43 ―ユリアス―
マリスティアサイドの話(41話)より少し加筆しています。
「…――これは。弾力がある? 不思議な食感、だな」
今、僕らが居るのは放課後の学園の食堂だ。ここで僕は彼女が作った菓子を食べている。
何故、食堂に居るのかと言うと――…
ジャガイモを彼女に分け、少し日が立った今日。彼女はジャガイモから作った粉を使ったお菓子を差し入れに、薬草学教員室まで来てくれた。
『ルチアーニ先生、ちょっと家庭学教員室まで行ってきますので、もし先生も外に出られるのでしたら教員室の施錠をお願いします』
やって来たグリンベルグさんと挨拶をし、ほぼ入れ替えの様な状態で、教員室に居た同僚が出て行ってしまった為、僕達は教員室に二人きりという状況になり、婚約者の居る彼女に取って良くないと思い食堂へと移動したのだ。
そして。彼女お手製のミルクプリンは、と言えば。オレンジのソースが掛かっているからミルクだけの味に飽きないし、暑いこの時期に、さっぱりした後味で美味しく頂けるものだった。
「だが、このオレンジのソースとミルクの風味があっていて食べやすいし、美味しい。まさか、あの芋からこのような菓子が作れるとは驚いたな。粉状にした物から作ったと言っていたな、興味深い」
「ふふっ、お気に召して頂けたのでしたら嬉しいです」
嬉しそうに笑う彼女。僕は黙々とプリンを口に運んだ。(彼女の頭を撫でたい、と思うのはセーフなのか? アウトなのか? …――うん、アウトだな)
「ああ。ところで、カクタリコだったか?」
「“カタクリコ”ですわ、先生」
ミルクプリンを食べ終え『ご馳走さま。美味しかった』と彼女に礼を告げ、カタクリコについて尋ねる。(つい、名称を間違えてしまった…)
「そう、それ。カタクリコ。それは、どうやって作った物か聞いても?」
「ええと、説明すると長くなりますわね…。それに私は説明するより、実際に作りながらの方が説明しやすいので、そうですね…寮の料理長のエウラさん、彼女も製法は知っていますので、彼女に尋ねれば私よりも解りやすく教えて頂けると思います」
製造過程に興味があるのも嘘ではないが、寮の料理長とはあまり面識が無い。サバサバとした明るい人柄だと聞いた事があるが――…僕は、やはり彼女に教えて貰いたい、と思い、彼女に提案してみる事にした。
「あのー、ルチアーニ先生? どうかしましたか?」
「あ、ああ。そう、だな。(つい考え込んでしまった)ふむ…いや、やっぱり、君に教えて貰いたい。実際に作りながらの方が説明しやすいと言うのなら、ジャガイモは提供するので実施で教えて欲しい。ただ、授業で資料の一つとして使用してからになるから少し先になる。それと少しだけ、出来た物を分けて貰いたいのだが…どうだろうか?」
ジッと彼女の翡翠色の瞳を見つめる。
「解りましたわ。ですが、私。本当に説明は上手くありませんので、作りながら覚えて下さい」
彼女は少し眉を下げた後、まあ良いか。といったような表情で頷いてくれた。
「ああ、ありがとう。宜しく頼みます」
嬉しくて思わずペコリと頭を下げる僕に。
「い、いえ! こちらこそ、ジャガイモのご提供に感謝しますわ。それでは、先生のご都合の良い日を教えて頂けましたら、合わせられる限り合わせますのでお知らせ下さいませ」
「ああ、解った。楽しみにしている。ん? そろそろ戻らないと。食器はどうしたら良いんだ?」
思ったより長く食堂に居たようだ。そろそろ同僚も戻ってるだろうし(教員室の鍵は全員が持っているから問題は無いのだけど)作り掛けのまま引き出しに仕舞って来た二年生の小テストを完成させて置かないと。
「は、はい。ああ、それでしたら私が食堂からお借りしたものなので、きちんと返しておきますから、お気になさらず」
食器については彼女が片付けて置いてくれるそうなので頼む事にした――…
「そうか。それでは、また」
…――そう言って。僕は食堂を出た。
「あらー、ユリアスじゃなーい。なぁにニヤニヤして? ご機嫌ねー」
食堂の出入り口で、ラングリスタに会った。
「お前こそ何をニヤニヤしている? 気色悪いな…」
コイツとは年も近く、割と仲は良いと僕は思っている。
「ひっどいなぁ? ワタシはいつもニコニコしていて愛想イイでしょー?」
「知らない。ところで食堂に用事か?」
キリがないので尋ねて見れば――…
「用事って言うか、お腹が空いたからー、何か食べよっかなーって。ユリアスも一緒にどうー?」
…――まあ、ここ食堂だしな。おかしな事を聞いてしまった。
そして、見て解るように僕は今、食堂から出てきたところなのだが。
「いや、もう教員室に戻るところだから。それじゃ、またな」
「はーい! またねー。あ、そうだ。今度飲みに行きましょうよ。その時、ニヤニヤしてた理由教えてよー」
「大した事じゃない」
「まーたまたー? …ねぇ、アンタ大丈夫なの?」
軽いからかい口調から真面目な口調に変わったラングリスタの顔を見る。
「何の事だ?」
「“彼女”の事」
ラングリスタの視線は食堂の中に向いた。(グリンベルグさんの事か――…? やましい事は無いが、一緒に居たのを見ていた、のか?)
「アンタが生徒を誑かすようなバカじゃないって事は知っている。だが、本気なら…尚更不味い相手だぞ、ユリアス」
「な、んの事か、解らないな」
明らかに動揺しています、と言ってしまったようなものだが――…
「まあ、良いわ。それも、また今度ね。やあねー、そんな顔しないでよ。何もアンタをイジメようって訳じゃないのよ。ちょっと心配になっただけよー」
…――ラングリスタは僕の肩をポンと軽く叩くと食堂の中へと入って行ってしまった。
解っているんだ、本当は。彼の言いたい事。
「解って、いるんだけどな――…」
もう少し、もう少しだけでいいから。どうか“彼女への気持ち”に、気づかない振りをさせて欲しい。
ここまで、お読み下さりありがとうございます!!




