりを得るのに。


「頑張って、この世界を壊して欲しいわ」


シズクは、自分を殺す為の準備だと分かっていて嬉しそうに笑った。





――――





星詠学院(ほしよみがくいん)。灰の夏よりほぼ即座に建てられた学院だ。といっても、俺はあまり詳しくは知らないが。


というのも俺は特異性を扱える異能者として目覚めたのはつい最近だからだ。


数日で分かったのは全国各地に存在しており、何れも特異性に目覚めた若人を集めている事。


多重次元連盟の元、監視下に収められている事。


そして何より、学院生は満遍なく一般人からは恐れられているという事だ。


秘密裏に軍事目的として研究くらいはしていそうだが、俺にとっては優先すべき事じゃない。


危険な存在を扱うには頑丈そうには見えない学院の門へと近づく。


数名いる警備員に外出許可証を見せると、形骸的ではあるが学生証から本人確認などをされて中へと通された。


その際に元々描かれている魔方陣の上を通って行く。


もちろん機能停止しているということは無く。しっかりと俺が同一人物かどうかなど魔法で調べられたのだろう。


広場のようになっている領内を歩く。その際に何度か人とすれ違ったが、面倒くさそうなヤツと寮を目前にして出会ってしまった。


「ちっ」


向こうも俺と出会った事を忌々しそうにしている。


如何にも少女漫画に出てきそうな端正な顔つきに、皺一つ感じられないほど丁寧にされている学生服。


金髪碧眼からは王子様というものはこうして生まれているのだろうかと感じさせられる。


ただ、名前を憶えていないが。


相手をするのも時間の無駄なので俺はその横を通り抜けようとする。


「待ちなよ」


何で間に入ってきたんだこいつ?


「何の因果で東雲さんのパーティに誘われたのか分からないけど、辞退するのが筋ってヤツじゃないのかい? 」


はい?


「東雲さんは優しいから君のような庶民も誘ったんだ。それを勘違いして本当に真に受けるだなんて」


はあ、なるほど。


「僕クラスならともかく、無能の――」


「それなら、庶民のお兄ちゃんの妹である私も行けないわね」


気づけば後ろからシズクが抱き着いていた。避けようとしていた筈なんだが……。


「置いていくなんて酷いわ。お兄ちゃんは私の事が嫌いなの? 」


「お前が検査終わるのを待っていたら時間がいくらあっても足りない」


「お化粧みたいなものでしょ。少しくらい待っててくれてもいいのに」


「僕と話している最中だろう……! 」


俺とシズクの会話に余計に彼は苛立ったらしい。目に見えて表情を険しくさせている。


「『バレット』が東雲さんのパーティに行くことが釣り合っていないと言いたいんだ」


「……」


「いくら妹のシズクさんが『プライマリ』だからといって、キミ自身は最底辺の『バレット』だ。周囲の目と常識を(かんが)みて動いて欲しい。僕からの忠告は以上だ」


言いたいことは言い終えたらしく。彼は寮の中へと入っていった。


あいつ、何しに外に出てたんだ? 俺にわざわざ忠告する為だけに外で待っていたのだろうか。


ツンデレなのか。


「お兄ちゃん、モテモテね」


どこをどう見たらそう思えるんだ、お前は。


俺はこれからの起きるであろう出来事を想像して思わずため息が出た。


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