2.姐様
そもそも超能力とは何か。
それは別に特別なものではなく、本来は人間ならば誰でも持ち扱うことができるはずの力、科学が発展するにつれて封印されていった力。
"PSYエネルギー"と研究者達に呼称される力によって発揮される超常現象。
要は卵だ。
PSYエネルギーという卵の中身はその硬い殻に穴が空いた者だけが扱うことができる。その扱い方も穴の空き方によって多種多様だ。
望月茜は卵自体が大きいが穴が小さい為、その力を効率良く扱うことができない。
千頭亮介は卵の上部に2つの大きな穴が空いている。
ハワード・ヒューズは下部にどデカイ穴が1つ開いている。
穴が大きいほど出力も上がるし扱いやすさも上がる、個人の努力によってより広げることも穴を増やすこともできる。
一方私は…
「おはよう、雪」
優しい女性の声で起こされた、私のとは対照的に茶の色をしたフワフワとした長い髪を揺らす女性。
12年間続いている習慣のようなものだ。
「おはようございます姐様……」
「うん、おはよう。今日もしっかり起きれたな、偉い偉い」
ワシャワシャと頭を撫でられる。
「姐様のおかげれす……ふぁ……」
「朝弱いのは12年経っても治らないな。ほら、髪整えてあげるから少しボーッとしてな」
「ありりゃとうございまひゅ……」
自分より2つ年上の彼女は慣れた手つきで私の髪を整えてくれる。私はこの時間が1日の中で1番好きだ。
「昨日は夕食遅かったけど、何かあった?」
「いえ、研究員の腹の居所が悪かったらしく遅らされただけです、今更私にそこまでの利用価値はありませんし」
「……そっか。私が変わってやれたら良かったんだけどね……」
「もう終わった話ですよ、姐様。姐様の力の方が有用だった、それだけのことです」
そう、それだけ。何の役にも立たない能力が、人を癒す力より大切にされるはずがない。現に今でも彼女を頼って政界の大物とやらが多く訪ねてきている。
彼女だけ待遇が違い、多少の優遇も効くのは至極当然のことだ。
「それに利用価値の無くなった私が処分されないのも姐様の尽力のおかげなんです、感謝こそすれ恨んだり妬んだりしたことは一度もありませんよ」
「……うん、ありがとう。よし、できた。
ほら、朝食行くよ、みんな待ってる」
「はい、姐様」
私が姐と慕う彼女、秦野詩摺は未だに私の能力について引きずっているのだろう。
私の能力は8年前に消えて無くなってしまった。