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物置

毒薬を売った薬売り

作者: 檸檬 絵郎

わかるか、私が何者か?

魚店(うおだな)

もし、そうであったなら、あるいは、私が爪の先ほどでも魚店の気性を持ち合わせていたものなら、あのようなことはできなかった。

(まこと)に正直に生きられる人間であれば、あのようなことはしない。

なぜ魚店が正直か、それは、私も知らない。

それについては、デンマークのハムレットなる王子が、よくご存じのはずだ。


ウェヌスよ、

あなたは美しい薔薇の花で御身を飾りながら、実に憎らしいお方だ。

今の私が、たとえ古代ギリシャやローマの人間であったとしても、あなたの美貌を想像してうっとりとしたり、ましてや、祈りを捧げることはない。


薬売り、

そう、私は薬売りだ。

あの若者は卑劣にも、私の貧しさにつけこんで、法律で売ることを禁じられている毒薬を売らせたのだ。

まだあどけなさの残る、あの若者。

若者特有の、純粋さゆえの残酷さ。

痩せこけて、見た目には(とし)のほどもわからぬようになってしまったこの薬売りが、その餌食となったのだ。


ウェヌスよ、

そうであるから、私はあなたに捧げられた生け贄なのだ。

彼らは死んだ。しかし、愛は()きた。

彼らの愛と、それゆえの死によって、両家は争いを悔い、和解するに至った。

のみならず、人々は、彼らを悲劇のカップルとして讃え、四百年の(のち)までも語り続けている。


ああ、愛の(くらい)の高きこと、いかに磐石なるものぞや。


そのために、私は、輝かしい悲劇の副作用(サイドエフェクト)として、罰せられねばならなかったのだ。




ロミオよ……、

お前の冷酷な微笑みが、未だに忘れられない。

私が背にした店の壁に、その恐ろしい掌をついたときの……。

ジュリエットが見たら、何と思うだろうか。

それでも、愛というものの力は衰えぬものなのか。


愛とは、

何なのだ、

ウェヌスよ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良いですね。 シェークスピアの、名文、名言、名調子の感じが出てます。 とはいえ、きちんと読んだのはオセロ―とリチャード三世だけで、肝心のロミオとジュリエットは未読ですが。^^;
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