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天使と悪魔のジャズ&リズム  作者: 外道男
魔物達の雄叫び
9/11

第3曲・踏み出す一歩は

戦闘に入れない回。


会話がぐだぐだヨ。

⚪︎



みなさん、こんにちは。

明るく楽しく元気よく、をモットーに。

グレイ・ニュートラルです。


風に任せて辿り着いた新たな町で、

なんと、僕に、友達が出来ましたー。

ぱちぱちぱち。


【その説明、何かある度にすんのかてめえ】

「誰に話し掛けてるんだお前」


それはほら、大人の事情?

と言う奴ですよピュアちゃん、守護霊さま。


「うあー、本当に頭のおかしな奴だったあ。家に泊まれって言ったの早まったかなぁ・・・」

【待てこらチビガキ、その言い方だと俺をこいつの不思議ちゃんの一部だと思ってやがるな!】


ピュアちゃんに聞こえてないですよ守護霊さま。


【・・・そうだった!】

「その、な?そういう危ない独り言は人の居ない場所でやった方がいいぞ。な?」


いえいえピュアちゃん。

ほら、この辺りに何か見えませんか?

僕の守護霊さま的な、こう、変な人が。


「あー、そうだなー。凄いなー、守護霊守護霊」

【いつか体を取り戻したら、てめえら真っ先に八つ裂きにしてやるからな・・・!】


まあまあ。抑えて抑えて。



とまあ色々あって、新たな友達、ピュアちゃんのお家に招待されたのでした。


「待て待て、友達?お前とか?」


はい、そうです。友達ですとも。

もう仲良しこよしですよ、僕たち。


「な、納得いかないなぁ。私、さっき拉致されたのに」


ははは。

そう堅い事を言わないで。

柔らかく行きましょう。ね。


「お前がいい加減過ぎるんだよ!」

【チビガキに同意だ】


うぐぅ。仲良いですね二人共。



ふざけるのも程々に。

この町、ヴェントの町と言うそうですが、その町に住んでいる少女、ピュアちゃんのお誘いに甘えてこの屋敷に上がらせて頂きました。

ピュアちゃんはフードを被っていて、水色の髪が綺麗な可愛い女の子です。


「急に褒めても何にも無いぞ。お世辞とかそう言うの要らないからな」


はっはっは。可笑しな事を言いますね。

本心に決まってます。えへん。


「なんで偉そうなんだ。ま、まあ本心なら良いんだ。ーーーそれで、グレイはこれからどうするんだ?」


それは勿論、お金を稼がないといけません。

そうですねえ。


どこかのお店に雇ってもらいましょうか。


「【ど阿呆ォッッ!!】」


ぐわー。二人して怒鳴らないでよ。

なんだいなんだい、真剣に案を出してるのにぃ。


「真剣に考えてソレなのかよ、もうヤダ不安になってきた」

【正常な判断力が欠けてんだよなぁ、コイツ】


んん?

分からないので詳しく教えて下さい。


「お前さ、指名手配されてんだぞ?それも教会の敵、悪魔憑きとしてだ。顔見せて生活出来る訳無いだろ」

【その上に高額の懸賞金だ。バレた瞬間に大勢に命を狙われるぞ】


ああ、そういえばそうでしたっけ。

じゃあ、働くのは止めましょう。

他に何かありますかピュアちゃん。


「お前なぁ・・・。ううん。金を稼げるなら、なんでも良いのか?その、危険な事とかでも」


勿論です。

ヒノデ狩人は命を賭して、ですから。


「その狩人がどうとか知らないけど。それなら酒場に行けばいいよ」


酒場に?なんでまた。

僕はお酒を飲みたい訳では無いのですが。


「あー、それも知らないのか。えっとな、ヴェントの街の酒場は公営でな。分かるか?王国の管理下にあるんだ」


すいません、良く分かんないぜ。

結局僕は何をすればいいのやら。


「最後まで聞けよっ。それでな、中規模の街では酒場がギルドと同じ権限を与えられてるんだ。つまり、酒場に行けば依頼を受けて金を貰えるって事!分かったか?」

【冒険者の飯の種(・・・)だ、それくらい俺でも知ってるぞ】


なるほどなるほど。

つまり酒場で依頼を見つけろ、と言うことですね。

このグレイ君にお任せください。

一気にお金を稼ぐチャンスですから。


【そこまで稼ぐ必要も無いと思うが】

「・・・不安だ。と、とにかく!酒場は不特定多数を受け入れている所だから、顔を隠して行っても怪しまれない筈だ」


分かりました。

では早速出掛けましょう。

何から何まですみませんピュアちゃん。


「礼なんていいよ。・・喋る相手が居ないと退屈するからな」


ですね。お喋りは大事です。



それでは、無事にお金を稼いで帰ってきますね。

行ってきまーす。

ばびゅん。




⚫️




「あ、もう行くのか。嵐のような奴だな・・・」


お喋りな若白髪は颯爽と身を翻して屋敷を飛び出していった。この街に吹く風よりも、留まる事を知らない奴だな、とピュアは何とはなしに笑みを浮かべた。


こんなに自然に笑ったのも久しぶりな気がする。

そっと頬に掌を当てるが、分かるのは肌の温もりだけだ。なんでもない筈なのに、何故だろうか、とても楽しい。


否、違うだろう。

そんな当たり前の事すらも、見えなかったのだろうから。

きっと自分は、この自然な感情をこそ求めていた。

当たり前の日常に戻る機会が欲しかったのだ。



ふと我に返って周囲を見回した。

ーー静かだ。

誰もいない屋敷の空間は、本当にピュア一人には過ぎる物で、自身の小さなの足音さえも奥に引き込まれるように響いていく。


ーーまた、一人か。


慣れている静けさに、ピュアは唐突な寂しさを覚えた。

原因は見当が付く。

今日になって急激に当たり前(・・・・)を取り戻そうとした反動が来たのだ。

この寂しさに、先刻会ったばかりの頭がおかしい若白髪の顔を思い出してしまうのは、それ程までに自分の心が渇いていた証拠に思えて、少しだけ、悲しかった。


一人の時に、寂しさを埋める方法は昔から決まっている。寝室で人形を抱えてぐっすりと眠るのだ。嫌な事から目を背ける為に、心の安息を得る為に。


寝室に向けて歩み始めた瞬間であった。



〜〜ねぇ、あんた〜〜



それは、他に言い表す言葉も無く、激痛であった。

先程、グレイに遭遇した時に感じた痛みとは比べ物にならない程の頭痛がピュアを襲ったのだ。


「うあッ・・!!ぁぅ!」


あまりの痛みにたたらを踏んだピュアは、しかし、幸か不幸か廊下の手摺りにもたれかかる事で無意識のうちに歩みを止めなかった。



〜〜聞こえてんでしょー?〜〜



頭痛と共に、自身に語り掛けてくるナニカが視界にちらつく。


〜〜あたしの事が見えてない訳無いでしょうが〜〜


見るな。見るんじゃない。

それ(・・)を認めてしまえば、もう戻れなくなる。

絶対に認めてはいけないのだ。



〜〜こっちは暇でしょうがないったらないのよ〜〜



「うるっ、さい!お前なんか、知らない!!」


ピュアは手摺りに拳を叩きつけて負の感情を吐き出した。

口から飛び出した叫びは弱々しくも、無人の屋敷に響いていく。

その事に一層、腹が立った。

もう一度、手摺りに感情をぶつける。拳の痛みなど、気にならなかった。


「消えろよ!」



〜〜あ、そう。まだ認めないってワケ。じゃ、いいわよ。一人寂しくベッドに(くる)まってなさい。ベー、だ〜〜



寝室になんとか駆け込んだ際に頭痛は止まり、声も聴こえなくなった。ベッドに飛び込んだピュアは気絶するように眠りについたのだった。




⚫️




ふう、意外と早く酒場まで来れましたね。

屋根づたいに跳んで移動したのは正解だったようです。全く人目に付きませんでした。


【大量の風車が回ってる上でガキ一人が跳び回ってるなんざ思わねぇだろうからな。こう言うのは、街に住み慣れてる奴ほど見落としやすい】


そういう物ですかね。


それにしても、賑わってますねえ。

昼間なのに大勢の人が居ます。


【酒場にギルドの役割があるってチビガキが言ってたろ。半分以上は旅の流れ者だろうよ】


それ以外は酒飲み、と。

皆さん仲良くお酒飲んでますねえ。ヒノデ町のお祭りを思い出します。

ヒノデ町のお祭りと言うのはですね、年に一度狩りの成功を祈って町人総出で狩りをする行事でして。その日の収穫は全部料理にして飲めや歌えやの大騒ぎをするんです。


【てめえが大騒ぎって言うんなら相当な物だな】


そりゃあもう。最後はみんな酔っぱらっててんやわんや(・・・・・・)ですから。

父さんなんて酔い潰れると暴走して焚き火に飛び込んで踊り始めるんですよ?


【お前の親父放っておけば百足野郎(ウルガン)ぶち殺せたよな!なぁ!】


否定はしません。

父さんの口癖『親父さまに出来ない事なんざ無い』でしたから。


気を取り直して、酒場の何処に行けば依頼を受けられますか?


【普通は店主(マスター)自らやってるもんだが】


それではカウンター席へ行きましょう。

突撃じゃあ。


【おい、顔隠さねえと酒場に来た意味が無えだろっ。ーーああ駄目だコイツ聴きやしねえ!】


マスターさぁん。いらっしゃいますかあ。

わっ、サングラス格好いいですね。


「おお、あんがとよ。冒険者志望か?坊・・・主?」


おや。

スキンヘッドにサングラスのマスターさんは僕を見て固まってしまいました。


【バレたな】

バレましたかね。

【お祈りでもするか?したら殺すぞ】

やり方が分かりません。教えて守護霊さま。

【知るわけ無えだろ】

ちぇー。



「・・・いやいや、まさか。指名手配者が堂々と入って来るわきゃねえわな!わはは、すまんすまん坊主。坊主に良く似たモンの顔が出回っててよ。他人の空似って奴かね」


はっはっは。そうですそうです。

僕は狩人改め駆け出し冒険者のグレイむぐぅ。


【切り抜けたそばから自己紹介しようとすんな阿呆!】


はぁい。


「ふうむ・・・。いくら他人の空似でも冒険者の荒くれ共が話を聴いてくれるか分からん。ちょっと待ってろ坊主。ーーーほれっ、マフラーやるから顔は隠しとけ」


わあい。ありがとうマスターさん。

装・着 !



「それで、坊主は依頼を受けに来たんだったか?」


そうなのです。お金を稼ぎにやって来ました。


「そうか、なら今来てる依頼で駆け出しにお薦めなのは、っと。こんなのはどうだ?草原の薬草摘み。下位魔物さえ倒せるなら簡単だな。報酬は銀貨10枚に回復石1つだ」


銀貨10枚(10S)ですか。

1日の糧を得るには十分な額です。

怪我をした時に使う事の出来る回復石を貰えるのも良いですね。ですが、ううん。あまり、やりごたえが無さそうです。

他には何が有りますか?


「やりごたえ、か。そんならこれはどうだ。絶叫トーテム・五体討伐。場所は同じく草原。駆け出しには破格の銀貨50枚!耳栓は自分で用意してくれよ」


絶叫トーテムかあ。大森林でも偶に出るんですよ。

余りの喧しさに獲物が逃げてしまうので父さんは見かけるたびに真っ二つにしてました。

硬い魔物ではありますがやりごたえが有るかと言うと。

ううむ、どうしましょう。

【どんだけ悩むんだよ】

手頃な依頼で済ませたら怒り顔の父さんが夢に出そうなんですよ。

ヤスい(・・・)方に逃げてんじゃねえ馬鹿者!』って。


「これもお気に召さないって?これ以上のとなると、駆け出しにゃ厳しいぜ?」


【言えよ。お前の中ではもう決まってるんだろ】


そうですね。

狩りの最中は絶対悩まない、が鉄則ですから。


マスターさん。

一番高い依頼を受けたいです。


「はあっ!?」

【だよなぁ。てめえはわざわざ壁に体当たりかます奴だからなぁ】


駄目ですかね。マスターさん。


「そりゃお前、一流冒険者に任せてるのと同じのが受けたいってのか?」


その通りです。


「やらせる訳無えだろ!!」


ええ?何故でしょう。


「当たり前だろ。言っちゃ悪いが、お前みたいな駆け出しで、へらへらしてて、いかにも弱っちそうな奴に、危険度の高い依頼なんざ出来る訳ないの!」


【ほうー・・・?】


あれ?恐い顔してますね守護霊さま。

もしかして怒ってますか?


【・・・別にィ?てめえの所為で俺まで弱く見られてるとか思って無えしいっ?】


うわあ。その怒り方、父さんにそっくりです。

怒ってないと言いつつ、一呼吸しない内に雷が落ちるんですよね。


「今のご時世じゃ、藪をつついて悪魔が飛び出して来てもおかしくないんだ。坊主が手に負えない敵に遭遇したって誰も助けちゃくれねえぞ?いいか。泣き喚いて惨めな思いしねぇように、手頃な依頼からーー」



【代われクソガキ】


あれ、体の感覚が無くなりました。

守護霊さまー?何かしましたー?




⚫️




「おい」


公営酒場の主人、ハヤブサは身体を震わせた。

自分が話し掛けていた駆け出し冒険者の少年がカウンターに掌を叩き付けた為だ。

少年の雰囲気に、ハヤブサは呑まれかけていた。




雰囲気や物腰は軽く、冒険への夢や期待に満ちた少年、という風情であった。

第一印象は、凡庸よりも悪い。

ボロボロの装束を見れば、それなりに腕が立つことも考えたが、いかんせん線が細い。酒場に出入りする荒くれ共に言わせると、枯れ木を砕くより容易い、といった所か。貧弱なイメージは拭えそうにも無かった。

その少年が、高難易度の依頼を受けたいと言う。


ロードライト王国のギルド制度は古い時代から受け継がれて来た物だ。

それは元を辿れば、職に就かず広大な大陸を旅する根無し草に間に合わせの職務を宛てがい、給金を出す仕組みであった。仮初めの職務をこなす根無し草達はいつしか冒険者と呼ばれ、冒険者に仕事を斡旋する場としてギルドが誕生した。

今や王国の都市には必ずギルドが置かれるまでになっている。


ギルドは、来るものを拒まない。

しかし、自分の命を軽く見る者は別だ。

何時の時代にも、求められているのは人手なのだ。決して、命知らずではない。

元は冒険者であるハヤブサも、冒険(・・)をして命を落としていった者達を見ている。知っている。

故に、ハヤブサは少年に説教をする事を決めた。

夢を持つのは大いに結構。しかし、死にに行く事だけは、ギルド長の権限を与えられた身として見過ごせない。


そうして、少年に説教をしていたのだが、


・・・急に顔つきが、変わりやがった。


さっきまで、くれてやった安手のマフラーを巻き付けて喜んでいた少年の放つ雰囲気ではない。

目は相手を射殺さんばかりに険しく、鋭い。

小さく、しかし獰猛に歪められた口からは犬歯が覗いている。

あちらこちらに毛先を向けていた髪は少年の変化に呼応したかのようにピンと逆立っている。

ーーそれに、その顔をじっと見ていた訳では無いので判然としないが、瞳の色が紅に染まっていないだろうか。


「おい、マスターよ」


「な、なんだ?」


ありえない考えではあるのだが、ハヤブサには少年の人が変わって見えた(・・・・・・・・・)


ハヤブサはその昔、『ヒゲダルマ』と言う二つ名で鳴らした名うての冒険者だ。

およそ蔑称と大差無い二つ名に当時は難儀したものだが、分かりやすい二つ名は年齢問わずウケが良いと言う点で、名が知れ渡る恩恵は有った。(二つ名で呼ばれると必ず怒鳴り散らしていたが。)


認めたくはないが、一流冒険者としてそれなりに依頼を達成してきたハヤブサが、少年の雰囲気に呑まれていた。

この脊椎まで痺れるような凄味(・・)は正に100年に1人と居ない傑物の放つ物。ハヤブサの記憶を隈なく探しても其れを見たのはただ1人、当代の聖騎士長(マキシマス・レイヤー)くらいのものであった。


「出しな。一番危険度の高い依頼をよォ。あるんだろ?頭抜けてヤバいのが!」


また、ありえない考えが浮かんだ。

突拍子も無い、普段のハヤブサであれば直ぐに考え直す物であるのだが、少年の放つ‘魔性’に当てられた思考は抑えが利かない。



カウンターの下。

埃を被り‘誰にも受注させなくなった依頼書’に、自身の手が重なる。



冒険者としての勘が告げているのだ。

この少年なら、出来るのではないか。

この依頼を、達成出来るのではないか。




「ーー良いぜ坊主。飛びっきりのを出してやる」




⚫️



【おらっ、返すぜ、この体】


わっ。体の感覚が戻ってきた。

少しの間、ムカデちゃんの時のように体が浮かんでいた気がします。

守護霊さま、どうやって入れ替わったのですか。


【クソムカデをぶちのめした時から、なんとなく入れ替わるコツ(・・)が掴めてきた。どうにも、クソガキの肉体は慣れねえがな。動ける時間は1分程度が限界ってとこだ】


おお、凄いですねえ。

【ふふん】

これ、お酒の場でやると大ウケですよ。

【ああ成程、てめえに取っては一発芸と同じ認識って事か ぶっ飛ばすぞオラァッ】

ひいっ。その怒り方も父さんにそっくり。


おっと、話が脱線しかけてます。

マスターさん、一番高い依頼を出してくれるんですか?


「お、おう。・・あらぁ?可笑しいな、さっきまでの凄味が引っ込んじまってる。ま、良いさ。俺も男だ。一度口に出した以上撤回はしねえさ。ーーーこれが、この酒場で一番高く、危険な依頼だ」


そう言うと、マスターさんに紙を手渡されました。

クエストシート(依頼書)と呼ばれる物ですね。


ええと、ふむふむ、

〈剣狼の首領を排除せよ!〉ですか?

しかし随分と色褪せて、年季の入った紙だなあ。


「紙だからな。時間が経てば色も落ちるし文字もかすむさ。依頼の発注から4年も経てば当然そうなる」


なんと、4年も前から残っている依頼とは。


「それも踏まえて説明してやる。坊主は剣狼、バスターブレードウルフって知ってるか?」


おお、うるふ。

‘うるふ’ですよ守護霊さま。

ギラギラ()ギザギザ()モフモフ(毛皮)ですよ。

【うるっせえ黙って話聴いてろ】

はぁい。


「OKOK。知らねえようだから教えてやる。ヴェントの街を北に出てすぐの川を上流に辿っていくと洞窟があるんだよ。特に名前は無いから冒険者の間では風穴(かざあな)なんて呼ばれてる。この洞窟から取れる鉱石、風磨石ってんだが、風を受けると硬度が増して艶も出るから様々な用途で活用されてるんだ。定期的に風に吹かれるこの街にゃピッタリな特産品って訳ーーーおい、気のせいか、立ったまま寝てないか坊主?」


ふわ?んんっ。いえ、聞いていますとも。

それで、その話とうるふに何の関係があるんですか?


「おう、その‘風穴’の生態系のトップに君臨しているのがバスターブレードウルフよ。一般的なオオカミよりも遥かに強靭で獰猛、縄張り意識の強い種だ。最大の特徴は何と言っても 四肢の其々から刃を生やす事の出来る特異な内部構造にある」


おお、かっこいい魔物ですねえ。


「そうだなあ。あの独特な刃の生成音が好きで見に行く奴等もいるくらいだしなぁ。当の魔物は上位魔物だからお勧めは出来ねえがよ。ーーーさぁて、前置きはこれぐらいで良いだろう。このバスターブレードウルフがよ、強くなりだしたんだよ、4年前にな」


強く、ですか?

魔物が強くなった原因はなんでしょう。

【普通なら無理だ。それも、短期間で強くなるなんてのはな】


やっぱりそうですよねー。

僕もそういう経験は無いので分かりません。

・・・いや、一個だけ有ったっけ。


【ほー、あんのか?】


ええ、昔、大森林のハイリザードのボスが代わりまして、優秀な奴に成ったんです。

その時は父さんがボスを金槌落とし(はんまーくらっしゅ)で倒して事なきを得たんですけど、かなり追い詰められたのは事実です。


「良く分かったな、その通りだよ坊主。当時、ギルドが慎重に調査を進めた結果判ったのは、群れの(ボス)が代替わりしてたって事なんだよ」


なるほど。

うるふのボスが優秀になったんですね。


「恐らくはな。そこでギルドは、上位魔物を倒せる実力を持つ一流冒険者に正式な依頼を発注した。〈剣狼の首領を排除せよ!〉。坊主の持ってるそれだ。発注はされたんだ。後はまあ・・分かるだろ?」



4年間(4年間)達成者はいねぇ(達成者はいない)()


「そういうこった。と言っても、帰ってきた者は居たさ。ボスにも遭えずに、重傷負わされて来てな」


それ以外の方々は?


「ーーーきっとボスには遭えたんだろうよ。帰って来ねえ以上、そういう事(・・・・・)なんだろ」


うわお。これは厄介な‘うるふ’みたいです。




「この依頼にはギルドも手を焼いてな。‘風穴’は依頼の対象になりやすい場所で、この辺りの稼ぎ場とも言える。そこに達成者の現れない高難易度依頼があればどうなる。冒険者は依頼で飯食ってる旅人、当然、割りに合わんとなりゃ街を出て行くのが当たり前よ」


そんな物ですかね。

ヒノデ町だと命を懸けない者には狩りをやらせないのですが。

【てめえみてえな命知らず量産する町がまとも(・・・)な訳ねーだろ?】

はっはっは。


「数年前までは結構賑わってたこの酒場から冒険者はどんどん離れて行っちまった。今じゃ良くて中堅冒険者の溜まり場ってとこだ」




⚫️




四年前から、後悔を抱いて生きてきた。

過ちを犯した四年前のあの瞬間から、ハヤブサは殺人の自責に駆られ続けていた。



剣狼の首領を排除せよ!


その依頼書が依頼板に貼られたのは、ハヤブサが公営酒場(ギルド)のマスターとして町に定住してから2年目の事であった。


立場上、依頼の全容は知っていた。

調査を進めてギルド本部へと依頼登録申請をしたのはハヤブサである。

危険度等級(クエストランク)は10等級にして、7。

凶悪な魔物が殆ど出現しないヴェント周辺で過去最高と言える難易度と、それに見合う報酬が付けられた。


難易度に関して、心配は特に無かった。

当時のヴェントは多くの一級冒険者が拠点にしていたのが大きな理由と言える。

それだけ信用出来る面々が居て、(むし)ろ依頼の取り合いを懸念していたのは、軽い慢心だったろうか。


異変を感じ始めたのは2カ月が経過した頃だ。

依頼はまだ、達成報告を受けていない。

それは別に良い。難易度の高い依頼は長い目で見るのが正しい。

しかし、帰って来ていない冒険者が何名かいる。

一カ月も、帰還報告を出していないのである。

依頼を受けたなら、成功であれ失敗であれ生きて帰れ。ギルドは必ず冒険者にそう言い聞かせているのだ。

消えたのは、いずれも剣狼を単独で撃破できる凄腕。冒険者として、ありふれた最悪の結末(・・・・・・・・・・)を迎えたなど想像出来なかった。だから、動けなかった。経験の浅いギルド長には依頼を凍結させると言う判断が下せなかった。

ハヤブサが殺人の罪を背負った最初の過ちである。


依頼が出されてから半年が過ぎた。

未帰還者は10名に上っていた。

冒険者も馬鹿ではない。その依頼の異常性に誰もが気付き、新たに受注しようと言う命知らずは居なくなっていた。


そして、ギルド本部が風穴深部への立ち入りを禁じる、その直前。ハヤブサは最後に1人だけ発注を許してしまった。


『よう!ヒゲダルマくん。お困りのようだね!』

それが後に、明確に殺人を意識した第2の過ち。


『俺にランクの高い依頼を紹介してくれないとは水臭いじゃないか。心配ご無用!頼れる相棒さまの二つ名を忘れたか?』

ハヤブサは、自身が最も頼りにする戦友(とも)を殺したのだ。



友は、帰ってこなかった。



⚪︎




・・・悪い癖だな。


過去を想う内に黙り込んでいる事に気付き、ハヤブサはカウンターの下からシガレットケースを取り出した。

この依頼の事を思い出すとすぐコレだ。

平素の強面に皺が走り、人が見れたものでは無い、とは誰の発言だったか。

この変化には、目の前の少年も所在無さげにマフラーを巻き直している。あ、違う、ミイラごっこしているだけだこの小僧。


ともあれ溜め息を吐くように煙草を吹かし、直ぐにすり潰した。


「坊主。受けなくても良いぞ」


幾分か冷静になってハヤブサは我に返った。

自分は何をしようとしていた。また、(殺し)を重ねるのか。己の過去の清算を、こんな年端も行かぬ子供に託そうというのか。

どうかしていた。なんて無責任な行いか。恥知らずにも限度があろう。


ただそれでも、一縷の望みが有るのなら。



・・・遺体くらいは、拝みたかったよ。



「いやいや、受けますともマスターさん」


目線を上げると、ボロ切れのミイラと目が合った。

こちらの心境など知りもせず、笑っている気がした。


「危険な依頼だって事ァ分かるだろ?死にに行くつもりか?」


最初に説教した時よりも直接的に少年に脅しをかける。

生半可な覚悟で死ぬくらいなら、ここで退いてくれと、ハヤブサは眉間に大きく皺を寄せる。


「死にに行くんじゃありませんから」

少年は、退かなかった。

それどころか、しっかりとハヤブサの眼を見ている。

「生きる為に闘うんですよ」

『おいおい死にに行く訳じゃねえんだから、いつものしかめ面で送り出してくれよ相棒』


自然体から放たれた少年の言葉は、友を思い出させた。

そう、あいつはどんな時でも生きて帰ると言って、困難な依頼に挑む馬鹿だった。

その馬鹿がこの眼(・・・)でハヤブサを見る時は、梃子でも動かないのだ。


「それならーー」

「はい?」


ハヤブサは鍛え上げた右腕を上げて、拳をカウンター越しに突き出した。


「必ず帰ってこい。美味い飯でも作って待っててやる」


ぱちりぱちり、と少年は瞬き、やっと拳の意味が分かったのか、同じく右拳を作ってみせた。


「はい。この僕に任せてくださいマスターさん」

『おうっ!この俺に任せときなヒゲダルマ』


両者は突き出した互いの拳を打ち合わせた。


「へ、その前向きな所が本当にそっくりだな」

「はい?そっくりとは」

「なんでもねえよ。坊主、餞別だ」


ハヤブサは腰に巻きつけたポーチから取り出した回復石を少年に渡した。


「上物の回復石だ。使い方は分かるな?」

「ええ、確か使うと念じて握るんでしたね。ありがとうございます。さて、それでは」

「おお、行ってこい!」


来た時と同様に少年は真っ直ぐに酒場を飛び出していった。




⚫️




一陣の風が吹いた。

その後に、風車の回る音が街の壁面に木霊する。

まるで風に連れられてやって来たかのようであった。

馬車から降りた青年、キティはゆっくりと辺りを見回した。

何故だろうか、気になってしまう。

自身の退屈を全て吹き飛ばすナニカの予感がした。

この寂しい音のする町に一体何が有るのだろう。


もう一度吹いた風に合わせて、キティは(にお)いをかいだ。


「ーーーうん」


やはり、間違い無い。特別な匂い(・・・・・)がした。

この匂いの主ならきっと僕を楽しませてくれる。


まだ、顔も存在すらも分からない相手に、最大級の愛着(殺意)が湧いた。


そうしてキティは町へ一歩踏み出した。


「さて、ヴェントに着きましたね。隊長、これからどうしますか?一先ず宿を借りようと思いますが」

「酒場に行く」

「・・・は?」


誰だっけこいつ。



⚫️

〈おまけ〉



「ヒーハー!」

「ヒ〜ハ〜!!」

「ヒィ〜ハァ〜!!!」


「「「ヒイィィ〜ハアァァ〜!!!!!!」」」




「あ、絶叫トーテムだ」

【うるっっせええ!!】




補足


◯絶叫トーテム

植物型魔物。

叫ぶトーテム。うるさい。

堅く重い材質。

勢い良く倒れるので倒す時は要注意。


◯回復石

回復魔法が施された丸石。

使用の意思をもって握りこむと粉々になり、魔法を周囲に発動させる。

回復魔法の効力によって10等級に区分される。

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