37―シャル―
シャル視点になります。マリスティアの反省文を書き上げるまでの三日間の話、と言うより帰宅後(反省文初日?)の話になってしまいました^^;
本日は、お嬢様にとって二度目の精霊の試練を受ける日だった。
朝。前回の水の精霊の試練の時のように、学園までお送りしてから数時間が過ぎて、今は午後から夕方に近付く時間帯になっていた。
「ただいま帰りましたわ…って、あれ? シャルだけ?」
「おかえりなさいませ、お嬢様。はい、サリーは外出しております」
お嬢様も試練を終えて学園からお戻りになられたのだが何となく様子がおかしい。どことなく元気が無いような気がする。
もしや、火の洞窟で何かあったのだろうか? それとも火の精霊と契約が結べなかったのだろうか? 等と思っていたところ。
お嬢様の腕の中に、朝には見られなかった紙の束がある事に気がついた。
「お疲れ様でした。お嬢様、火の精霊の試練は如何でしたか?」
「あー、うん。試練ね、試練…うーん。それについては後から話すよ」
「? はい」
お嬢様にも伝えたが、サリーは今この場に居ない。それが解った為、お嬢様は素の状態で話されている。
「お荷物をお持ち致します。この後はどうなさいますか?」
「あー。ありがとう、でも荷物は大丈夫。重い物と言ったらこの紙位だからね…ハハハ。えーと、この後はちょっと学園の厨房まで行って来ようかなって思ってるよ……夜食が必要になるし…」
「それでしたら、お供致します」
夜食が必要とは一体? お嬢様が小声で呟いた言葉は、しっかり私の耳に入っていた。(学園に向かう時に紙の束と夜食について尋ねてみましょうか)
「うん、じゃあ鞄と紙を置いたら直ぐに行こうと思うんだけど、シャルは大丈夫?」
「はい。直ぐに出られます」
「分かった。じゃ、置いてくるね」
「畏まりました」
日中はジワリと額に汗が浮かぶような暑さだったが…時間帯のせいか、今それは少しだけ引いて来ている。
そんな中、学園までの道を手提げのバッグをお持ちのお嬢様と(勿論、お持ちしますと言ったのですが、中身は大して入っていないからとの事で、ご自身でお持ちになられています)歩きながら。私は紙の束と夜食について尋ねてみた。
「お嬢様、お聞きしても宜しいでしょうか?」
「ええ、何かしら?」
向かいから寮に帰るのだろう二人組の女子生徒が歩いてくるのが見えた。彼女達とすれ違い、距離が少し開いてから―…
「先程、お嬢様が持ち帰られたお荷物に紙の束がありましたが、学園で何かあったのですか? それから、夜食がどうのと仰っていたようですが、そちらについてもお答え頂きたいのですが、何をなさるおつもりでしょう?」
…―私の質問に対し、お嬢様は『あっ、聞こえてたのね』と言いながら。気まずそうな表情を浮かべ『あー』『えーと』等と、少しの間言い難そうにしていたが。
「まあ、黙って居てもシャル達にはバレちゃうだろうから言うわ! いや、実はね――…」
お嬢様の話を聞いてから。
私は周りに人気が無いのを素早く確認した後。お嬢様のブラウスを背中側からバッと捲り上げようとしたのだが、それはお嬢様の必死な抵抗と、教師に回復魔法で治療して貰ったし、医務室の医師にもきちんと診て貰ったという説明により捲り上げる事は止めたのだが…(いえ、お嬢様の背中に少しでも傷が残っていたりはしないだろうかと、確認しようとした結果なのですが…。これは、私とした事が失敗をしてしまいました。お嬢様が怪我をされたと聞いて、少々冷静さを失ってしまったようです)
「でしたら、せめて――…《回復の霧》」
「わ! ありがとう、シャル。何か体が楽になったよ。予想外の事があったからね、ちょっと疲れていたのかも」
体全体に掛かる回復魔法をお嬢様に掛けておいた。
それから、夜食についても納得した私は、この後。お嬢様が学園の食堂の厨房に置かせて貰っていた小麦粉等で作った“とっても簡単お手軽ボーロ”(お嬢様命名だそうです。ちなみに片手で摘んで食べられるから夜食に向いている! との事ですが…食べすぎると太りますよ? と進言すべきか迷います)を作る手伝いや、後片付けを手伝ったりしながら。
日が暮れて来た頃、私達は厨房を後に寮へと戻った。
「あのさ、シャル」
「はい、何でしょうか?」
「手、出してくれる?」
「? はい」
お嬢様が、お部屋へと向かわれる時。そう声を掛けられて手のひらをお嬢様に見せるように出す。
彼女は持っていた手提げのバッグから、幾つかの小袋に分けていたボーロの内一袋を私の手のひらの上に乗せた。ふわっと微かに優しく甘い香りが漂った気がする――…
「これ、ちょっとだけどお裾分け。手伝ってくれてありがとう、シャル。後、回復魔法もありがとう。ただね? いきなり人のブラウス…いや、それに限らず、服を捲り上げようとするのは止めた方が良いよ? ボーロ。あんまり美味しくないかもしれないけれどさ…良かったら食べた感想とかも後で聞かせて欲しいな〜、なんて。それじゃ、私は感想文…じゃない。反省文を書き始めるわ!」
と、言って。タタタ…と小走りで部屋に戻って行ってしまった。
(おや。お礼を言う暇がありませんでしたね。そして、あれは動揺してしまったからであって、誰彼構わずやる訳ではありませんよ? もし、やっていたとしたら私、変態じゃないですか、お嬢様)
とまあ、言いたい事は色々あるけれども。
「…ありがとうございます、お嬢様。今日も、お疲れ様でした」
貰った菓子を食べた後に、もう一度。今伝えられなかったお礼と一緒に菓子の感想を伝えよう。
(…――それにしても。あのお嬢様が誰かを助ける為だけに、危険を顧みずに時間稼ぎ…その上、家の力に頼って試練を受けられなかった事や反省文という罰を揉み消す事なく、きちんと書くとか…本当に変わられたのですね。以前のお嬢様もバカ可愛い…いえ。お可愛らしかったですが。私は今の貴女様を…とても好ましく思います)
そう思ったのだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます!!




