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今回は少し長めです。また時間がある時に修正します。
気配や足音を消しながら慎重に素早く進む…なんて熟練者のような器用な真似が出来る訳もないので。(ただの魔法学園の一年生ですからね!)
とにかく急いで脇道を進んで行くと―…
(うっ。何だろう。…何か、段々暑くなって来ていない?)
ツツー…と。額から頬、顎へと汗が流れる。元より少し暑いなとは思っていた火の洞窟内なんだけど、空気がほんのり温かいなんてものじゃない。
暑い! なんだなんだ、真夏日を通り越して猛暑日か! って位の暑さになっていた。
この世界は夏でも、前世の日本で例えるのならば、真夏日位までの気温でもかなり暑い部類に入る。(ダラダラ汗をかき、汗だくになるヒロインちゃんや攻略キャラはゲームのイメージとは合わなかったんだろうね)
それが、ちょっと脇道を進んだら猛暑日って。E班の二人(自分の居る班以外は、あまり見てなかったからな…誰だろ)無事だと良いけど。
そのまま、汗を拭いながら。薄暗い…というより結構暗い道を歩き続けていたら、少し先の開けたスペース(試練の間の半分位…かな?)にユラユラと浮遊する橙色の物体と、その近くで腕を押さえながら地面に横たわる誰かを背に庇いながらも片足を引き摺るようにしながら物体の様子を伺う誰かの姿が見えた瞬間。
物体が一瞬、強く光ると同時に。二つの火の球が勢いよく二人へと向かって行くのが見えた。
(な!? 火の球!? 危ない…っ!!)
「っ、《水の壁》!!」
咄嗟に二人の前に水で壁を作ると、火の球は水の壁に食い込みながら。
(くっ、頼むから持って下さいよ…っ!)
ジュジュジュ…ジュワーッと勢いを落として行く音と共に蒸発した。水の壁も同時に消える。
水の壁は初使用の魔法だ。本来ならもう少しの間は持つのだろうけど、とりあえず攻撃は防げたので良しとしよう。
もう相手には、私が水の壁を二人の前に作り出した事から気配やら魔力やらで近くに居る事もバレているだろう。何より負傷しているらしいE班の二人も気になる。
利き手に魔力を集中させながら。ジリジリと壁沿いに物体から目を逸らさずに。二人へと少しずつ近づいて行く。
「なっ…!?」
そして、物体の正体とE班の二人の怪我の具合に気づき、目を瞠る。
物体の正体は『ファイヤーエレメント』と呼ばれる火属性の魔物の一種だった。
ファイヤーエレメントは人型、獣型、植物型のどれにも当て嵌まらず、名前通り『火の要素』で出来ている魔物で、他にも水や風、土等のエレメントも居るらしい。実物は見た事が無いので居るとは言い切れないけど。
(って言うか、ここは火の洞窟だから、居てもおかしくはないんだけど…何でこんな上層階に下層にいるような魔物が居るの!?)
本来なら中級の精霊の試練の時に出会うような魔物だ。
「う、う…」
「お兄ちゃん、しっかりして!」
腕をやられている人物は男子生徒で、足を庇いながらも彼を守っていたのは女子生徒だった。
二人の顔はそっくりで―…
「もしかして、双子?」
…―またフヨフヨと浮き始めるファイヤーエレメントを警戒しながら二人のもとに着いた私の呟きに直ぐ反応したのは女の子の方だ。
「! あ、貴女は! グリンベルグ様!?」
「…え? ぐ、っ!」
男の子が体を起こそうとしたのを止めて。(怪我が酷い。無理に起こさない方が良い)
「そのままで、居て下さい。助けに来ました、と格好良く言えれば良かったのですが、時間稼ぎ位はするつもりで来ました。今、回復魔法を」
気休め位にしかならないだろうけど、やらないよりはマシだと思い、まずは腕を押さえる男の子の手の上に、自身の手を翳し回復魔法を唱える。押さえきれていない箇所を見るからに裂傷を負ったのだと解る(っ、痛そう…ってレベルじゃないよね。出来るだけ回復しないと)
手のひらに魔力を集中させて―…
「《回復》」
…―ゆっくり癒やすイメージを持ち回復魔法を発動させる。(もっと使いこなせればパッと出来るんだろうけどね)
「っ、く!」
痛みと魔力による強制的な回復から来るだろう違和感に顔を歪ませる男の子に、もう一度《回復》を掛ける。
私の魔力残量では回復は後三回。防御が後二回。攻撃が後二回、と言ったところ。
今は攻撃が止んでいるけれどファイヤーエレメントは、またいつ攻撃してくるか解らない。
私だけなら走って逃げられるけど、少なくとも二人に走れと言うのは酷な話だ。
「っ、ありがとう、ございます。大分、楽になりました。ボクは、もういいから。もしまだ魔力に余裕があったら妹にも回復魔法を掛けてやって、貰えませんか?」
出血は止まったけど、少しでも動けば直ぐにまた傷が開いてしまうだろう兄? に制服のポケットから取り出した、三角巾代わりにもなるようにと普段から持っている大きめのハンカチを、傷が酷かった部分へ締めすぎないように巻いてから、彼の言葉に頷き、ファイヤーエレメントを警戒して居た彼女の前に屈んで―…
「お待たせしました。今、回復魔法を―…」
彼女の赤黒く腫れ上がる膝から脹脛の辺りに手を翳し、回復魔法を唱える。
「少しですが、腫れが引きましたわね。もう一度――…」
そう言いながら。再度、手のひらに魔力を集中させて、彼女の足に手を翳した時。
ジジジ…ッ。ビュオンッ!!
何かがショートするような小さな音と、重い物が風を切るような音が聞こえ来て、勢いよく振り向くと――…
「カナン!! グリンベルグ様っ!!」
そう言ったのは兄か妹のどちらだったのか。
「…――え、嘘でしょ」
思わず素で呟いてしまった。いや、これ素が出ない方がおかしいよ?
近くまで(駄目だ。コレ避けたら間違いなく彼女に当たるよ!)ファイヤーエレメントが迫って来ていた。
「う、《水の壁》っ!!」
(ヒィィ!! 体当たり!? 体当たりする気なの!? 何でいきなり物理攻撃に切り替えたの!!? エレメント系の魔物の考えは解らん!!)
咄嗟に防御魔法を発動させた…けれど。驚きと戸惑いで、ほぼ集中出来ていないのが解る。しかも、発動させたのは下級レベルの魔法な訳で。
バシャンッ!!
「っわ!?」
「きゃあ!?」
水の壁は、ただの水になり…私と彼女に降り注ぐ。
そして、次の瞬間。
「くっ!?」
ブォンッ!! と、勢いをつけたファイヤーエレメントの攻撃に。
私は彼女を守るように抱き締め、次に来るだろう衝撃に備えた――…。
ここまでお読み下さりありがとうございます!!




