16
寮に帰る前に、学園の食堂(と言う名のレストランだねコレ…)に寄る。
昼なのにディナー並のメニューの数々に目眩がしそうだ。
しかし、お腹も空いたし…よく見れば単品での注文も可能らしいので何か食べて行く事にする。(少しの間は仕方ないかな。学園の生活に慣れて来たらお弁当を作ろう…)
ええと…空いている席はあるかな?
キョロキョロと食堂内を見回していたら、給仕の人が空いている席に案内してくれた。
それから。私は、オムライスを単品で頼んで(オムライスは卵がフワトロで美味しかったよー!)食べて、席を立って。食堂内の様子を見回してみる。またもや、キョロキョロと。
(ん。そろそろ、空いてきたかな?)
そう思って。厨房に居るだろう料理長へ、近くに居た給仕の人に頼んで、取り次いで貰い、厨房を借りたいと頼んだところ…
『朝の始業時間から昼過ぎ…そうですね、皆様の午後の授業終了時間位までは、こちらも片付けや次の日の仕込みがありますので、お貸しする事はできませんが…放課後にあたる時間から学園の施錠時間の三十分前までであれば、厨房の一部はお使い頂いても大丈夫です』
無事、了承を得る事が出来た。
夜は学園全体が施錠されてしまう。だから、厨房の利用ができるのは施錠時間三十分前まで。
夜は…寮の方で借りられないか後で(歓迎パーティーが終わってからだね、忙しいだろうし…)頼みに行ってみようと思う。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま帰りましたわ」
寮に帰ると、いつも通りにシャルが出迎えてくれた。
「お嬢様、お食事はお済みでしょうか?まだのようでしたら軽食になりますが、直ぐにご用意致します」
「食事は学園の食堂で済ませてきたわ、ありがとう、シャル。ああ、そうだわ。この後、シャルかサリーの手は空いているかしら?」
薄手のコートと荷物をシャルに渡しながら問い掛けると…
サリーは実家から急な呼び出しがあり、外出をしているらしく(サリーは男爵家の出だったりする)留守との事で、シャルなら空いているとの事だった。
「学園の厨房…ですか?」
「ええ。放課後の時間から、学園が施錠される三十分前までなら…という条件で一部借りられる事になったの」
「はぁ…ですが、何故厨房を…?」
まあ、ユリアスもだけど。そういう反応になるよね。貴族は女子でも基本的に料理はしないからなぁ。
シャルには、これから手伝って貰う事が増えるかもしれない。だから…
「…お菓子作りの為よ。まだ詳しくは話せないけれど、お店に並ぶような物と遜色ないくらいの物を作れるようになりたいの」
しっかり目を合わせて話し、本気だという事を伝えた。
「……紅茶の時のように。殿下の為、という訳ではなく。マリスティア様、ご自身の為にと解釈して宜しいでしょうか?」
「ええ。それで合っていますわ」
シャルは顎に手を添え、何かを考えるような仕草を見せた後。
「…でしたら。私にもお手伝いさせて下さい。放課後から施錠前まで、となると帰りは日が落ちる時間帯になります。学園の敷地内といえども危険ですから」
「でも…それは、貴方の仕事が増えるでしょう?迷惑ではなくて?」
「お嬢様。私の業務内容には、お嬢様の身をお守りする事も入っております。ですから、お嬢様に何かある方が私としましては、大変迷惑です。大変迷惑です」
…何で今、二度繰り返して言ったんだろう。大切な事だから…?
「…う。そ、そうね?…では、お願いしようかしら?」
「畏まりました」
恭しく礼をされたんだけど…。敬われている気がしないのは何でだろうね?




