第3曲・日常を謳歌する少年の主張
【お前、俺と一緒に世界を征服しねえか?】
どうも皆さん。グレイ・ニュートラルです。
先ほど、森を燃やそうとしたトカゲちゃんをやっつけました。
そんなこんなで今、守護霊さまからお誘いを受けています。
しかし、世界を征服、ですか。
規模が大きくてグレイ君にはピンと来ませんねえ。
ヒノデ町の中だけでボーッと過ごしてきたものですから。
守護霊さま守護霊さま。
お誘いの意味が分かりません。
【予想外だったぜ。悪魔と人間の魂が一発で適合するなんて事ァな】
あれ、世界を征服するお話では。
守護霊さまの話は難しくておいてけぼりだぜ。
【まぁ聞け。つまり、今のてめえは俺の、悪魔の力を十全に、下手すると十全以上に扱える訳だ。ーーー敵う相手なんざいる訳がねえ、そう思わねえか】
あれ、世界を征服するお話では。
守護霊さまの話は難しくておいてけぼりだぜ。
【聞けやっ!!そして察しが悪いんだてめえはよ!】
いやいや、ちゃんと聞いてますよう。
つまり、あれですね、ええと、その。
はい、そういう事です。
【黙って聞いてろ、な?】
はあい。
【俺の力を十全に扱えるんだ。てめえは今や最強の魔人になれる男だ、いや、ならんと俺が許さん】
へえ、ほお。ふむふむ。
あ、どうぞ、続けて下さい。
【誰も俺達を止める事は出来ねえ。邪魔する奴らはぶっ壊してやれ、天使も、悪魔も、神でさえもな】
むにゃむにゃ。くかー。すぴー。
ふわぁ、あ、どうぞ、続けて下さい。
【お前なら、俺達なら、世界を征服するのも夢じゃねえ!どうだ、クソガキ!】
えっ、えっ。
どうと言われましても。
ええっと、質問していいですか。
【おう】
どうして、守護霊さまは世界を征服したいんですか?
【ああ?決まってんだろがよ。壊してえからだ】
壊したい?
物騒ですねえ。
【気に入らねえんだよ何もかもが!悪魔も天使も、人間もだ!こんな世界、俺が全部ぶっ壊して天辺に立ってやる、世界征服ってのは、そういう意味だ】
なるほどぉ。
あ、カンカンと狩りの終わりの鐘が鳴っていますね。
いつもより少し早いですが、帰りましょうか。
【あ、おい!?返事を聞かせろ!】
難しいお話は一旦すとっぷですー。
狩りの終わりの鐘が鳴ったら帰る。
これは決まり事ですから。
守らないと父さんに殴られてしまいます。
さ、今日の収穫はボアだけですが、大物なので許してもらえるでしょう。
あれ。ボアちゃんはどこですか。
ボアちゃーん。猪ちゃーん。どこに置いたかな?
守護霊さま知りませんか。
あっ、もしかしてお腹空いてました?
【食ってねえわっ!・・・てめえの足下のそれじゃねえのか】
うん?足下ですか?
わあ、見事な黒炭ですねえ。
これがあの猪ちゃんですかあ。
【てめえがトカゲ野郎の攻撃避ける途中で投げ捨てたんだろうが】
あー、そうでしたっけ。
炭かあ、これじゃ駄目だ。
父さんに殴られるの確実になりました。
くそぅ。
せめて丸焼きなら、丸焼きなら美味しそうだから焼きましたで説得できたのに!
【それで説得出来るのかよ】
出来ますよ、うちの父さん、食いしん坊ですから。
さぁて、それじゃあ帰りましょう。
はあ、気が重いなあ。
⚪︎
「・・・それで、生け捕ったボアを丸焼きにしようとして逃げられた、だと?」
そうなんです父さん。
いやあ、グレイ君、痛恨のミステイクでした。
狩りの服も少し焦げちゃいました。
【こんな事で嘘つく必要あんのか?】
それはですね守護霊さま。
僕が森の奥に入って、大樹の周辺をボロボロにしてきました。
なんて、自然を愛するヒノデ狩人の父さんに言えば、拳骨は免れず、1年くらいお小遣い貰えなくなります。
「こんのっ、馬鹿者がああっ!!」
ピャー、やっぱり拳骨は貰うのですね。ぐええ。
ごめんなさい、大物を逃がして。
「逃げられた事はいい、それは大目に見てやる」
え、本当ですか。
ありがたや父さん。よっ、狩人の鑑。
「だがな、ーー血抜きもしねえで丸焼きにしようたあどう言う了見だあっ!!」
【そこで一番キレるのかよ】
ぎゃー。2発目頂きましたあ。
ね、守護霊さま、言ったでしょう?
うちの父さん食にうるさいですから。
「やかましいっ、さっきから誰に話してやがんだグレイ!」
そうだ父さんに紹介しておこう。
こちら、守護霊さまです。
【守護霊じゃねえって、おい】
「・・・グレイ、お前はまたおかしな事を。前みてえに毒キノコでも食ったんじゃねえだろうな」
ああ、あの時は教会の屋根の十字架から鳥の羽2本で飛ぼうとしたんだっけ。
しばらくの間、シブい顔したお医者さんに診てもらいましたねえ。
「馬鹿、町の医者は教会の人間だぞ。ありゃもう異教徒を見る目だったわ」
【てめえは昔からそんなんだったのか・・・】
それにしてもおかしな事とはなんですか父さん。
ほら、ここに居るでしょう守護霊さま。
「馬鹿言ってねえで帰るぞ!」
あれあれ、どうして守護霊さまを無視するのですパパ。
もしかして、守護霊さま、虐められてます?
【違うわ!・・・恐らくは、俺の存在はてめえ以外に見えてねえんだろうな。フンッ、好都合だ】
ははぁ、つまり、影が薄いというアレですね。
大丈夫です。僕は守護霊さまの友達ですよ。
【お前覚えとけよ!夢の中で嫌がらせしてやるからな!】
夢の中まで会えるなんて嬉しいです守護霊さま。
【マジで何なんだこのガキ・・・!】
ヒノデ町の駆け出し狩人、グレイ君です。
「早く来いグレイ!今日の狩りは終いだ」
あ、そうですそうです。
今日の狩りは随分と早くに終わっちゃうんですね父さん。
いつもなら夕方までやりますよね。
「ああ。どうやら、聖騎士の連中が組合に指示してきたらしい」
聖騎士さんが?
珍しい事もあるものですね。
「今日はでけえ地震があったろ?それが上位の魔物の仕業かもしれねえから、だとよ」
そうなんですか。
なら、仕方ないね。
これで今日はボーッと出来るのです。
「お前は収穫無しだから罰で薪割りだ」
なんですと。
⚪︎
ぱっかーん。
おりゃあ。そりゃあ。
切り株で薪割りをしていますグレイ君です。
しかし、謀られましたよ父さん。
今までは何かしらの収穫が有ったのでこんな罰があるとは知りませんでした。
町の入り口付近に薪割り場があるとは知っていましたけど。
さあ父さんからは夕方までやっておけと言われたのでキリキリ薪割りだぜ。
ぱっかんぱっかん。
薪割りは根気のいる作業ですね。
力の入れ具合を間違えるとすぐに丸太が切れなくなりますから。
切った丸太もすぐには使えないそうですから集中の続かないグレイ君の精神疲労は更に倍。
【ああ。お前、多重人格かってくらい移り変わり速そうだよな】
失礼ですね守護霊さま。
ちょっと目移りしやすいだけです。
今は大丈夫ですから。
絵本のウサギさんくらい調子が良いですから。
【調子乗って後で負けるやつだろ!】
そうだっけ?
それにしても調子が良いなあ。
前に薪割りした時は中々に苦戦した気もします。
【言ったろ。今のお前は人間じゃねえ。その程度で疲れが来るかよ】
ああ、そうでした。
凄いんですねえ、魔人ぼでぃ。
【お前、頭が空っぽって言われるだろ】
おお、正解です。
やりますね守護霊さま。
「おや?グレイ君、今日は薪割りかね」
こんにちは商人のおじさん。
いやあ、今日は狩りの方が駄目だったので、父さんに薪割りを頼まれたのです。
「はは、グランさんは厳しいだろうけど頑張りなさい。それにしても凄いじゃないか。今まで狩りは全部収穫があったんだろ?」
凄いんですか?
あんまり良く分かりませんけど。
「私がヒノデ町で住み始めてから、君ぐらいの年で狩りをこなしている子は見た事無いからね。聞いた話だと、グランさんもそうだったらしいじゃないか」
うんうん。
やっぱり父さんは昔から父さんでしたか。
始めて狩りに連れて行ってもらった時、僕を背負ったまま大森林を走り回っていたのは良い思い出です。
【間違いなくてめえの親父だな】
当たり前じゃないですか守護霊さま。
「うちもお宅の元気の良さにあやかりたいね。それじゃあ頑張りな」
はあい。
お元気でー。
薪割りは大変ですけど、こうして行き交う人とお話が出来るのは嬉しいですね。
ほら、また誰か町に入って来ましたね。
おや、あの人は、朝にお話をした聖騎士さんです。
聖騎士のお姉さーん。
「ん?ああ、今朝の少年か。元気かい?」
もちろんです。
聖騎士さんは、少し、疲れているように見えます。
大丈夫ですか。
「っ!ああ、分かってしまうか。こちらは色々とごたついていてな、やる事が沢山だよ」
そうなんですか。
頑張ってくださいね。
「うむ。っとそうだ、君にも伝えておこう。今のグロウ大森林は少し、いや、かなり危険だ。立ち入らないようにな。出来れば町を出るのも控えて欲しい」
はあい。分かりました。
そういえば父さん言ってましたね。
上位魔物が出た、とか。
「そうだ。私もまだ姿は見ていないが森の中心部、それも大樹グロウバース付近に居座っている可能性が高い」
ああ、やっぱり大樹の近くは危険だったのですか。
早く帰って来て良かった良かった。
「・・・なにっ!?君は中心部に近づいたのか!?」
そうなんです。ごめんなさい。
父さんにはどうか秘密にしておいてくださいね。
「怪我は無いか!常でさえ君のような子供では敵わない中位魔物が出るというのに」
はい、大丈夫でしたよ。
魔物には遭いましたけど、それも守護霊さまが、もがもが。
「ん?何だって?」
いえいえ、とにかく大丈夫でした。
心配してくれてありがとうございます。
お仕事、頑張ってください。
「あ、ああ、君もな。くれぐれも気を付けてな」
はあい。
またねお姉さん。
ふぅ。
もう、いきなり何するんですか守護霊さま。
話してる最中に口を塞ぐなんて。
【馬鹿かてめえは!?いや、馬鹿だったなてめえは!聖騎士に俺の事を話してどうなるかも分からんのか!】
んん?
何かありましたっけ。
広場でお祭とかですか?
【広場で吊るし首にされるぞ】
わぁお。
【教会にとって悪魔ってのは禁忌だ。悪魔と関わってる奴を生かしておく程あのクソ共は優しくねえぞ】
分かりました。
守護霊さまの事は僕だけの秘密ですね。
【フンッ。分かればいい】
さあさ、お喋りもほどほどに。
再び作業を始めましょう。
ぱっかんぱっかん・・・
⚫️
じきに、夜の帳がヒノデ町に下りる。
自然と共に生きるという立場を長い間続けてきたヒノデ町は、日の出・日の入りにしても分かりやすく出来ていた。
町の入り口を四方に置き、日の出は真東の街道から登り、日の入りは真西、グロウ大森林の大樹に吸い込まれるように沈んでいく。
夕刻を過ぎた町が闇に呑まれるのは一瞬であり、太陽が大樹に掛かると同時に、町の各所で松明の火が灯るのだ。
「ふぅ・・・」
ヒノデ町、聖騎士宿舎。
クリア・ロゥエルは自身の物である白銀の騎士甲冑を外すとベッドに腰掛けた。
向かいの姿見に写る蒼髪の自分は幼子のようで、騎士と呼べない程に弱っていた。
思い出すのは、やはり今日の任務中の件だ。
聖騎士団第7編成部隊は、任務中に発生した2つの想定外を受けて、急遽帰還。
ヒノデ町の組合に働きかけて厳戒態勢を取っていた。
1つは、中位魔物ハイリザードの乱入。
そして、
ーー今思い出すだけでも震えるか・・・。
クリアは、震え始めていた己の足に拳を落とすとため息を吐いた。
自分では、到底敵わない。
あの時、大森林を突き破るように飛び出した魔力の残滓は、クリアの心に畏怖を植え付けるに十分な波動を放っていた。
決して、自惚れてはいないが、自分でこれなのだ。
隊員たちに不安が広がっているのは確実だろう。
「駄目だ駄目だ、私がこんな事言ってちゃ。しっかりしなきゃ」
日頃気を付けている言葉遣いが崩れる程には弱気になってしまっている。
だが、自分は部隊長で、誇りある聖騎士だ。
何時までも弱ったままでは部隊の士気に関わる。
それに、やるべき事はまだ残っている。
クリアは鞄から支給品の魔法道具を取り出した。
片手で持てるほどの球体、通信球。
聖騎士仕様の物で、本来透明な球の中心が白く輝いている。
クリアが通信球に意思を込めると、一瞬の雑音が混じり、通信成功の鈴の音が鳴った。
[こちら、ロードライト王国・聖騎士団長レイヤーだ。貴公の所属を問う]
格式ばった、重く良く通る声が通信球越しに響く。
通信の相手はマキシマス・レイヤー。
聖騎士団のトップに座する、王国最強の騎士である。
「は!聖騎士団第7編成部隊長、クリア・ロゥエルであります!ヒノデ町近隣及びグロウ大森林の調査の報告の為、通信を取らせていただきました!」
[ふむ。そちらでの任務開始から1週間ほどしか経っていないが・・・。何か、変化が有ったのか?]
「はい。本日任務中、グロウ大森林周辺にて部隊は魔物の群れと交戦しました。魔物の数が増えてきているのは確実かと」
[そうか。それだけか?]
あくまで冷静な問いかけに、クリアはほんの僅かに気後れした。
今日の出来事だけで大きく動揺している自身が、少し情けなくなったのだ。
通信球を持っていない右手を、強く握り込んだ。
「・・・いえ。魔物との交戦中、中位魔物のハイリザードが乱入してきました」
[ほう、ハイリザードか。大森林の奥地に生息している筈だな。魔物の生態系にも影響が出ていると考えるべきか]
「まだ不明ですが、その事で進言があります」
[推測だが、君の懸念はそこにあるのではないか?]
ーー流石だな、これは経験の差、か。
通信球での会話のみで自身が弱気になっている事を悟られている。
この人に対して、言葉を選ぶ必要は無い。
クリアはそう判断した。
「仰る通りです。そのハイリザードですが、自身の住処を捨て、逃げ出して来たのではないかと愚考いたします」
[そうか、では述べよ。ーー何を予想している]
隊員を不安にさせない為に敢えて口には出さなかった予想を、述べる。
「大森林の中心部のどこかに、上位魔物・・・いいえ、悪魔が潜伏している可能性があります」
[そうか]
少しだけ、間が置かれる。
机を2度、指で叩く音が聞こえた。
マキシマスが考え事をする時の癖だ。
[駿馬でもそちらに人員を当てるには2日は掛かるな。それまでに悪魔の居場所を特定する事は可能か?]
「・・・難しいかと。周辺地理の把握と調査を優先した為に大森林の探索を後に回していました。申し訳ありません」
[いや、いい。妥当な判断だ。なら、増援が来るまで中心部の探索は控えろ。今の状態で遭遇するのが一番不味い]
「・・・っ!分かりました」
悔しかった。
言外に、お前では力不足だと断じられたようで。
その事実を否定出来ない自分が、許せなかった。
[焦るな、クリア・ロゥエル!!]
「は、はい!?」
唐突に強烈な叱咤を受けて通信球を落としかけた。
思わず背をピンと張るが、通信球から聞こえてきたのは先ほどまでとは違う優しげな声音であった。
[私は不器用だからな。必ず強くなれる、そんな指南は出来ない。だが、強くなれる条件なんてのはな、1つしか無いんだ]
「それは・・・?」
[諦めずに、生きて帰る事だ。今日を精一杯生き抜く者に力が培われていく、私はそう思うよ]
「そう、なのでしょうか」
今はまだ力及ばずとも、いつか私も強くなれるのだろうか。
[ああ、焦らずとも、君なら強くなれる。期待しているよ。ああ、ついでに愚息も鍛えてやってくれ]
カインは剣の腕ばかりで他はからきしでな、と続く。
確かに。
副官のくせに事務仕事を丸投げする奴がどこにいる。
副官への愚痴で少し場が緩むが、マキシマスが咳払いをして話を戻した。
[では、合流するまでの調査は君に任せる。無事でいたまえ]
「はっ!ありがとうございました!」
⚪︎
聖騎士宿舎、食堂。
食堂では騎士達が揃って食事を取っていた。
クリアは、明日の伝達の為に食堂の前まで来たが、昼間の一件で自身が弱気になってしまった事もあり、入るのに尻込みしていた。
すると、
「俺はもう嫌だぜこんな調査続けんのは」
1人の兵士の呟きだったが、それはすぐに伝播する。
「だよなあ、調査するたびに魔物との交戦。割に合わんよなぁ」
「ははあ、お前給料の良さに目が眩んで騎士になったクチか?」
「いいだろう別に」
ーーーやはり、不満の声も多いのか。
クリアは教会の教義の下で、聖騎士に憧れてこの世界に足を踏み入れた。
聖騎士は、民の為、神に誓いを立てて魔を討ち払うべし。
聖神王教の教典に書いてある一文である。
崇高な使命に生きるのは、とても素晴らしい事だ。
今でもその思いは変わらない。
「今日のだって突然ハイリザードが来るんだもんなあ。何度逃げようと思ったことか」
「あんなの相手にするのは隊長とか強い人に任せた方が早いってのに」
そうじゃない人間の方が多いのは分かっていた。
それでも、魔物を討伐する使命に不満を抱いて欲しくはなかった。
「その後のアレの方がヤバかっただろ。俺漏らしそうになっちまったよ」
「あれ絶対、クリア隊長もビビってたよなあ」
ーーー・・・・・っ!!
「隊長があれじゃ不安にもなるってもんだ」
「ま、あんまし強い魔物が出た時は逃げたら良いんだよ、俺たちみてえな下っ端は」
「おい」
「んあ?ぐへっ!」
話を続けていた兵士を、カイン・レイヤーが殴り飛ばした。
「か、カイン副官!?」
「なに寝惚けた事言ってんだオイ、なぁ!?」
カインは、そのまま倒れた兵士に掴みかかった。
「割に合わんだァ?不安だ?そんで逃げたいだと!?ふざけてんのかてめえら!!」
カインの怒気に食堂の喧騒が瞬時に消えた。
「ふ、副官殿っ。俺たちはただ生きて帰りたいだけで」
「別に、生き残りたいってのは普通の願いだ。んな事に目くじら立てやしねえよ。だがなぁ」
カインは兵士の胸ぐらを持ち上げ、その茶髪を逆立たせた。
「何の為のてめえらだ!?何の為の聖騎士だ!!強い奴に任せて楽がしてえか!てめえらがそんな怠慢で誰を守れるってんだ!!生き残る為の精一杯もこなせねえなら、てめえらは一生弱いままだろうが!!!」
「は、はいぃぃ!!」
ーーー生意気ではあるが、親子だな。言う事がそっくりだ。
聖騎士団長の高潔な精神を、副官は受け継いでいる。
間違いない。カインは強くなれる。
なら、私もそうあらねばな。
「そこまでだカイン。下ろしてやれ」
「隊長・・・チッ!」
クリアが現れた事で、隊員達は急速に姿勢を整えた。
「明日の早朝だが、グロウ大森林を軽く調査する。それからは町の警戒を強め、王国からの増援を待つ事となる!分かったか!」
全員の返事を聞き、クリアは踵を返した。
食堂を出ようとして、ふと立ち止まる。
「そうだ。カイン」
「・・・・・なんすか」
「ありがとう」
これだけは言っておかなければならない。
不甲斐ない隊長に代わって風紀を正してくれた副官へ。
「礼を言われる理由が無いっす」
「そうか、では命令だ。生きて帰るぞ」
「へっ、当たり前でしょうが!」
それで良い。
私はお前達を死なせはしない。
⚫️
しゃこしゃこ。
どうも。グレイ・ニュートラルです。
ブラシで歯を磨いています。
いやあ、晩ごはんの牡丹鍋はおいしかったですねえ。
美味しいから何杯でもいけちゃいました。
【あの大鍋がたった2人に食い尽くされるのは傍から見てて気持ち悪かったがな】
それはほら、僕も父さんも食いしん坊ですから。
僕はボアを持ち帰るのに失敗しましたが、
今日の狩りで父さんはボアを3体も倒していたそうです。
さすが、本家はんまーくらっしゅは格が違います。
さあ、歯みがきも済んだので寝るとしましょう。
ふっかふかのお布団に、とうっ。ばふ。
【おい、待て】
はい、なんでしょう守護霊さま。
【今日1日は待ってやったがもう返事を聞かせてもらうぜ】
ああ、そうでしたね。
世界を征服するお話、でしたか。
【そうだ、もう猶予もねえ。聞かせろお前の答えを】
はあい。
分かりました。
お断りしまぁす。