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あれから。何度かシャルに紅茶の淹れ方を教えて貰って。(言えば嫌そうな顔をするだろうから言わないけど。シャルって何気に面倒見が良いんだよね)
その教え通りに紅茶を淹れられるようになってきた私は、ギリギリではあるけれど合格点を貰った。
『今度抜き打ちテストをさせて頂きます』って、言われたので腕を磨いておこう。あれ? おもてなしや自分で楽しむ範囲の腕前であれば良かったのだけど? あれれ??
「さて、と」
自分で先程淹れた紅茶を机の上の隅に置いて。私は、いそいそと手紙を書く準備を始めた。
机の上に普段使いよりやや上質な紙を置き、羽ペンにインクを着け、紙の上にペンを走らせて行く。
「えっと、挨拶はこんな感じかな」
挨拶文を書いて用件を書いていく。ざまぁ後に住む場所についてだ。
そこは、遠方に住むミレーヌ叔母様を頼る事にした。幾つか物件を探してみたけれどココだ! と思える所が、殆ど見つからなかったんだよね…。
叔母様は貴族第一主義の厳しい母の妹だが、母よりも昔から気が合い(カラッと明るく、さっぱりした性格の方で、私の事もよく気にかけてくれていたからかな?)普段から手紙のやり取りを行っている。
叔母様は『困った事があれば、いつでも言ってくるのよ!』と言ってくれていた事もあった為。私は有難くその言葉に甘えさせてもらう事にした。
短い準備期間を無駄に出来ないし、一人で何でもかんでもできる訳がないからね。
手紙には学園を追い出されてしまうだろう事は伏せておいて。(と言うか言えない。言ったところで流石に信じて貰えないと思う)
学園に入ると、休日や長期休みは外出が可能だけど、普段は寮での生活になる。卒業すれば、第二王子の妃教育が始まる――…
だから。時々でも良いので、家族に邪魔をされず、のんびり自由に過ごす事が出来る隠れ家的なものが欲しいと言う事。
出来れば叔母様達の領土内で、平民が暮らしている家と同じような、目立たない家を一軒。探しては貰えないか、値段によっては借家でも良いので、どうかお願いします。
―…という旨を書き、封蝋をした手紙を引き出しに仕舞ってから。紅茶を机の中央に運び、一口飲んだ。
うん。少し冷めてしまっているけれど、飲めなくはない。
もし、叔母様達に力になって貰えたら。ざまぁ後には、なってしまうけれど。叔母様と叔父様の二人に嘘をついてしまった事をきちんと謝ると共に。(恐らく婚約破棄の話などは私から言う前に、伝わってしまっているだろうけど)私の口から本当の事を話に行くつもりだ。
仕事については、今からでも出来る事を幾つか考えた結果。よく転生物やトリップ物のラノベやゲームにあった前世で培ってきた知識から…という事で、前世で好きだったお菓子作り(主に洋菓子だ)の事を思い出し、“お菓子屋さん”を開く事にした。
ピアノやヴァイオリン、乗馬に、お裁縫など…習い事は沢山していたけれど…実力はと言えば。せいぜい恥は掻かない程度。趣味の範囲内と言ったところだろう。どれもプロとしてやっていけるまでの腕前は無かったので、とても仕事には出来ない。
そして。他の選択肢が今のところ思い浮かばなかった事からも(こちらも今世では作った事が無いから練習は必要だけど)菓子職人になる事を選んだ。
ああ、そうそう。住む場所に関してだけど、叔母夫婦に協力をして貰えても貰えなかったとしても。
その二人以外には誰にも…家族にも知らせる気はない。(まあ、私付きの執事のシャルと、メイドのサリーは信頼出来るし…家の手入れに関して、在学中の早い段階で見つかった場合は、少し協力を願うつもりだから別だけど)
まあ、きっと侯爵家側も私が大人しくしている分には知る気も、そんな暇も無いと思うけどね。
友人は――………居ない。
か、勘違いしないでよね! 居ないんじゃなくて作らなかっただけなんだからね!
くっ、マリスティアは昔ワガママお嬢だったからな…。取り巻きらしき子達は居ても、友達は居なかった。
ええ、そうよ! 幼少期からボッチでしてよ、私!
おっと。いけない、いけない。取り乱してしまった。いいんだ。例え今、ボッチでも。
新しい土地で暮らし始めたら、友達を見つけるからいいんだ。そう『ニューマリスティアにご期待下さい…!』だ。
本当、何を言ってるんだろうね、私。
すっかり冷めてしまった紅茶をグイッと飲み干して。先程書き上がった手紙を引き出しから取り出す。そして、それを持って部屋を出たのだった――…。
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