12―ユリアス―
ま、また後に修正します…!
ユリアス・ルチアーニ、二十四歳。僕は魔法学園を卒業後、実家の公爵家の仕事には携わらず、自分が好きだった薬草や魔法薬の研究に携わってきた。
二十一歳の時。魔法学園の薬草学の教員に欠員が出た為、上司と学園からの依頼で教職に就いた。
教員生活はほんの数年、と。教員の中では若手の内に入る。けれど、僕の実家が公爵家と他の教員達も知っているせいか、教員同士の諍いに巻き込まれるという事は無かった。
(そこは有難かったんだけど、別のところで結局は諍いに巻き込まれているんだよな…ハァ)
入学式の翌日。毎年恒例、一年生の選択科目の体験・見学授業の日。
憂鬱な気持ちになりながらも、僕は朝から授業の準備の為、数冊の本を抱えながら廊下を歩いていた。
(…自意識過剰、かもしれないけど。また今年も薬草学に興味も無い女子生徒達に騒がれたら嫌だな。ハァ…本当に勘弁して欲しい。やっぱり僕に教師は向いてないんじゃないかな。あー、でも。やるからにはしっかりやらないと…。とりあえず、今日は基本的な傷に効く薬草の図解を見せて、図解に足りない部分の説明を加えた後に模写をして提出して貰うとして――…)
ちょっと弱音が混じってしまったけど、授業内容について考えながら歩いていたら――…
ドンッ、と。
反対側から歩いてきた一人の女子生徒と、すれ違いざまにぶつかってしまった。
(……っ!?)
ぶつかってしまった衝撃で、よろけた女子生徒。咄嗟に助けようと僕は手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。
バサバサッ、と。抱えていた本が数冊、落下してしまったが…仕方ない。
(もう、大丈夫だよな?)
彼女の腕をパッと離し、本を拾う為しゃがむと、彼女もしゃがみ込んで、本に付いてしまった埃を丁寧に手で払ってから。拾い上げた本を僕に手渡してきた。
「申し訳ありませんでした。それから、助けて頂きありがとうございます」
彼女はペコリと頭を下げた。普通、貴族の娘ならば自身に否があれども、そう簡単に頭を下げたりはしないものだけど――…
下級貴族、なのだろうか?(まあ、下級貴族でも変にプライドが高い人は高いけど)
「いや。僕も少々、考え事をしていたんだ。気にしないで」
彼女の方をロクに見ないまま、本を抱え直す。正直、あまり関わりたくないと思った。
「…あら。私も考え事をしていました。お互い、気をつけないといけませんわね」
暢気と言うか、朗らかと言うか。
そんなのんびりした返答を聞いて、思わず彼女の顔を見てしまった。穏やかに微笑う少女に一瞬、目を見張ってしまった。
チラリと。彼女を見てみる。
白磁のような白い肌。透き通った翡翠色の瞳に、高すぎず低すぎずの形の良い鼻と、小さく笑みが浮かぶ薄い唇は淡い桃色をしていて。空のように青い長い髪を、高い位置で左右一つずつに結わえている姿からは、少しだけ幼さが感じられた。
「……。ああ、そうだね。本、拾ってくれてありがとう」
「いいえ、私がぶつかってしまったのです。ですから、当然の事です…わ」
彼女が顔を上げた時。一瞬だけど驚いたような表情を浮かべたのを僕は見逃さなかった。
「…あ、の。私は、マリスティア・グリンベルグと申します。今年度入学致しました。失礼ですが…貴方のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
ん? 彼女…グリンベルグ嬢とは初対面のはずだよな? 名前も聞かれているし。
「…ご丁寧にどうも。僕はユリアス・ルチアーニ。薬草学の教員だ。それじゃ、僕はこれで失礼する」
あまり関わる気も無いし、気にする程の事でも無いか…と、思っている筈なんだけど。
「あ。はい…」
裏に含まれた感情が見えない…と言うか無いのだろう澄んだ翡翠色の瞳が、綺麗だったな…とか。
もう一度。微笑んでくれないだろうか、なんて思ってしまっていた。
…一体何を考えているんだ、僕は。
彼女に背を向け、僕は足早に歩きだした。
(早く、教室に行って授業の準備を…済ませてしまおう)
…――この時の僕は、これから“マリスティア・グリンベルグ”と長い付き合いになって行くだろう事を、まだ知らない―――…。




