思い出の中に
「奥様。お手紙が届いております。」
「有難う。そこに置いておいて下さい。」
「はい。」
書斎から見える桜の木は儚げに咲き誇る。思い出の中に色褪せてしまった、あの日々を描くように。
「……母様」
「あら、もう帰っていたのね?」
「はい。母様の好きな藤の花が咲いていたので、お友達から頂いてきましたの。」
「まぁ……」
久々に見た藤の花は、あの人が育てていた藤の花より濃い紫の花で。
「濃い紫ね。」
「そうですか?やはりあの藤の花には敵いませんわね……」
「いいえ……美しいわ。有難う。」
思い出の中にいるあの人を想っては、夢の中で追いかけている。掴めるはずのない手を、想いを伝えることもできない、抱きしめることすら許されない。
「そろそろ勉強しなくては。」
「待って。……勉学に励むのも良いですが、偶には息抜きも必要よ。」
「ですが……」
「少し……母様の昔話に付き合ってくれるかしら?」
「よろしいのですか?」
「勿論。」
遅すぎた儚い恋を、淡い夢を。
「そうね……どこから話しましょうか。」
色褪せた思い出を。
「母様の恋のお話を聞きたいです!」
「ふふっ……貴女も年頃の子ね。」
描き起こすように。