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短編“街のお菓子屋さん”加筆修正の連載版になります。
※短編とは内容が異なる部分もあります。
マリスティア・グリンベルグ。グリンベルグ候爵家の長女として生まれて、十四年目の日々を過ごしている。
この日。私は、十五歳から通う事になっている王立魔法学園の下見に来ていた。学園の門を潜り、少し歩いた先に見えて来た立派な建物を見た瞬間。既視感を覚えた。
(あら? この建物。以前にも、私は見掛けた事がある…? いいえ。魔法学園に来たのは、これが初めての筈よ?)
そして。建物に近づき、偶然と言うには出来すぎているのではないかと言いたい位の偶然の出来事に遭遇する。
「きゃっ!」
突然の突風で二つに結っていた髪のリボンのうちの一つが、解けてしまった。
風に飛ばされてしまい、ヒラヒラと、ゆっくり落下して行くリボンを拾いに行こうとした先に、それを拾い上げた人物が居た。
「はい、どうぞ。これは君のリボンだろう? それにしても。久しぶりだね、マリスティア」
癖のないサラリとした金髪に、涼し気な水色の瞳を持つ、十二歳の時から隣国に留学をして居た為、会うのは実に二年ぶりになる、同い年の婚約者。
グリストラ・ハーヴェルニ第二王子が、優しげな微笑みを浮かべながら。私へとリボンを差し出してくれた。
「お…久しぶりですわ、グリストラ殿下」
何とか、それだけは口から出てきたけれど。内心では…
『魔法学院』と『グリストラ』どちらも、聞き覚えがある。
そして、もう一つ。『マリスティア』って――…!!
“うは〜…甘っ、グリストルート甘っ! …けど、この二人。こんなにお花畑な頭でエンディング後は大丈夫なのかな? あ。グリストは第二王子だったな。それなら第一王子が居るから大丈夫なのか…いや、第三王子もあの可愛い容姿の割に曲者っぽかったよね”
突如、脳内に今の私よりも十歳位だろう年上の黒髪の女性が、コントローラーを片手に、テレビ画面に向かってニヤニヤと笑っている場面が浮かんできた。
…え? コントローラー? それに…テレビ?
今の私が知る筈もない物の名称や使い方。……思い、出した。
(嘘ーっ!? よ、よりにもよって! 私が悪役令嬢…!)
私は自分が転生者である事に、この日。気づいてしまった。
…――そして。この世界が前世でクリア済みの乙女ゲー厶の世界だという事に。
一つ思い出した事をキッカケに、他にも幾つか思い出した事があった。
それは、悪役令嬢マリスティアに関する事だ。マリスティアは、グリストラルートだと、一つ年下の異世界人ヒロインに婚約者を取られ、退場(婚約を解消される事から、貴族の世界からは勿論。貴族主義な家からも…という意味で)。その後は…知らない。
何しろゲームでは(グリストラルートの場合だけど)悪役令嬢が退場して、グリストラはヒロインにプロポーズ。そして、メデタシメデタシ!と、なるのだから。
「……ア?マリスティア?」
グリストラの声でハッとする
「も、申し訳ありません。殿下、私のリボンを拾って頂きまして、ありがとうございます」
学園の見学に来た筈だったのだけど、それどころではなくなってしまった私は、結局。グリストラと幾つかの言葉を交わし、学園を後にして来てしまった。まあ、学園内の構造を知るのは入学してからでも大丈夫だろう。
ちなみに、グリストラがなぜ学園にいたかと言えば。最低限の護衛と共に、お忍びで学園の見学(騒ぎになるといけないからと配慮して)と、学園長へと挨拶に来ていたらしい。