第1曲・史上最悪の悪魔憑き
お久しぶりの投稿。
Part1です。
roar of many monsters.
王都ホーリーバース。
ロードライト王国の中心都市であり、大陸における大自然の象徴‘バース’の名を冠する広大な平原地帯の上に築かれた大都市である。
平原を囲うように流れるリヒテル川流域を都市の境界線として置かれた外壁は、強大な保護魔法によって中位魔物程度であれば寄り付く事も叶わぬ堅固さを誇る。
辛うじて外壁を乗り越えた魔物や悪魔が居たとして、悪しき者が糧を得ることは無い。その先に待つのは、聖騎士団最強と名高い、第一編成部隊と聖騎士長による浄滅のみなのだ。
王都、聖神王教本部・聖騎士詰所。
クリア・ロゥエルは、詰所の白い廊下を真っ直ぐに歩いている。
身に纏う鎧は聖騎士の標準装備である銀の騎士甲冑だ。自身の甲冑は、悪魔との交戦で完全に破壊された為、本来なら革鎧でも見繕っていこうとクリアは考えていたが、部隊長の装備は一定水準の物であれば修理交換が自由である、と先日増援部隊の隊長から教えられ早速利用する事にした。
同様に鎧を駄目にしている副官カイン・レイヤーは、その話を傍聞きして自分に鎧の支給が無いと分かるや絶叫。クリアが必死に押し止めたが程なくして、武者修行と金稼ぎを兼ねた魔物狩りに出掛けたのだった。聖騎士の中で一番の重傷だったのはカイン、の筈。あまりに本人が元気過ぎてその事実を見失いそうになる。
第七編成部隊の遭遇したヒノデ町での悪魔襲撃から早2週間。あの事件より3日後、予定より早くに到着した増援部隊の合流もあり、ヒノデ町の復旧は10日という短期間で成し遂げられた。とは言え、商業面の損害が大きい為、暫くは今まで通りとはいかないだろう。
だが、大丈夫だろう、と根拠のない自信はある。ヒノデ町の住民達は、クリアの出会ってきた中で最も打たれ強く、達観している。そう思えた。
復旧が完了すると、部隊は一部人員を残して王都に帰ってきた。帰ってきたクリアに待っていたのは教会本部・聖騎士長からの召喚要請であった。復旧の間も何度か通信球による報告はしていたが、詳細を確認したいとの事で、こうして詰所に足を運んだのだ。
しばらく歩けば、聖騎士長執務室が見えてきた。同時に、執務室の扉を開けて出てきた人物と視線が交差する。
そして、直ぐに頭を下げた。クリアは相手を見て、珍しいと感じた。聖騎士詰所ではまず見る事の無い人物であるが故に。
「おやあ、これはこれは」
嗄れた声と共に、その男は口の端を吊り上げた。猛禽類を思わせるギラついた眼を光らせ、顔に深く刻まれた皺と蓄えた髭の中にあって尚、相手を小馬鹿にしたような笑みを隠さない老人。その身を包む司教以上の者が着る事を許される礼装は、この聖騎士詰所の中では場違いにさえ思えてくる。
男の名は、ゼピュロス・デルカス。聖神王教の枢機卿で、教会を統括する本部長として辣腕を振るう教会におけるNo.2である。
「おはようございます、猊下」
「君は、そう、クリア・ロゥエル君だね」
「覚えていただけるとは」
「あぁ、畏まらなくて結構。そう言うのは日常的にお腹いっぱいでねえ、クハッ」
言って本部長は更に口を吊り上げた。恐らくジョークの類なのだろうが、この睨み付けるような顔でそれをされると笑うに笑えない。
何よりこの男は、性格が悪い事で有名だ。下手に笑えばその粘着質な嗄れ声で口撃されかねない。しばらくして、ザラついた笑い声がピタリと止まった。
「それよりも、聞いたよ。辺境の、ヒノデ町とやらの任務を無事に、見事に、遂行してきたそうじゃないか。おめでとう、おめでとう」
本部長が皺だらけの手を打ち、情感の無い賞賛の言葉を投げ掛けた。
クリアは泣き出したくなるのをすんでの事で堪えた。第7編成部隊がヒノデ町での任務を遂行したなどと、胸を張って言える筈も無い。聖騎士の責務だなんだと言っておきながら、民の住む町を壊滅一歩手前まで焼き尽くされ、剰え敵に敗北を喫したのだ。
生きて帰ったとはいえ、聖騎士が負けた事には変わり無い。王都に戻ればどんな誹りを受けようとも仕方が無いと腹を括っていた。
だが、帰還したクリアを待っていたのは民からの賞賛であった。
新鋭部隊ながら、ヒノデ町を襲った悪魔を撃退し、被害を出す事無く遠征を終えた。
事実とはまるで違う事柄を述べて己を讃える声にクリアは絶句した。きっと、クリアだけではない。第7編成部隊の皆が悔しさに唇を噛んでいた。
失敗を責められるより遥かに恐ろしい気持ち悪さが心中に有った。
「あの!猊下、私達はーー」
「負けた。とでも言いたいのかねえ」
「!?」
せめて事実を知ってもらおうと口を開こうとして、被せるように言葉で押さえつけられた。今度こそ自分の目には涙が滲んでいた。
「いやはや、私もなにやら不穏な噂は耳にしているよ?確か、誇りある聖騎士が悪魔を相手に惨敗し、悪魔も何処かに姿を晦ませた。とね」
眼光の鋭い笑みがクリアを貫いた。やはり、とクリアは漸く得心が行った。
この人はーーー性格が悪い。
初めから正確に情報を掴んでいてクリアを褒めたのだ、この男は。いかに接すればこちらに精神的打撃を与えられるかを熟知している。
逃げたい、クリアの心の内をそれだけが占めた。
「まあ、気にする事では無いよ」
気付けば隣に立っていたゼピュロスに肩を叩かれていた。
「・・・え?」
「分かっているとも。ただの噂なのだろう?大丈夫、気にする事は無い。護るべき民たちがそのような根も葉も無い噂を信じぬよう、こちらもしっかりと君達、第7編成部隊の活躍を市井に浸透させておいた」
なるほど。
帰還してからの気持ちの悪さの元凶はあなたか。
「しかし、それでは」
嘘を、虚偽の栄誉を認めろと言うのか。そう思っても、最早口には出せなかった。目の前の男が何を言いたいかは、理解しているから。
「君達聖騎士がどう考えているかは知らんが、民からの信仰は教会の全てであり又そうあるべきだ。・・・分かっているな?呉々も、民の不安を煽る要因など作ってくれるな」
「・・・はい」
教会の人間として、その行動には正当性がある。文句など言える筈も無い。
ーー私が、大人になれないだけ、か。
クリアはゼピュロスの言い分を鵜呑みに出来なかった。民にとって不利益な情報を隠蔽する事が、教会の為であり民の為でもある。ゼピュロスはそう言っているのだ。
純粋な心持ちで聖騎士になる事を望んだクリアからすれば、それはどこか倒錯していると感じてしまう。
ゼピュロスはもうこの場を立ち去ろうとしている。クリアは一度礼をして、執務室に入ろうとするが、
「そう言えば」
立ち去ろうとするゼピュロスの声がやけにはっきりと廊下に伝わった。年の割に丸まっていない背をこちらに向けたまま、老体は直立している。
「悪魔憑きの少年が居たそうだが、何故捕らえなかった?」
問いに、僅かに躊躇い、答える。
「・・・・こちらの不手際です。申し訳ありません」
「・・・ふん、そうかい。いや、責めるつもりはない。復興作業もあっただろうしな。だが、なあーー」
ぐるり、ぎょろり、と窪み眼が振り返った。
常に顔を塗り固めた男の本性が、その眼に現れていた。
「ーーまさか、悪魔憑きに情を掛けてはおるまいな?」
「そのような事は」
反射的に、そう答えた。ゼピュロスは、返事を聞き「クハ」と嗤い立ち去った。
⚫️
おわりがくるぞ。
あくにおちたら おわりがくるぞ。
やつはじゃあくをいみきらう。
みえるすべてをはかいして、
そのたましいさえ くだかれる。
かみにすがれば おわりがくるぞ。
やつはひかりをいみきらう。
くろいちからがふりそそぎ、
そのしんこうさえ ちりとかす。
つよくいきなきゃ おわりがくるぞ。
やつはよわさをいみきらう。
どんなところにかくれても、
にげるとかならず おわりがくるぞ。
おわりがくるぞ。おわりがくるぞ。・・・
⚫️
「クリア・ロゥエルです」
「入りたまえ」
執務室の扉を叩く相手に入室を促し、マキシマス・レイヤーは読んでいた本をそっと閉じた。
部屋に入ってきたクリア・ロゥエルは、マキシマスの手元にある本が見えたのか少し眉を上げている。
クリア・ロゥエルは生真面目だが、考えている事が顔に出やすい。彼女はそれを欠点と捉えているが、普段から教会本部長のような食えない手合いと話をするマキシマスからすれば、そのままで良いと思っている。
「気になるかね、いや、珍しいのか」
「あっいや・・・はい。あまり、その、絵本を読むようには見えなかったので。ひ、人の趣味はそれぞれですから私は気にしません!」
正直でよろしい。生真面目さと相俟って、致命的な誤解が生まれている気がしないでもないが。
「少し、この絵本の事を思い出してね。商人のツテから取り寄せたんだ。君も、見た事がないかね?」
「“おわりがくるぞ。”ですか。懐かしいです。子供の頃、読んでもらいました。私はその、苦手でしたが」
確かに。
絵は、黒と赤でのみ着色されたなんとも目に悪い物だ。内容もかなり、子供を怖がらせるような単語の羅列である。
教会に対する当てつけのような内容もあり、著者は後に教会に糾弾された。
「ああ、子供にはこの言葉が良く効くんだ。良い子にしていないとおわりがくるぞ。とね」
子供ながらに、この絵本には漠然とした恐怖感を煽られるのだ。それこそ、魔物や幽霊より恐ろしいなにかを、子供達は共有できていたに違いない。
それ故か、昔からこの本は、しつけには適していた。息子のカインは昔から怖いもの知らずだったが、この絵本を前にしてはそうもいかなかった。
ーー目に涙を溜めて、怖くない、と何度も呟いてな。
「まあ、この本の話は置いておこう。クリア・ロゥエル、無事に帰還できたようで何よりだ」
「はい」
「初の大規模戦闘を経験して、色々と見えてくる物もあっただろう。しばらくは、王都で修練を積むと良い」
「・・・はい」
返事はすれど、クリアの顔つきには力が無い。執務室に入ってきた時から、変わっていないようだ。原因に思考を巡らせて、マキシマスは一度、机を指で叩いた。
「ゼピュロス本部長に会ったか」
「っ・・!はい」
やはり、そうか。だとすれば、生真面目な彼女が落ち込んでいるのも分かる。
『良いかマキシマス。例えこの件、クリア・ロゥエルが望もうともその責任を追及する事は許さぬ。あの娘は王都でも顔の知れた才媛。それが悪魔に負けた?そんな事が流布すれば信仰の失墜は免れん』
『華々しい英雄譚にでもされる心算か』
『甘いな。もう、している』
ーー相変わらず、行動の早い人だからな。
国の、民の幸福の為に、少数の意向や事情など全て上から叩き潰す。何十年も前からそれを実行して、成果を出し、のし上がってきた。それがゼピュロスと言う男だ。
「気にするな、と言うのも無理な話か。だが、こうなってしまった以上は覆す事など出来ない。この悔しさは甘んじて受け入れ、次に活かせ」
「しかし私は、違うのです。真に悪魔を撃退したのは」
「ああ、君から報告のあった、グレイ・ニュートラルか。では改めて、詳細の報告を聞こう」
悪魔憑きの少年が悪魔を撃退した。
報告を聞いてマキシマスは驚いたが、生真面目なクリアが人柄は信頼できると断定までした。クリアの人を見る目を疑いはしないが、そうなると悪魔憑きである事こそが疑問である。
「その少年が最後に悪魔を撃退したのか」
「はい。ウルガンと名乗る百足の悪魔は、黒い魔力を受けて砕け散りました」
申し訳無いのですがそこで気を失い、と続く。マキシマスは部下の謝罪を手で制すと、息を吐くように顔を上げた。
「しかし、そうか。あの悪魔が死んだか」
「ご存知なのですか?」
「ああ。話した事は無かったな。私も、あの悪魔と交戦した事がある」
ゆっくりと机を指で叩く。自分の思考を過去へと切り替える為に。
「あの悪魔と戦ったのは、私の聖騎士としての初任務の時だ。不意に遭遇してな、倒せはしなかったが撃退は容易だった。高く評しても上位魔物程度の強さだったからな」
「そこから成長したのでしょうか」
「ああ、恐らくは。だが、それだけとも思えんが」
成長と言ったが、少し違う。
マキシマスが百足の悪魔と交戦した当時、あの悪魔は既に成長しきっていた。
一度の負けから学んで研鑽を積んだ、と考えるのが妥当な所か。悪魔は人間とは違い、その寿命は果てしなく長い。その分、自己研鑽に充てられる時間は多い。
だが、それでも事態は異常である。悪魔と言えど、高々数十年の時間では、決して己の格を上げる事など出来ない。
外的要因であれば、あるいは。机を、もう一度叩く。
ーー奴は炎の悪魔、だったな。
そういう事か。
「聖騎士長、どうしました?」
思い当たる節はあるものの、それを現状不安定になっているクリアに伝えるのは酷であるとマキシマスは判断した。
「ふむ、何でもない。さて、本題のグレイ・ニュートラルについてだがーー」
クリアが、手を握り締めて深呼吸をする。彼女が何か伝えたい時の準備動作だ。応じて、こちらも姿勢を正した。
「悪魔を撃退したのは少年です。その功績を、認める事は出来ませんか」
クリアはゆっくりと、言葉を作った。内容が機密事項である事は分かっているらしく、その声量は抑え目にしている。
言いたい事は単純だ。悪魔を撃退した功績から、少年の存在を黙認出来ないか、と。そう問うている。
「・・・クリア。君の気持ちは十分に理解しているし、出来る事はしてやりたい。だがーー」
ーー既にこの件は、私の手が届かない所に離れてしまっている。
マキシマスは、絵本の下に敷いていた通達書類をクリアに手渡した。
「これは・・・、っ!?」
クリアの目が見開かれる。
「こ、この文書の内容は本当ですか!?」
「ああ。教会は、悪魔の撃退を聖騎士の物として認めた。同時にヒノデ町の襲撃の責任を、罪を、全て一人の少年に被せる事にしたそうだ」
「そんな!どうにか、出来ませんか・・・」
突き付けられた現実は、クリアにとって到底許容出来るものでは無いだろう。事実を受け止められる彼女だからこそ、辛い筈だ。
『人の営みの中に生まれた害虫なんぞ、さっさと踏み潰してやるのが救いだと思わんかマキシマス?』
ーー本当に、食えないお方だ。
もう一枚の書類を掲げる。先程、ゼピュロス直々に手渡された通達書類である。
「残念だが、な。このような時、教会の・・いや、本部長の根回しの早さには驚かされるよ。既にこんな物を流しているのだから」
「そう、ですか」
新たな書類に目を通してクリアは押し黙ってしまった。
さて、困った。彼女が嘘を嫌うと言えども辛い事実を突き付けるのは時期尚早だったか。部隊の人間から会話下手ですね、などと揶揄われているのに、またやらかしたか。
難しい問題で頭を悩ませるクリアを元気付ける方法など、マキシマスには浮かばない。
「このような報告しか出来なくて済まない」
「いえ、聖騎士長の所為では」
「疲れただろう。今日の所はもう、宿舎に戻りたまえ」
マキシマスは、机に手を掛けて椅子を窓側に向けた。自分に出来るせめてもの気遣いは、クリアの顔を見ない事だと判断したからだ。
「・・感謝致します」
震える声をなんとか絞り出して、クリアは退室した。聖騎士としての責務を忘れる程、彼女は弱くない。明日にはきっと、凛々しい顔付きに戻っているだろう。
それでも、後味の悪さだけは拭えそうもない。マキシマスは一度だけ、大きく穏やかに息を吐いた。
手元には、件の書類がある。写真に切り取られた少年は、ぼんやりとした顔を明後日の方向に向けている。
「史上最悪の悪魔憑き、か」
史上最悪。
その二つ名は、奇しくもあの『絵本』に描かれた存在と同じ物である。偶然であるならば良し。だが、そうでないなら、
世界はどう動く。
呟きに答えは無い。
先程までの空気を残した執務室は居心地が悪く、マキシマスは執務室の窓を開け放した。隙間を縫うように、吹き込んだ風は金色の髪を梳いた。
⚫️
がったんごっとん。
がったんごっとん。
ふわあ、よく眠れました。
皆さんおはようございます。
今日も明るく楽しく元気良く。
僕はグレイ。グレイ・ニュートラル。
ヒノデ町生まれヒノデ町育ちの駆け出し狩人です。
【目覚めたと思ったらまた妙な事を】
おはようございます守護霊さま。
僕が説明しないと皆さんが置いてけぼりですから。
守護霊さまも自己紹介します?
【しねえし、てめえのノリに置いてけぼり食らうのもいつもの事だし、そもそも誰もいねえ所に向かって喋るか馬鹿】
この人は守護霊さま。
この間、僕の背後にポンと現れた悪魔さんです。
【聞けや!】
はあい、聞いてますよぅ。
さてさて、ええと。
僕はどうして荷馬車の上で寝ていたのでしたっけ。
「おや、狩人の坊ちゃん、お目覚めかい」
おはようございます、おじいさん。
藁の上は寝心地が良くてついつい熟睡しちゃいました。
「ほほ、いくらでも休んどくれ。魔物を追い払ってくれた恩返しなんだから」
すみませんねえ。
そうでしたそうでした。思い出したぜ。
昨日、街道の外れをのんびり歩いていると、この行商のおじいさんが魔物に襲われていたので助けたのでした。荷馬車は街道沿いの町を通るそうなので僕らはおじいさんの厚意に甘えて荷台に乗せてもらったのです。いやあ、のんびりと草原を歩くのも良かったけど、時間が掛からないのでこれはらっきぃです。
【普通は戦闘職でもねえ奴が徒歩で行くものじゃねえがな】
ばかもん守護霊さま。
狩人は戦闘職だぜ。
そう言えば、おじいさん。
僕が寝ている間は大丈夫でしたか?
魔物は居ませんでした?
「珍しい事にねえ、魔物は近くを通ってたんだけど、この荷馬車には近付いて来なかったんだよ。きっと、弱い魔物だったし、狩人の坊ちゃんを怖がったんだね」
ほうほう。なるほど。
守護霊さま守護霊さま。
【なんだ】
僕が寝ている間、見張っていてくれたんですね。
【ああ?・・寄ってきた奴が俺を見て勝手に逃げただけだ】
ありがとうございますね。
【止めろ!?気色悪いから礼を言うな!】
あっはっは。
「ああ、そうだ坊ちゃん。さっき別の行商とすれ違ってね、配っといてくれってんで紙の束を受け取ったんだ。多分、手配書か何かだと思うんだが、儂はもう目が良くなくてね、読めやしないから、坊ちゃんが読んでいいよ」
ほほう、手配書ですか。
危険な魔物や人物に懸賞金を出すアレですね。
これはチャンスですよ守護霊さま。
大金を稼いで一文無しのグレイ君から抜け出せますよ。
【生活全般を狩りで補えるてめえに金が必要とも思えんが】
お金が無いと買い物出来ないじゃないですか。
このままだといずれ服も駄目になりますし。
さ、さ。
この手配書でお金を手に入れ易そうなのはっと。
こんなのどうです?
【・・・おい、その手配書、良く見てみろ】
うん?
どれどれ。
⚫️
指名手配書 S級危険人物
〈史上最悪の悪魔憑き〉
グレイ・ニュートラル
・ヒノデ町襲撃事件主犯。
懸賞金 1,000,000G
特徴
・若白髪
・悪魔憑き
悪魔憑きと判断するには、身体のどこかにある異常な部位を発見されたし。
⚫️
【・・・・・・・・・ハァ】
・・・・・・・・・ん?
【おい、質問に答えろ】
はいはい。
なんでしょう守護霊さま。
【この、100万Gってのはどれくらいの額だ?】
そうですねえ。
王国のお金はB、S、G、と言う順番で高くなって、つまりGは1番価値の高い金貨ですから。
一生遊んで暮らせるくらいですかね。
【へえ、質問しといてなんだが聞かなきゃよかった】
ほえぇ、しかし、指名手配ですかー。
守護霊さま僕初めて指名手配
【当たり前だろうが!】
最後まで言わせてよぅ。
まさか、グレイ君の楽しい旅行が早々に逃亡劇になってしまうとは、うぬぬ。
【まあ、悪魔憑きだとか言われてんだからいつかはこうなっただろうがな。予想以上に早かったな。本当に、退屈しねえなお前】
それはもう。
退屈とは無縁のくれいじーぐっどぼぅいですから。
取り敢えず、次の町に着くまでは大人しくしてましょう。
おじいさーん。
すいませんがもう少し寝させてもらいまーす。
「おお、良いよう。ゆっくりしてな坊ちゃん」
よいしょよいしょ。
藁を身体に被せて、と。
おやすみぃ。
⚪︎
どうも皆さん。
僕はグレイ。グレイ・ニュートラル。
つい先日から始まった僕の冒険は、どうやら波乱の幕開けとなったようです。
久しぶりで書き方を忘れてるかも。
守護霊さまは人には見えないが魔物には見えてます。
念の為の人物確認
グレイ・ニュートラル
16歳。狩人。若白髪。
非常に楽観的で頭が軽い。
イカれた良い子。
ゼット(守護霊さま)
悪魔。紅髪。守護霊。
悪魔も天使も許さない激怒マン。つよい(小並感)
怒りっぽいがそれなりに頭は切れる。
Part1でした。