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ぞ・ん・て・ん!?  作者: 場流丹星児
1/6

プロローグ

 薄暗く、じめじめした暗がりで覚醒した灘井陀那なだいだなは、朦朧とする頭で周囲を見回した。


 ここはどこだ? 俺はさっきまで、高速のPAにいたはずだが……


 必死に目を凝らすが視界がはっきりしない、頭をまるで壊れた古いテレビやパソコンディスプレイのブラウン管に突っ込んだ様に、『砂の嵐』の様なちらつきとノイズが身体の芯から湧き上がり、感覚を阻害する。

 ふらつく頭に片手を添え、もう一方の手を伸ばし、周囲を確認しながら一歩踏み出した。


 ザリッ、一瞬激しいノイズが頭の中で暴れ、全身に苦痛が走るが、その後感覚が少し明瞭になる。


 すると、伸ばした手に何かが触れた感触がある、あわてて手を引っ込めた弾みで灘井青年はバランスを崩し、悪い足場という事もあり、大きくよろけて転びそうになった。その途端、隣にいた人間であろう何かにぶつかってしまい、それが功をそうし転倒を免れ、体勢を維持する事に成功する。


 ザリッ、また一瞬激しいノイズが頭の中を襲い、そして五感にまとわりつく霧の様な違和感が晴れていく。


「どうも、すみません……、!! 」


 身体と意識の感覚が少しずつ明瞭になっていった灘井青年は、ぶつかった事を謝罪しながら隣の人に顔を向け、その余りの異形に驚愕する。


 ザリッ、ザリッ、ザリッ


 そのショックからか、頭の中のノイズが暴れ全身をまた苦痛が襲う。しかし、その痛みとは裏腹に目から、耳から、鼻から、口から、そして皮膚細胞の全てから、感覚を阻害するノイズが身体の外へと逃げる様に出ていった。そうして完全に明瞭になった頭で辺りを見回し、自分が今置かれている状況を確認する。


「ヴオォオオオォオオオ……」


 虚ろな目付きで呻き声をあげて徘徊する異形の隣人、その姿に驚いた灘井青年がすくんだ様に足を止めると、背後に人型の重量物がぶつかるのを感じた。


「!? 」


 思わず振り返り、目に映ったその人型の姿に息を飲み、灘井青年は明瞭になった視界で辺りを見回す。


「ヴオォオオオォオオオ……」

「ヴオォオオオォオオオ……」

「ヴオォオオオォオオオ……」


 周りに居る者全て、異形の人物だった。


「何なんだよ、此処は!? 」


 そう思った瞬間、灘井青年の頭の中に、何かしらのスイッチが入った様な、短い電子音が響いた。それを合図にしたように、視界の中にまるでゲーム画面の様な情報が映し出された。


「……何だって、嘘だろう……」


 その情報を見て、灘井青年は現状を疑う。その情報は、無数に居る異形の人物に矢印を指し、その存在が何であるかを示していた。その存在とは……


「みんな、ゾンビだって!? 」


 茫然自失で立ち尽くす灘井青年の耳に、物悲しいゾンビ達の呻き声が流れ込んでくる。そして朽ちかけた四肢、内臓のはみ出た胴体に虚ろな表情で徘徊する彼等の姿に堪えられなくなり、駆け足でその場を立ち去った。




 何がどうなっているんだ!?


 ゾンビ達の群れを抜け、一人あてどもなく逃げ出した灘井青年は、細く入り組んだ洞窟を駆け抜け、薄暗い地下泉の畔にたどり着いた。そこに腰を下ろし、混乱する頭の中を整理して、今までの出来事を思い出し検証を始めるのだった。


「俺は確か夏休みを利用して、高速を使って東京から四国に向かっていたはずだ……」


 地方の個人経営の大型総合病院の三男として生を受けた彼は、この春から東京の医大に進学していた。初めての一人暮らしを満喫した灘井青年は、自炊が高じて料理が趣味となっていった。目下はまっているのは『うどん』である。スープと具材の調理に工夫を凝らすうち、それだけでは満足出来なくなり、麺を打つ所から始めるまでになっていった。凝り性の彼は、麺打ちを極める為にネットで情報を集めるうち、讃岐のうどん名人の知己を得て、夏休みを利用してその教えを受ける為、一路四国に向かいハンドルを握っていた。

 途中一度高速を降り帰省を済ませ一泊した後、家族に頼んで手にいれたうどん製麺用の小麦粉を車に積み込むと


「帰りにまた寄るから、うどん楽しみにしてね」


 と家族に言い残し、再び車を走らせるのだった。


 瀬戸大橋を目前にした灘井青年は、少しばかりの休憩を取ろうと考えた。カーステレオから流れる軽快な洋曲に合わせ、鼻歌を口ずさみながらPAに向けてハンドルを切る灘井青年には、このPAで人生最大のアンラッキーが待ち受けているとは露ほども思ってはいなかった。


「!? 」


 PAの駐車スペースに車を止め、車外に出ると灘井青年は柄の悪い二人組の男に取り囲まれた。


「よぉ、シロク、てめえナメた真似してくれたなぁ、いい度胸じゃねえか」

「何ですか、あなた達は? 僕はシロクじゃありません。人違いですよ」


 そう言って、脇をすり抜けようとした灘井青年の腹部に激痛が走る。


「惚けてんじゃねぇよシロクゥ、ネタは上がってんだよ! ゴルァア!! 」


 身体をくの字にして蹲る灘井青年の顔を踏みつけ、柄の悪い男Aが恫喝した、そして柄の悪い男Bに目配せする。柄の悪い男Bは灘井青年のポケットをまさぐり、車のキーを奪うと、乱暴にドアを開けて中を物色し始めた。そして、しばらくすると


「アニキ、やっぱり有りやしたぜ!! 」


 そう言って柄の悪い男Bは、白い粉の入った袋を掲げ、得意気な表情を浮かべた。


「てめえ、組からこんだけシャブをギッて、ただで済むと思ってんのか、ああん、シロク」

「だから僕はシロクじゃない、それにそれは覚醒剤じゃなくて、小麦粉だ」

「まだしらばっくれるんか!? このガキィ」


 柄の悪い男Aは、抗弁する灘井青年を無理矢理引き起こすと、彼の顔面を思い切り殴り付けた。口の中に生暖かい鉄の味を感じながらよろけて後ずさる灘井青年は、体勢を立て直す間もなく今度は腰の辺りに鋭い熱さと冷たさを同時に感じた。力なく振り返ると、柄の悪い男Bが、焦点の合わない目付きでニヤついていた。咄嗟に腰を押さえた手が、生暖かい液体で濡れていくのがわかった。


「!? 」


 それから直ぐに脚に力が入らなくなり、崩れ落ちようとしたところ、身体の両側から柄の悪い男AとBに抱き抱えられる様に支えられた。脚に力の入らない灘井青年は、二人に抵抗する事なく引き摺られて行く。


「組にナメた真似した事を、あの世で後悔するんだな」


 急速に全身から力が抜けていく灘井青年は、柄の悪い男Aのその言葉を、遠のく意識の中で微かに聞いていた。


「そうれ」


 掛け声と共に、二人の柄の悪い男は、灘井青年を走行中のトラックの前に放り出した。




 ………そうだ、俺は柄の悪い二人組に身に覚えの無い言い掛かりを付けられ、無関係を主張するも、聞く耳持たない二人に殺されたんだった。なら……ここは一体どこだ? あの世か?


 灘井青年がそう思った瞬間、視界に文字情報が浮かび上がる。


 惑星イーセ

 ガスパー大陸 ポラス廃都地下大迷宮

 冥界エリア アンデッド回廊


 何だ? こりゃ!? 惑星イーセ? あの世じゃないのか!?


 灘井青年の頭を、受験勉強の合間の息抜きで読んでいた、ネット小説の内容がよぎる。


 まさか……、異世界転移とか、転生ってぇヤツですかい? これは。


 悪い夢なら覚めてくれ。でも、あのSAでの続きなら嫌だなぁ。


 そう思いつつも、灘井青年は努めて冷静に現状について考えようと、頭の中を整理する。


 まず、今起こっている現象から考えよう。この視界の中に有る文字情報、これは異世界転移/転生でよく有る鑑定スキルとか何とか言うヤツだろうか? 他にスキルは持っていないだろうか?


はからずも不本意に、右も左も分からない世界に放り込まれた灘井青年は、孫子の兵法に則り、まず自分を知ることから始めようと、自分自身を鑑定してみることにした。


「なんじゃこりゃあ~!!!!!! 」


思わず叫んだ灘井青年の目に映った情報は、以下の物だった。


大別:アンデットモンスター

類別:ゾンビ

備考:賢者の卵、冒険者ダナーの骸


「ゾンビだってぇ~!? 」



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