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21.48cm

あの後、洗脳した警備員さんの記憶処理をし、ガロンさんに目的の場所へAsportしてもらったのだが……


「大きい……」


「大きいな……」


「大きいわね……」


そう、異常に大きいのだ。


大きい。


何が大きいかと言われたらそれは………敷地が。


さっきまで居た森くらいに大きい。


それほどの光景が目の前には広がっている。


「え、ほんとになにこの広さ……ここから見える建物もめちゃくちゃ大きいけど、そこまで行くのにも大変そう……」


「庭に噴水広場どころかテニスコートやサッカー場まであるのは流石に頭おかしいだろ。」


「とりあえずこのインターホンを押せばいいのかしら?まだ日も登っていないし、後日出直した方が……」


「大丈夫ですよ、ガロンさんが先に連絡して下さったみたいです。それにまだ明かりのついている部屋もあるみたいですし。」


「あの人なんだかんだ私達の世話を焼いてくれたし、やっぱり悪い人ではないのよね……

今度会ったらお礼しないと。」


「じゃあとりあえず……」


ピンポーン、ピンポーン……


それから数分も経たずに異変が起こった。

お屋敷の玄関が開き1人の女性が出てきたと思ったら彼女は凄いスピードでこちらまで走ってきた。

身体中に青色のPSYエネルギーを纏っていることから"身体強化"を使用しているのはまず間違いないだろう。


それでも私達が本当に驚いていたのはそのことについてではなかった。


そう、再び大きかったのだ……色々と。


「お待たせ致しました、私は夕霧(ゆうぎり) 千華(せんか)と申します。

屋敷の当主様が只今就寝中につき代わりに私が皆様をご案内致します。

ガロン様からお話は伺っておりますが、ええと……雪様?という方はどなたでしょうか?ガロン様からお渡しされていると思われる招待状を拝見したいのですが……」


黒髪、ポニーテール、セーラー服、黒タイツ、アームーウォーマー、ネックウォーマー、日本刀と、かなり個性的な外見はしているが、それよりなによりも……大きい。


身長がハワードと亮介よりも大きい。


190以上は絶対ある。


スタイルも抜群、容姿も端麗、キリッとした目付きと話し方から正にクールビューティという言葉が相応しい。


それでも、ただ……大きい。


「あ、あの、はい、私が雪です。始めまして夕霧さん。招待状ってこれですよね?」


「え?あ、貴方でしたか。

貴方の様な可愛いらしい少女と今日からお屋敷で暮らせると思うと私は非常に嬉しく思います。」


彼女は膝を折ってわざわざ私と同じ目線になって話をしてくれた。私がよく茜にしてあげることだ、逆にされる日が来るとは思わなかったが……


夕霧さんのその柔らかい笑顔は、先程の凜とした表情とはまた違った魅力を私に感じさせた。


…ただ、そんな彼女に対してこんな残酷な事実を突きつけなくてはならないのは非常に心苦しい。残酷な事実とか自分で言うのもどうかと思うのだけど非常に心苦しい。


「あの……私、男ですよ?17歳の……」


「…………?」


首を傾げられてしまった。

(なに言ってるんだろうこの子)という顔をされる。ごめんなさい、紛らわしい格好をしていて。


「ええと……じょせ……女性の方……です……よね……?」


「ごめんなさい、こんな格好をしていますが男なんです、色々あるんですはい……」


「え、えぇぇぇぇ!?嘘ですよね!?冗談ですよね!?こんなに小さくて可愛いのに!男性!?しかも年上!?」


「年上!?え!?私の方が年上なんですか!?コスプレじゃないんですかそれ!?本物の制服なんですか!?」


「わ、私はまだ15歳です!この制服もコスプレなんかじゃありません!

う、羨ましいです!私の身長を半分引き取って下さい!193もあるんです!」


「私も欲しいです!譲って下さい!私は145しかないんです!!」


私のコンプレックスと彼女のコンプレックスは真逆の様で、なんとなく彼女とは仲良くできそうだと思った。


身長差48cmという驚異的なこの差は本当に目線を合わせて貰えないと彼女が壁にしか見えないほどである。


「ごほん、申し訳ございません、取り乱しました。それではこれから皆様をお屋敷に案内致します。

お部屋にご案内する前に少しだけ皆様のお話をお聞きしたいのですが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?

軽食くらいなら私でも用意できますので。」


「ええ、大丈夫よ。それじゃあよろしくね、夕霧さん。」


姐様も彼女のことは気に入っている様に感じる。


夕霧さんは先程"身体強化"を使用していたが、やはり彼女自身もかなり鍛えているようのだろう。

門番的な役割なのだろうか?

どちらにしても私はかなり好印象を受けた。


その身長と落ち着いた雰囲気あってとても年下には見えなかったが、その内面は15歳の少女らしい一面があった。

きっと仲良くできると思う。


「なあ、夕霧さんだったか?二つほどいいか?」


「はい、なんでしょう。貴方は確か……ハワードさん、でしたか?」


「ああ、まず一つ目なんだが、俺の後ろで寝てるこのチビだけでも先に部屋を用意してくれねぇか?流石に一々起こすのも気分が悪い。」


「おや、こんなに可愛らしい女の子がもう1人居たとは気付きませんでした、申し訳ございません。分かりました、直ぐに用意致します。」


彼女の中では私はまだ"可愛い女の子"の様だ。


「それともう1つ。あんたが"身体強化"の使い手だってことは分かった、が……

さっきから足音がしないのはなんなんだ?"身体強化"とは関係ないよな?

それもあんたの能力なのか?」


「……なるほど、ガロン様から『高位の"身体強化"/"enhance"の使い手がいるから楽しみにしていろ』とは言われましたが貴方でしたか。

ええ、それは間違いなく私の能力です。それについても後々説明いたします。」


「いいのかい?自分の能力をそう簡単に人に教えてしまって?」


「この屋敷に入る以上は皆さんの能力も教えていただかなくてはなりません。また、私の能力は現状で生活に支障が出ているものである為、皆さんにも把握していて貰う必要があるのです。」


「……貴方も苦労しているんですね、夕霧さん。」


「ふふ、千華でいいですよ雪さん。私の方が年下ですし。」


そう言って彼女は私に微笑んだ、きっと彼女も色々と大変なことがあったのだろう。


「さて、着きました。皆さんお入り下さい。

お茶と軽食を用意致しますので、リビングでお待ち下さい。」


そうして案内された屋敷の中。

やはり凄い、一目でここの主人が相当なお金持ちだということが分かる。


修繕された跡がちょくちょくあったり壊れやすい物が全く無かったりとなんとなく理由が想像できてしまうが、能力者が生活しやすい様にしているのだろう。

12年以上前から能力者を集めているというのは本当の様だ。


「皆様お待たせ致しました。やはりこの時間ですと起きているのは私くらいでした。」


「そういえば夕霧さん……じゃなかった、千華ちゃんは何故この時間に起きていたの?服装も制服で……」


「それは私の能力の弊害で鍛錬をしていた、と言いますか……とにかく、まずは皆様のこれまでの事と能力の確認をさせて頂けないでしょうか?

主人にも伝えなければいけませんので。」


この屋敷には今現在十数人ほどの能力者が住んでいる様で、皆自由自在に能力を行使できるほどのレベルだそうだ。

外の世界にこんな所があるとは思わなかった。


それでもやはり何百人もの死人を出しながらも生き残れた私達の能力には異端なモノが多いらしく、話を聞く度に千華さんは驚いている。


脳すらも再生する治療能力、人間を完全に支配し1000kmを完全に見通す精神能力、超大型貨物車を持ち上げる強化能力。


よくよく考えてみると驚くのは当然な気もして来る。


「まさかこれほど高位の精神系、強化系、治癒系の能力を持つ方がいらっしゃるとは……

それに先程のあの女の子が私達の100倍ものエネルギーを……?

あの人が珍しくメールに顔文字を使っていたのも頷けますね…」


微妙に可愛く感じてしまう自分が悔しい。


「それではえーと、雪さん。

雪さんの能力も教えて頂いてもよろしいですか?」


「あ、うん。私…私の能力はね……8年前に実験で消えて無くなっちゃったの。」


「消えて……無くなった……?」


「うん、無理な実験とかキツイ薬の服用とかでね。

今私にできるのは簡単な系統の能力を一瞬だけ使用することくらい。コントロールできないから使ったら身体中が滅茶苦茶になっちゃうんだけどね。ここ数日だけでも二回使っちゃって2回とも死にかけてたみたいで……あはは……」


「雪、笑い事じゃないからね。」


「ご、ごめんなさい姐様……」


そんな風に私と姐様がいつもの様な会話をしていたが、千華ちゃんはそうではなかった。


「……そんな……ことが……

大丈夫なんですか雪さん……?」


「うん、もう8年も前のことだしね。

それに姐様が側にいてくれたから今は大丈夫、もうこの能力を気軽に使おうとも思わないよ。」


彼女は私のことを本気で心配してくれていた、やっぱりいい子だ。


「そういえば千華ちゃんは何も飲まないの?

私達ばかりこんなお茶やお菓子を用意してもらっちゃって。」


話を切り替えるために先程から気になっていたことを口にしてみる。

私達を客としてもてなす為なのかな、とも思ったがそこまで気を遣ってもらうのも気が引けてしまう。


「ああ、いえ、お気になさらないで下さい。

これは私の能力の問題でして……好きな時に飲んだり食べたりすることができないのです。」


「飲んだり食べたり……できない……?」


「ええ、入浴もそうですね。

私の能力は「"自動装甲"/"Auto armor"」というものして、文字通り私の周囲には自動で装甲が張られているんです。私が自分の一部だと認識した物以外は通さず、衝撃も吸収します。

問題はこの認識の境界が非常に曖昧なことでして……服は大丈夫なんですが飲み物や食べ物の判断が時と場合によって変わるのです。

ですから鍛錬で自身を限界まで追い込み意識を朦朧とさせた状態でなければ確実な食事や入浴ができなくて……

食べたい物は沢山あるんですけどね。

食べる為には必死に鍛錬して、ようやく食べれた時には味も分からない。

本当は紅茶の味や風味もしっかり楽しんで飲んでみたりしたいのですが……

これが先程話しました生活に支障が出てしまっている能力のお話です。」


この話を聞いた瞬間、ハワードと亮介と姐様が一斉に私の方へ顔を向けたのを感じた。


分かってます、分かってますとも。


もうなんか運命的なモノも感じるくらいに分かってます。不便なことも多かったこの体質が誰かの役に立てるというのなら私は喜んでお手伝いします。

きっと私の力を使えば彼女の苦労を少しでも減らせると思うから。


「千華ちゃん、少しだけ動かないで欲しいんだけど、大丈夫かな?」


「へ?あ、はい。何をするのですか?」


「いいからいいから。じゃあ肩に手を置くよ?」


「いえ、ですから私の"自動装甲"/"Auto armor"のせいで他人が直接触れることすらもですね……」


トンッ


「え……!?」


彼女の目が大きく見開かれる。

恐らくこの能力の仕様上、誰かに直で身体に触れられたことすらも無かったのだろう。相当な苦労があったんだと思う。他人との違いに相当悩んだな違いない。


「うん、やっぱり触れた。」


「あ……え……?どう……して……?」


「千華ちゃん、私の紅茶、まだ手を付けてないから飲んでみて?今なら貴方の手で直にカップを持つこともできると思うよ。」


「あ……あ……熱っ!」


「落ち着いて落ち着いて!

ゆっくりでいいよ、時間制限とかは無いから。」


手を震わせながらカップを口元に運ぶ彼女。


ズズッと音を立てて紅茶を飲んだ彼女は……


「うっ……うっ……ぐすっ……うぇぇ……」


泣き始めてしまった。


「えっ!?あ、え!?ど、どうしたの!?大丈夫!?そんなに熱かった!?」


「ち、違うんですっ!違うんでず!

私、その、こんな日が来るとは思ってなくて…!誰かに……触れて貰える日が来るなんて…思って……なくて…!嬉しくて……嬉じぐでぇ……!」


「雪、貴方女の子泣かせるなんて酷いことするわねぇ?」


「これは雪ちゃん責任取ってあげないと。」


「なんで!?なんでそうなるの!?」


とは言えこんなに喜んで貰えて素直によかったと思う、今まで亮介や姐様に迷惑ばかりかけてきたこの体質を初めて好きになれそうだ。


「でも……どうじてこんなことができるのですか…?」


「えっと、さっきの実験の後遺症でね、私のPSYエネルギーは剥き出しの状態なの。

だから私の身体からは常に凄い勢いでPSYエネルギーが放出されてて、相当な密度の能力で無い限り能力という形ごと搔き消しちゃうの。

おかげでエネルギー量は普通の1/10程度しか無かったり、電子機器を困らせたりと悪い事の方が多いダメダメな体質なんだけどね。」


実際これのおかげで私は普通の治療を受けようとすると機械を壊してしまい、治癒能力での治療も非常に困難になってしまっている。

姐様が居ないと生きていけない、という言葉が言い過ぎではないというのが現状だ。


それでも、


「そ、そんなことはありません!ダメダメなんかじゃ絶対ないです!!」


と、彼女は言ってくれた。


「貴方のおかげで私は初めて紅茶を楽しむなんてことができました!

貴方がいれば、私が今までできなかったことをもっともっと沢山することができそうなんです!!

私にとって貴方の能力は救いの手なんです!」


「……そう言ってくれると私も嬉しい。

困った事があったら遠慮なく私のことを頼って、私もこの体質が誰かの為になるのならこれ以上に嬉しいことは無いんだから。」


「……ありがとうございます……!」


凜とした表情もいいけれど、彼女はこっちの柔らかい笑顔の方が似合っていると思う。この笑顔を他ならぬ私が作り出せたと言うのだから余計に嬉しい。


「あの……早速で申し訳ないのですが……その、クッキーを……食べてみても、いいでしょうか……//」


可愛いか!可愛いか!!

私より48cmも高いのに可愛いか!!!


今後もこんな彼女を見ることができるのならと、私はこれからの生活がとても楽しみに思えた。



……現実はそんなに美味しい話ばかりで無かったが……

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