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8.きっとこの世界に希望なんて無い

「ということで……監視カメラが"結合破壊"の余波で破損していたことと、雪が適度に怪我をしていたことから、研究員達は被害の少なさは静夜が咄嗟に能力を切ったからだと判断したみたい。

雪の"強制変換"と"能力を打ち消す体質"に関しては運良くバレなかった、不幸中の幸いね」


「ふぅ、よかった。私の他に怪我人も居なかったみたいですし、何とか丸く収まったんですね」


「何が『丸く収まった』よバカ!私がどれだけ心配したか分かってるのほんとに!」


「いたた!ごめんなさい姐様!ごめんなさい!もうしませんから!!」


「全く信用できない!次同じ状況になったらまた同じことするでしょ雪は!」


「次はもっと上手くやります!」


「そういう問題じゃないの!!」


あの後目が覚めてからずっとこんな会話をしている。一見私が怒られているようだが、実は二人共この会話を楽しんでいる。

姐様の都合上、朝や食事の時間以外でこんな風に会話ができることはなかなか無い。こんな形になってしまったとは言え、二人きりで話ができるこの時間は何にも代え難かったりもする。


「そういえば、あの後みんなはどうだったんですか?」


「ん〜?割と笑えない状況だったわね。私が到着した時の雪、ほんとに死んでるんじゃないかってくらいの状態だったのよ?

腹部が抉られていて、両足はズタズタ、それらの上に瓦礫の破片やなんかが突き刺さって一帯が血塗れ」


「うわぁ、ほんとによく生きてましたね私……」


「今も面会拒絶の絶対安静状態なの忘れないの。小さな傷以外ある程度治したとは言え、暫くは歩けないし、不測の事態の為に私がこうして密着してるんだからね」


「じゃあ暫くはこうやって姐様とお話しできるんですね!」


「嬉しそうにしないの、私も嬉しいけど。

……そうそう、それでみんなの話ね。

まず静夜は……あれは完全にトラウマになってるわね、もう二度とあの能力を人間に向けることはできないと思うわ。もしかしたら発動自体難しいかも」


「それは……また研究員に白い目で見られそうな案件ですね」


「むしろトラウマであの能力が使えないって正式な理由ができたおかげで、兵器として使おうとしてる軍部からの催促を堂々と断ることができて感謝してるくらいかもしれないわ」


「ああ、だから珍しくこんなに待遇良いんですね。姐様を付きっ切りにさせて貰えるなんて絶対何かあると思ったんですよ」


「まあそこは私が頼み込んだ、ってのもあるのだけどね。

次に千頭とハワードに関してだけど、今も私からの報告を待って食堂でウロウロしてるでしょうね、昼食の時間まで食堂に行くつもりは無いのだけど」


「姐様は意地悪だなぁ…」


「大事な時に雪を守れなかった罰よ。

茜ちゃんには雪は元気って伝えてるから大丈夫、後でこっそり連れてきてあげるわね」


「やったぁ!ありがとうございます姐様!」


「全く、それにしても流石に辛かったでしょう?まさか強制変換した肉体強化にそんな副作用があったなんて…」


「あはは、正直死んだ方が楽なんじゃないか、ってレベルでした」


「うん、本当に、よく生きて帰って来てくれたわね…」


「姐様が居る限り私は絶対に死んだりしません!」


「ふふ……ほら、おいで?雪」


「今日の姐様は何だか甘えん坊ですね」


「私にだってそういう日もあるわよ。

……ほんとに、貴方が死んじゃうんじゃないかって心配だったんだもの」


「姐様…」


「だからほら、いっぱい抱き締めさせて?貴方がちゃんと生きてるって私に確かめさせて?」


「はい、喜んで。……うぅ、大好きです」


「私も大好きよ、雪。おかえりなさい」


「…はい」


きっと私の怪我が治ったらまた姐様は忙しい日々に戻ってしまう、次にいつまたこんな風にお互いの体温を確かめ合えるような時間が来るのか分からない。

だから私はいつでも姐様のこの温かさを思い出せる様に必死になってしがみ付く。

それでも、この温かさは彼女だけのもの、離れたらきっと直ぐに抜け落ちてしまうのだろう。


「ずっとこんな時間が続けばいいのに…」


「ッ……」


姐様は応えない、きっとそれを言ってしまったら私達は折れてしまうから、逃げ出したくなってしまうから。

苦しくないはずがない、辛くないはずがない。実験は痛い、薬は苦しい、死ぬのは怖い、同じ仲間達が居なかったら、姐様が居なかったら、私はとうの昔に狂っている。

それでも、地上の厳しさを知っているからこそ私達は出られない。地上で生きていく術が無い事を、私達は知っている。地上に出ても何もできない事を、私達は知っている。だから出られない、出ようと思えば出られるのに。

私達の居場所は無い、私達の存在は無い、あるのはきっと追手だけ。普通の人間の普通の生活を今更望むことなど、できやしない。


誰も助けになんて来やしない。

突然研究が止まったりなんてしない。

みんなと心から笑って過ごせる安全な生活などあり得ない。


きっとこの世界に希望なんて無い。


12年の実験体としての経験は、私にたった1つの存在価値を残し、私達2人から全ての希望を奪い去っていったんだ。

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