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1.私を待つ人達

ボンッ


聞き慣れた音がした。

音の方向からするに昨日入って来たばかりの新人の男の子だろう。新入りの癖に馴れ馴れしく私に話しかけ、バシバシと肩を叩いてきた彼だ。

憎らしい程に憎めない笑顔が特徴的で、誰とでも仲良くなれそうな男の子。名前を確か"ジュン"とか言ったかな、実際なんだかんだ言って仲良くなれると思った。


まだ彼が生きていたら、だが。


外が騒騒しい、どうせまた爆発系の能力でも引き当てて暴発したか自分に向けてしまったかのどちらかだ。

もう助からない人間にそこまで慌てるウチの科学者達は、むしろ人が良いのだろうか?


「……それはないかなぁ」


少なくとも私に毎日毎日こんな配線だらけの醜い被り物を被せて喜んでいる連中に人並みの良心が残っているとは思えない。

ああ、本当にこんな事の何が楽しいのか。

それを理解出来た事はただの一度もありはしない。


「なんです?貴方の能力について何か分かりましたか?」


「いいえ、少し考え事をしていただけです」


「そう、少しは集中して貰えると助かるのだけど」


そう言って私にゴミを見る様な目を向ける彼女も入って3ヶ月くらいは『私が貴方達を助けるから!こんな所から絶対に出してあげるから!』なんて憤っていた事を思い出す。


別に彼女を責めるつもりも無いし、5歳の頃からここに居る私としては彼女に欠片の期待もなかった。

ただ『少し心が折れるの早くない?』と皮肉は言ってやりたい。



今日の実験予定を全て終わらせ、いつもの無駄なリングを付けて食堂へ向かう。長引いてしまったのでもう誰も居ないだろう…


「やあ、今日は遅かったね、もうみんな食べ終わって部屋に戻っちゃったよ」


そう私に話しかけてきたのは私と同い年の癖に38cmも高い場所に頭を持つ男、千頭亮介だった。私と同じ様にリングを右腕に付けて食後のティータイムといった所だろうか。


「わざわざ待っててくれたの?」


「ティータイムのついでにだよ、こっちが本命」


そう言って掲げた小説のタイトルは"ツンデレ恋愛指南書"。


「……何度も言ってるけど私あんたと恋愛する気無いからね?」


「いや、僕だってそっちの気は無いよ。君男だろう、性別上は」


「あんたまで私の見た目が女々しいって馬鹿にするの?そろそろ泣くよ?」


「言動もだよ、細かい所作も今日地上で見たどの女性よりも女性らしい」


「また実験中に千里眼使って……」


「むしろこちらからデータ提供をしているんだから感謝して欲しいくらいだ、観測できてたかはさておきね」


結局読んでいた小説を閉じて私とのお喋りに興じる所を見るとツンデレ指南書は役に立っていたらしい、不覚にもちょっと嬉しい。


千頭亮介。私と同い年の17歳で身長は183cm痩せ型、金色の髪に整った顔、紳士的な性格で読書が趣味とどこの王子だとツッコミたくなる様な男だ。


「それで、今日は何を見てたの?私にも教えてよ。」


「うん、今日は秋葉原という街を見てたんだけどね…」


そう言って分かりやすく、適度にユーモアを交えつつ話し始める彼。

彼は高レベルの精神系能力者である。"千里眼"という1000km以内を自由に見通す目と、"精神端子"という人の精神に介入できる能力を持つ。

彼の能力を使って地上の情報を得たり、密談をしたりするのが、こんな密閉された空間に閉じ込められて日々を過ごす私達の最高の娯楽と言っても過言では無い。


「……という訳で、今この"ツンデレ"というモノを学んでる最中なんだよ」


「ふ〜ん、最近のファッションとかどう?変わってた?」


「う〜ん、あの街のファッションはなかなか特殊だったからなぁ……でも君より可愛い子は居なかったよ」


彼は基本的には良い友人である。


「なんで私を引き合いに出すんだ」


「君が僕の理想的な女性のそれなんだから仕方ないだろう」


これさえ無ければ……いやほんとこれさえ……


「あんたさっき私と恋愛する気無いって言ったよね?」


「恋愛する気は無い、でも僕の理想の女性像が君な事はそれとは別の話だ。白く長い髪に透き通る様な肌、燃える様な紅い瞳に小柄な体型、少し強気だが凛とした表情と相まって一種のカリスマ性すら感じさせる。

ほら、理想の女性だ」


「あのね、この話題をすると確実に負けるから私がしたがらないの知っててやってない?こんな見た目しておいて男として見られたいなんて矛盾してるって私が1番分かってるわよ……」


「まあまあ、世の中には色んな人が居るんだ、きっと君を男として見てくれる女性もどこかに居るはずさ」


「……まさか私を性欲の対象として見てはいないでしょうね?」


「大丈夫、まだその一歩は踏み込んでない」


「まだってなんだ、まだって。今後踏み込む可能性を示唆するな馬鹿」


そう言って食事をとることに専念した私を彼が腑抜けた顔で見ているが……それくらいは地上の話を聞かせてくれた駄賃に許してやった。




「お姉ちゃんっ!」

夕食を食べ終わり亮介と部屋に戻ろうとしたところに彼女が現れる、どうやら私を待っていてくれた人物はもう1人居た様だ。……いやもう1人居るな。


「もう茜、私はお姉ちゃんじゃないっていつも言ってるでしょう?」


「お姉ちゃんはお姉ちゃんだもん、ねっハワード」


「そんなナリをしているお前が悪い」


なぜ今日に限って皆私の外見を弄ってくるのか、ジト目で目の前の黒人に抗議するが彼はニヤニヤと似合わない笑みを浮かべるばかりである。


「で、茜とそこのロリコン外国人は何しに来たの?」


「ロリコンやめろ、幼女趣味の変態って意味だろそれ、ぶっ飛ばすぞ」


「ところで、ここの白髪少女はロリの部類に入るのだろうか?」


「ただのチ○コ付けた小さい女だし入る可能性はあるんじゃないか?」


「茜の前で変なこと言うのはやめろ変態共!」


7歳の女の子の前でなんて会話をしているのか、彼女の性癖が歪んでしまわないか心配でならない。


「???よく分からないけどお姉ちゃん!寝る前に本読んで!"1億回死んだ猫"って本なんだけど!」


「だいぶ死んだな、私の知ってる猫の100倍死んでるんだが……分かった、じゃあ先に部屋で待ってて。お風呂入ったら直ぐに向かうから」


「うん!!」


癒される、彼女と話していると心が洗われる様な気がする。

望月茜、2年前にここに入ってきた子だった。それまで死亡率99%だった低年齢の能力調査での生き残り、発覚した能力は"極めて膨大なPSYエネルギー"。平均的な超能力者の100倍ものPSYエネルギーをこの小さな体に宿している。ちなみに私の1000倍、心が折れそう。


「ところで最近地上では男の娘という言葉が流行っているそうでね……」


「おいおいそれ完全にこの白髪娘のことじゃねぇか、最先端を走ってるとか流石だな」


と変態談義に花を咲かせるこの真っ黒な変態はハワード・ヒューズ。年齢も国籍も知らないがムキムキで180cmも背丈がある上に能力も極めて高レベルの"身体強化"と先祖がゴリラとしか思えない男だ。


「違うよハワード!お姉ちゃんは男の子じゃなくて女の子だよ!」


「ああそうだったな茜、こいつは女の子だったな」


面倒見が良く、大体いつも茜といっしょに居ることから母ゴリラと呼ばれている。(私考案)

よく私のことを煽って来るが悪い奴ではない、が1発くらいは殴ってやりたいと常々思っている。この手で殴った所でゴリラにとってはハエが止まった程度のことなのかもしれないが。


「……でだ千頭、ジュンが死んだ。能力調査で"自爆"を引き当てた、あんな顔して自殺願望を持ってたみたいだな、あいつ。部屋一帯が血と臓物塗れだった」


「……そうか、彼とは仲良くなれそうだと思ったんだが」


「低年齢で99%、一般人でも85%の死亡率の実験だもの、仕方ないわ。そもそも未だに無理矢理能力をフル稼働させて判断するなんて原始的な方法に頼ってるのがおかしいのよ、12年も研究しておいてこの進歩の無さはどういうこと?」


「まあまあ、あまり研究員批判はしない方がいいよ、一応監視カメラ付いてるんだから、ここ」


「……わかった、また危険思想だって隔離されるのも嫌だし」


3ヶ月ほど隔離されていた記憶が蘇る。実験の痛みや苦痛よりも孤独の方が堪えると知った出来事だ。出来ればあんなことはもう御免願いたい、反骨心が無いと言えば嘘になるのだが。


「だが未だに千頭の千里眼が発動してるかどうかも判断できないレベルの技術力ってのはどうなんだろうな、俺達ですら何となくは分かるのに」


「まあそのおかげで僕は悠々自適なお散歩ライフを送れているから感謝しかないんだけどね」


「茜もお散歩したい!」


「また肩車してやるから我慢な茜」


「やったぁ!ハワードの肩車好き!」


これだからロリコンは…そんなことを思いながらも私は苦笑する。


苦痛しかないここでの生活を12年も続けてこられたのは、こんな何気無いやり取りがあったからこそである。

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