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後程、修正します…!
「フォフォフォ。それじゃあ、わたくしはそろそろ、お家に帰ろうかしら?ユリアス、たまには家にも帰ってくるのですよ」
「…はい、お祖母様」
…お?ユリアスは家から学園に通っている訳ではないのかな?
「それから、マリスティアさん」
「は、はい。何でしょうか?」
おばあちゃん…じゃない。ハルキア様『フォフォフォ』って、笑っていない…!何を言われるんだ…!?
「この子。無愛想に見えるでしょう?どうか誤解しないであげてちょうだいねぇ。ちょーっとだけ、不器用なだけなのよ。フォフォフォ」
「なっ!?お祖母様、何をっ!?」
あ『フォフォフォ』が戻った…じゃない。慌てているユリアスとか新鮮だなぁ。
「はい、解りましたわ」
「君も!返事をしなくていい!」
「いえ、そう言う訳にはまいりませんわ」
だって、ハルキア様に悲しそうな顔をされたら嫌じゃないの!
『フォフォフォ。それじゃあね』と、にっこり笑顔で手を振り(勿論、私も手を振り返させて頂きましたとも!)ハルキア様は薬草学・魔法薬学教員室から出て行った。
…ん?静かだな。
「えっと…」
ユリアスの方を見れば、若干頬の辺りが赤い。
「…今の祖母の言葉は忘れてくれ」
いや、無理だろ。と思ったけど、とりあえず頷いておいた。
「あー、先程の…一時間目の授業の事だが…」
本題に入るらしい。(婚約者が居るのに異性と二人きりなのは、教師相手でもあまり外聞は良くないと思うから、気を使ってくれているのなら助かるね)
「その…すまなかった。本当ならば僕が彼女達を叱るべきだった。君のおかげで助かった…ありがとう」
「いいえ、先生が詫びる事はございませんわ。騒いでいた彼女達に非がありますし…私は煩さに耐えきれなくて注意しただけにすぎませんわ」
ふるふると頭を横に振り『ですから、お気になさらないで下さい』と伝えた。
「それで、あのー、お話とは…この事だったのでしょうか?」
「ああ、そうだ。時間を取らせて済まなかったな」
何だ、そっか!あー、ホッとしたー!
「いいえ、問題ありませんわ。それでは、私はこれにて失礼致しますわ」
帰ったら。昨日、用意して貰ったリンゴとオレンジを、半分はドライフルーツ用に加工して…もう半分はコンフィチュールと、オレンジチップスを作ろうかな。あ、フルーツウォーターもいいな……果物、足りるかな。
そうだ。厨房の使用許可も取らないとダメだよね、きっと。
色々考えながら、ふと思い当たった事があった。
「あの、ルチアーニ先生。一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
退室する際、扉の前でピタリと立ち止まり振り向く。
「何だ?」
ユリアスに割り当てられているであろう机の上にあったテキストを引き出しに仕舞い、分厚い紙束(…あれって、裏返しの状態だけど…多分。今日の一〜三時間目の授業で提出された“薬草の模写”だよね…薬草学の希望者多いな…)を置いて、顔を上げた。
「すみません、薬草学に関する質問では無いのですが…学園か寮内の厨房を利用したい場合は、厨房の方に許可を頂けば宜しいのでしょうか?」
思いもよらない質問だったせいか、ユリアスは一瞬。きょとんとした顔をした。あ、なんか可愛い。
「あ、ああ。どちらも厨房の料理長に許可を貰えば使用できる筈だ。今、許可が下りやすいのは学園の厨房だろう。寮の厨房は朝晩の食事の用意で常に忙しい。それに確か、明日は全寮合同で一年生の歓迎パーティが開かれるから、今も準備で忙しいだろう。寮側の厨房を借りるのは中々難しいだろうな」
「なるほど…。ルチアーニ先生、詳しく教えて下さって、ありがとうございます。後程、学園側の厨房に行ってみますわ!」
早速、学園側の厨房に…と思ったけど、今はお昼時だから学園側の厨房も忙しいよね。二、三年生で混み合っているだろうし、一年生も居るかも?…私もお腹減ったなぁ。
「ああ。そうするといい…が、しかし。君は厨房で一体何を?」
いやいや、厨房でする事と言ったら調理だよね?他に何がある。
「えっ?ええと…」
ここは、正直に言うべきか。それとも、ごまかすか…。親切に教えて貰ったし…まあ、言っても良いかな。
学園は家じゃないし、ユリアスは生徒会顧問じゃない筈だから、お兄様にも漏れないだろう。
「その…実は私、お菓子作りに興味がありまして。個人的に練習を、と考えているのです」
そう答えると。ユリアスは更に何か言いた気だったけど。私は、そそくさと。教員室を後にした。退室を急がねばならない理由ができたのだ。
(セーフ!!)
グググゥ〜…と、盛大にお腹が鳴ったのは教員室を出て直ぐの事。
つまり…
「お腹空いたなぁ…」
…これが、退室を急いだ理由。何とも間抜けな理由だけど。お腹の音を聞かれるのは恥ずかしい…よね?




