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 魔法学園の入学式まで後一月を切った、季節が冬から暖かい春へと移り変わる、ある晴れた日。


 家庭教師が帰った後。部屋で黙々と勉強をしていた私に(ほら、私。小さい頃から友達居なくてボッチだったからさ。勉強は、しっかりやっていたんだよね。むしろ勉強と習い事しかやる事が無かったな―……あれ、おかしいね? 目から汗が出てきたよ…?)部屋の外から扉をノックする音と共に、メイドのサリーから入室の許可を問う声が掛かった。


 「どうぞ」


 入室を許可すると。『失礼致します』と、サリーがお辞儀をして部屋に入ってきた。


 「お嬢様、ロズモンド伯爵家のミレーヌ様よりお手紙が届いております」

 「ありがとう、下がっていい……いえ、用事を頼む事になるかもしれないから少し待っていてくれるかしら?」

 「はい、畏まりました」


 ミレーヌ叔母様から、この間書いた手紙の返事が来たようだ。


 ドキドキしながら(あ、ヤバイ。緊張から手汗が…)上品な桃色の封筒を開いて、手紙を読み進めて行くと――…


 時候の挨拶から始まり、魔法学園入学を祝ってくれる言葉が述べてあった。


…――そして。


 “確かに平日は学園で勉強。休日も学園内か、あの侯爵家で大人しくしているんじゃ息が詰まりそうよねー! 解ったわ! 隠れ家なんて面白そうだし、何だかわくわくするわね? 良さそうなところを探しておくから任せて頂戴! 何なら学園の入学祝いに小さな家位プレゼントするわよ?”


 …―という旨が。丁寧な言葉で書かれていた。


 「っ、ぃやったあぁー!!」


 あ。流石に家をプレゼントして貰う訳にはいかないので、そこは丁重にお断りをするけど。


 とりあえず、住む場所の目処は付きそうだ。


 「…お、お嬢様?!」

 「あ、あら。やだ、私ったら! ごめんなさいね、ウフフ」


 もし、断りの手紙だった場合。サリーに至急シャルに馬車の手配を頼んで来て貰うよう、残っていて貰っていたのだけど、その必要は無くなった。いやー、良かった良かった。


 ちなみに馬車の手配をしてどうするつもりだったのかと言えば…。


 少し前にも考えていた事だけど。私は断られた場合も考え、グリンベルグ領から離れた他の領で、良い場所が無いか調べていた。ココだ!って場所は殆ど無かったのだけど、全く無かった訳では無い。

 そう“殆ど”無かったのだ。つまり、幾つかの候補の中から目を付けていた所が一箇所だけあったんだよね。


 …――アーネスト伯爵領。位置はロズモンド伯爵領の隣の領土なのだけど、海に面した活気溢れる大きな港町を拠点にした、漁業や貿易が盛んな領土らしい。

 そこへ下見に行き、問題がなければ小さな家が建てられるだけの土地を売ってもらうか、もしくは長期で借りられないかを領主に、交渉(いきなり訪ねて、直接土地の持ち主に会うのは無理だろうから)の場を設けて貰えないかと願い出るつもりだったのだ。


 ―…と、言う訳なので。


 「サリー、もう下がっていいわ。残っていて貰っておいて、ごめんなさいね」

 「いいえ、そんな。謝らないで下さい。それにしても、お嬢様…何だか嬉しそうなお顔をしていらっしゃいますね」

 「ええ、悩みが一つ解決したのよ」

 「そうだったのですか、それは良うございました。それでは、私は失礼致します」

 「ええ、ご苦労様」


 笑顔で言うと、サリーも微笑みを浮かべ、来たとき同様にお辞儀をして部屋から出て行った。


 それから。んーっ! と両腕を天井に向けるように伸びをし、勉強の為に開いていた参考書を閉じた。


 「お茶でも飲もうかな…」


 ミレーヌ叔母様からの手紙も引き出しの奥に仕舞って。私は紅茶を淹れに厨房へと向かった。


 本当ならば。お菓子作りも練習を兼ねてしたいところなのだけど―…


 以前、簡単な物から作ってみようと厨房に向かった際。


 厨房に入って料理長に厨房を貸して欲しいと頼んでいたところを、タイミング悪く母に見つかってしまった。


 『マリスティア? 何をするつもりです? 貴女は調理(そのようなこと)を、してはいけませんよ。本当は紅茶を淹れる事だって、執事やメイドに任せておけば良いものを、殿下の為だと言うから、仕方なく認めて上げたのですよ』


 私に注意をして厨房の主とも言える料理長にも、それはもうしっっかりと。


 マリスティアに調理させるな、紅茶淹れる以外は絶対させるな、と。


 しっかり釘をさされてしまっていた。




 そんな訳で―…


 「マリスティア様、紅茶でございますか?」

 「ええ、少しお邪魔するわね。ええと、今日はレモンを入れたいのだけど…あるかしら?」

 「はい、こちらにございます」


 厨房では紅茶しか淹れられない。まあ、そのせいと言うか何と言うか。


 後で本当に“第一回 紅茶の淹れ方抜き打ちテスト”を実施したシャルから。


 「これは―……中々、ですね。頑張られたのですね、お嬢様」


 ギリギリよりは上の評価を貰えたのだった。






 学園に入ったら、やる事は山積みだ。


 勉強は勿論、学園に入ってから初めて使えるようになる魔法も(お約束と言うのかな。この世界には魔法があるけど、魔力が安定してくる一定の年齢以上にならないと、魔法は使ってはいけない事になっている。その一定の年齢が学園に入学できる十五歳からなんだよね)使いこなせるようになりたい…いや、ならないと!


 お金は引き続きしっかりと貯めて、お菓子作りも。きちんと売れる物になるまで練習あるのみ、だ!


 これらの事が。今の私が、やるべき事だ。どれも投げ出す訳には行かない! 気合い入れて頑張るぞ!


 うん、無駄に格好つけてみた。


 全部、自分の為だ。しばらくは忙しい日々に追われるだろうけど…頑張ろう。


 魔法学園の入学から退学(卒業と言えないのが、また…切ないな)までの時間は限られているのだから――…









 …――いよいよ来週。少し早めではあるけれど学園の寮に入寮が可能になる日がやって来る。


 私は入寮可能となる日に、シャルとサリーを私付きの執事とメイドとして伴って入寮する予定だ。


 ミレーヌ叔母様にお願いした物件が見つかるまでは、休日や長期休暇も学園で過ごすので家に戻るつもりはない。


 まあ、家からも。婚約者…つまりグリストラに関する事以外で呼び出される事も殆ど無いだろうけどね。









 …――そして、入寮日の朝がやって来た。


 まだ寒さが残る、澄んだ空の下。私は屋敷全体を、ゆっくり見回した後。学園に向かう馬車に乗り込んだ。




次回から魔法学園編になります!キャラが増えます。

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