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12.一方その頃

鬱蒼と茂る木々、周りを見渡せば緑、緑、緑

針葉樹が少なく光に溢れ、鳥や虫の声が響き渡るこの森を、白衣姿のその男は1人歩いている。


万が一にも…と考え自身の無精髭を弄りながらも周囲を探るがPSYの痕跡は見当たらない。そもそも自分に能力者の探索などという依頼をすること自体が御門違いなのだが…

探知能力などとは無縁の自分にできることは当てもなく探し回ることだけ、人より頭は回るがこの広大な範囲を探すとなると流石に骨が折れる。


「…ん?」


背後から複数人の足音。慣れた足取りに金属のぶつかり合う音…まるで監視に引っかかった獲物を追い詰める様に一直線にこちらへ向かって来る。

やはりこの森を指した自分の勘は間違っていなかったようだ。


カリッ


「動くな!ここは政府指定の立入禁止区域だ!命が惜しければ今すぐ両手を挙げて降伏しろ!」


人数は3人。あれは…なんだったか、自動小銃とか言ったか。このご時世に軽々しくそんな物を持ち出して来る辺りここに何かがあるのは間違いない。


男はニィッと口角を上げる。


「何を笑っている!ふざけやがって…おい!殺れ!」


「い、いいんですか隊長!ほんとに!?」


「構わん!抵抗した、と報告すれば良いだけの話だ!何かあってからでは遅い!構えろ!」


「りょ、了解!」


3人が小銃を構える。しかし男はリーダーらしき彼のその必死な表情から1つ確信を得ることができていた……ビンゴだ、と。

あれは一度自分だけではどうしようもない圧倒的な力を見たことのある人間の目だ。彼は無意識で気付いているはずだ、目の前に立つその男も"能力者"の1人であるということに。


「う、撃てぇぇぇ!!」


小銃による3発のバースト射撃、その三重。

訓練された彼等による合計9発ものその銃弾は、正確に、確実に男の身体を捉えた…が…


「かふっ…!?」


次の瞬間吐血したのはその男ではなく、隊長と呼ばれた彼の方であった。

腹部には9つの銃痕、紛れもなく彼等自身が放ったそれだ。


「な、…なにが…!?」


「た、隊長!ひ、ひぃぃぃぃ!!」


「うわぁぁぁぁ!!」


「う、うつな……撃つなぁぁぁ!!」


彼の決死の叫びも虚しく両隣の隊員も同様に地に伏す。銃弾は全て、確実に男に当たったはず。それでも弾は全て隊員達に帰って来ていた。

反射能力…?それにしては一度目の軌道がおかしい。

ダメージ自体を反射したのか?だがそもそも奴は傷一つ受けていない…

なんだ?何をした…?


「…いい判断だった、私達相手に重火器は基本的に有効だ。それを能力を発動させる間も与えず一斉射撃を指示したのは完璧と言ってもいい。

肉体強化の使えない私の様な能力者なら、本来ならば狩れていただろう。」


「…おまえの、能力は…なんだ…?

反射では…ない…のだろう…?」


「反射か。なかなか興味深い推論だ。

だが違う、"遠隔瞬間射出/Asport"という能力だ。」


「アス…ポート…?アポート現象のことか…?」


「明確には違う。Apportは異なる場所にある物体を引き寄せる、取り寄せることだ。

対してAsportは物体を異なる場所に送る能力のことを指す。」


「嘘を…吐くな…!物体を対象とした能力の場合、最低限、発動時点でその対象を目視している必要がある…!貴様には9発もの弾丸は見えていなかったはずだ…!!」


「ほう、なかなかに詳しいな、ただの兵ではないな貴様?」


「…元、研究員だ…仕事が嫌になって警備に志願した…そういう訓練は…していたのでな…」


「なるほどな。貴様の言う通り本来私の様な"物体を対象にした能力"は対象物を視認していなければ発動することはできない。能力の種類によってはそれ以上に制限も付くだろう。

…だが俺に必要な工程は"射出位置の設定"、これだけだ。」


「…どういう…ことだ…」


「対象物を視認する必要が無いということだ。"接触"さえすればオートで発動する。」


「…!そんな…バカな話が…!それでは能力系統の中でも最高位に位置する"自動発動系"能力レベルの話ではないか!…ごふっ」


「その分、自身の移動はできなかったり、触れなければ発動できなかったりと制限はある…が、それでも充分に頭のおかしい性能ではあるな。

なにせ…」


「射出位置の…設定さえ…しておけば……あらゆる…物理攻撃が…無効化される…から…だろう?」


「…そういうことだ。小規模の爆発くらいならばそれごと遠隔射出できる。」


「馬鹿げて…やがる……あいつ等…も…ふざけ…た…もん…だった…が……」


「あいつら…?おいまて貴様、その話もう少し聞かせろ」


「………」


「ちっ、しまった…研究員と聞いた時点で問い詰めるべきだったか……ゴフッ…カハッ…ペッ…」


「…やはりこれは最高に味が悪いな…不味すぎてどうにもならん…」


「…"遠隔瞬間移動/Asport"も万能では無い。

射出位置の設定をし続けるということは常に脳を稼働させている、ということなのだからな。

…これでは自動発動など夢のまた夢だな…」


「…それにしても…反射、か。また思いがけずいいアイディアを貰ってしまったものだ………

まあ、今はそんなことより人探しだが…ん?」


白衣の男が吐き出したそれは黒色のガムの様なもの。それに惹かれて一匹の虫がやってきて、一部を喰らうと虫は声にもならない鳴き声の様なものをあげ転倒した。


それを見て男は再び森の奥へと歩き出す


残された9発の弾丸を撃ち込まれた元研究員の死体、今は動かない彼の名札にはこう書かれていた。


【第1隔離施設警備員】

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